【裁判例】休職・復職が問題になった事案に関して弁護士が解説

1 休職とは?

 休職とは、使用者である会社が、ある従業員について、就労させることができない、または就労させることが不適当であると判断した場合に、雇用契約を継続しながら、就労を免除し、または禁止する制度のことです。
 民間企業の休職制度については、特に法令による規制はありませんので、休職制度を設けるか否かは各会社の自由になります。制度の種類、内容(休職の対象事由、有給・無給、期間その他)も、一般の法令や公序良俗などに違反しない限り、会社の裁量に委ねられます。
 拙稿「【揉めない人事労務】うつ病に罹患した従業員に対する労務管理について」でもご紹介させていただきましたとおり、昨今うつ病を始めとする精神疾患に罹患する従業員の数は増えております。精神疾患に関しては業務に起因して発症したか否かという業務起因性の問題と、休職した従業員の復職の可否や復職後の再度の休職の問題が挙げられます。そして、かかる対応に苦労をされる会社も多くあると考えられます。
 そこで、本稿では、実際に復職の可否が問題となった裁判例をご紹介し、皆様に休職・復職にあたってどこに注意をすべきかについてご紹介させていただきます。

2 休職に関して最近問題となった事案(横浜地判令和3年12月23日)

(1)事案の概要

 原告である会社の従業員が、適応障害を発症し、被告である会社から私傷病休職を命じられ、休職期間の満了により自然退職とされたため、復職要件を満たしていたと主張し、雇用契約上の従業員としての地位確認と雇用契約に基づく賃金請求を求めた事案です。
 会社では以下のような内容の休職・復職に関する規定が定められていました。
 第75条
 1 従業員が次の各号の一に該当する場合は休職を命ずる。
 ⑴ 業務外の傷病によって長期の療養を要するとき
 2 前項第1号により休職を命じられた場合であって、その期間が1カ月以上に及ぶときは、1力月毎に医師の診断書を提供しなければならない。
 第79条
 休職中に休職の理由が消滅した者は復職させる。ただし、第75条第1号により休職中の者が復職する場合は、会社の指定する医師の診断を受けかつ会社の許可を得なければならない。

 当該従業員の方は、職場で頻繁に泣き出すようになり、産業医及び当該従業員の両親の同席のもと面談が行われた際も、突如面談をしている部屋から自席に戻り、涙を流して身体を硬直させ、問いかけに対しても全く動かない状態になりました。その翌日、当該従業員は、クリニックを受診して「適応障害(情緒の障害を主とするもの)」「症状のため、現時点では労務の継続は困難な状態であると判断する」との診断を受けました。有給の取得及び病気欠勤を経て、会社は私傷病休職を命じ、休職期間満了日時点で復職可能な状態であるとは認められないとして、自然退職としました。
 なお当該従業員に関しては、休職期間満了前に産業医から復職可能との判断を受けていたものの、会社は、従業員自身の能力発達の特性を受容できていないこと、意図することが伝わらず双方向コミュニケーションが成立しない場面が多いこと等を挙げ、復職を不可と判断しました。

(2)裁判所の判断

 裁判所は、以下のとおり論じ、最終的に休職期間満了により自然退職としたことは無効であると判断し、休職期間満了日以降も従業員としての地位があるとして、給与の支払がストップした日より後の賃金の支払を命じました。
 ① 復職の要件である「休職の理由が消滅した」とは、原則として「従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合」をいう。
 ② 職務を通常の程度に行える労働能力を欠くことは普通解雇理由ともなり得る。
 ③ 私傷病発症前の職務遂行のレベル以上のものに至っていないことを理由に休職期間の満了により自然退職とすることは、解雇権濫用法理の適用を受けることなく、休職期間満了による雇用契約の終了という法的効果を生じさせることになり、労働者保護に欠ける。
 ④ ある傷病について発令された私傷病休職発令に係る休職期間が満了する時点で、当該傷病の症状は、私傷病発症前の職務遂行のレベルの労働を提供することに支障がない程度にまで軽快したものの、当該傷病とは別の事情により「他の通常の従業員を想定して設定した『従前の職務を通常の程度に行える健康状態』」に至っていないときに、労働契約の債務の本旨に従った履行の提供ができないとして、休職期間満了により自然退職とすることはできない。
 ⑤ 本件では、休職期間満了時には、適応障害の症状のために生じていた従前の職務を通常の程度に行うことのできないような健康状態の悪化は解消されており、会社が列挙した復職を不可とした各事由については休職理由とは別であり、このことは、解雇権濫用法理の適用を受けることなく、休職期間満了により退職という効果を生じさせるに等しく許されない。

(3)実務における注意点

 本裁判例に従うと、休職命令の発令の時点で休職事由とされた傷病が治癒し、これにより復職可能であるとの診断書が提出されていれば、他に業務に支障のある事情が生じていたとしても、復職を認めなければならないこととなります。もっとも、当該裁判例に対しては、上記のとおり、他に業務に支障のある事情が生じていたとしても復職を認めなければならず、これは債務の本旨に従った労務の提供ができる状態でなく、普通解雇事由に当たる事情がある場合でも復職を認めなければならないという不可解な判断であるという批判もされています。この点、「業務に支障のある事情」が、私傷病に起因するということであればこれを休職事由とすることに何ら問題はないはずであるものの、入社当初から有していた特性ということであれば、私傷病ではないため、休職の問題ではなく解雇の可否の問題になるという整理自体は可能ですが、実際問題として私傷病であるのか、入社からの特性であるかの認定は非常に困難であると考えます。
 そのため、会社としては、業務への支障が出ていることについて明確に私傷病であるという判断ができない段階では、あくまでも当該支障は特性に起因するものであるということを念頭に置き、私傷病が治癒したと判断されれば復職自体は認めつつ、その後の就業状況から解雇事由となり得る事情をより多く集めるという対応を取ることで、退職を無効とされることを回避できたと考えます。

3 当事務所でできること

 本稿では、復職の可否が問題となった裁判例を通じて、休職・復職に関する裁判所の判断やこれを前提とした実務における留意点等についてご紹介しましたが、対応を誤った場合に会社が受けるリスクが非常に大きく、その一方で適切な対応をとることの難しさもご理解いただけたと思います。
 当事務所では、日常的に問題のある従業員に対する対応やうつ病に罹患したあるいは罹患の疑いのある従業員に対する対応についてご相談を受け付けており、迅速かつ適切な対応をアドバイスさせていただいております。実際に問題が起こっている会社様も、今後休職・復職に関する制度の構築等について検討をされている会社様も、お気軽にご相談ください。

新留治 弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士執筆者:新留 治

弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。2016年に弁護士登録以降、個人案件から上場企業間のM&A、法人破産等の法人案件まで幅広い案件に携わっている。特に、人事労務分野において、突発的な残業代請求、不当解雇によるバックペイ請求、労基署調査などの対応はもちろん、問題従業員対応、社内規程整備といった日常的な相談対応により、いかに紛争を事前に予防することに注力し、クライアントファーストのリーガルサービスの提供を行っている。

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