中小企業が同一賃金同一労働に対してすべきこと

Labor Issues

1. はじめに

前回の記事では、同一労働同一賃金に係る不合理な待遇差の判断方法、従業員に対する待遇の説明について具体例を示しながら説明しました。

今回は、不合理な待遇差の判断方法に従って、不合理な待遇差が存在すると判断された場合における、中小企業が行うべき不合理な待遇差の是正方法及び同一労働同一賃金のルールに違反した場合のリスクについてご説明します。

2. 不合理な待遇差の是正方法

不合理な待遇差の判断方法(具体的な判断方法は前回記事の同一労働同一賃金への具体的な対応(ステップ①~③)を参照)に従って点検した結果、不合理な待遇差がある場合には、不合理な待遇差の是正を行うことが必要となります。

不合理な待遇差の是正については、格差是正に向けた検討を行うべき事項や必要な手続きを洗い出し、計画的に進めることが求められます。
また、これらの準備・実行には一定の時間が必要となりますので、出来る限り早めに対策を行うことが重要となります。

以下では、具体的に不合理な待遇差の是正策に係る検討方法の手順について大きく下記の3つの手順に分けて説明します。

 

(1)手順①

是正が必要となる不合理な待遇差について、その待遇差の「性質・目的」(待遇差の性質・目的の概要については前回記事を参照)に応じた考慮要素に基づき、対応方針を決定します。

例えば、これまで取組対象となる非正規社員にはその手当を支給していなかったが、今後は比較対象となる正社員との責任の差異に応じた支給額でその手当を支給するといった対応方針を定めます。

(2)手順②

上記①で決定した対応方針について、必要がある場合には労働組合あるいは従業員の過半数を代表とする従業員と話し合いを行い、労使合意を形成します。

特に、正社員に支給されているが非正規社員には支給されていなかった手当を廃止する等、不合理な待遇差を解消するために正社員の待遇を引き下げること(不利益変更)を行う場合には、原則として労使合意が必要となることに注意が必要です。

(3)手順③

上記①②の方針や合意に基づき、就業規則、賃金規程といった各種規程・制度の見直し・改定を行い、改定後の各種規程・制度を従業員に対して周知します。また、他の待遇の見直しや給与システムの改修などが必要となる場合もあります。

例えば、非正規社員に対しても賃金を決定する仕組みを作り、正社員との均等待遇と均衡待遇の関係を整理した賃金制度や資格等級制度を整備していく方法があります。具体的には、等級制度の対象を正社員だけではなく非正規社員にまで広げ、その正社員と非正規社員の等級の関係を明確にし、その等級制度と賃金制度の関係の整合性を整えます。この制度を整備する際には、正社員と非正規社員の等級等が重なる部分は均等待遇の対象となり、賃金額等の待遇を正社員と非正規社員とで同じに取り扱うことが求められます。他方で、等級等が一致しない部分は均衡待遇が問われ、それが不合理でないといえる理由が適切に説明できるようにすることが求められます。

3. 同一労働同一賃金のルールに違反した場合のリスク

(1)従業員から損害賠償請求を受けるリスク

同一労働同一賃金のルールに違反して不合理な待遇を行っていたとしても法律上、罰則はありません。

ただし、同一労働同一賃金のルールに違反する内容の労働契約を非正規社員との間で締結した場合には、ルールに違反する部分の労働契約の合意が無効になる可能性があります。
また、不合理な待遇を行っていた場合には、非正規社員から正社員との待遇格差について損害賠償請求を受けるおそれがあります。実際に近年の裁判例では、裁判所が非正規社員と正社員との間の待遇差が不合理であると認め、企業に対して不合理な待遇差の部分に関して正社員との差額について損害賠償を命じる判決が出てきていますので、今後益々このリスク は高まってくと考えられます。

(2)労働局より指導等を受けるリスク

パートタイム・有期雇用労働法の同一労働同一賃金のルールに明確に違反している場合には労働局から指導や勧告、しいては企業名公表といった処分を受けるリスクもあります。

(3)企業イメージ低下のリスク

パートタイム・有期雇用労働法の同一労働同一賃金のルールに違反していることが社内外に知れ渡った場合には、法令順守を軽視する企業として企業イメージが大きく損なわれるリスクがあり、企業のイメージ低下は従業員の採用活動等にも大きな影響を与える可能性があります。また、企業イメージの低下は既に企業で働いている従業員の意欲の低下にも繫ってしまいます。

4.さいごに

同一労働同一賃金のルールを遵守することは、従業員の働くことに対する意欲を向上させ、企業の労働生産性を高めることにもつながります。他方で、同一賃金同一労働のルールに違反した場合には、損害賠償を請求されるリスク、企業イメージ低下のリスク等様々なリスクがあります。
そこで、不合理な待遇差がある場合には、待遇差の是正に向けた対応をとることがより重要となります。

当事務所では、待遇差是正の必要性の確認から、待遇差の是正方法の提案、各種規程の改定等までトータルサポートします。まずは、お気軽に当事務所までご相談ください。

執筆者:弁護士法人フォーカスクライド

中小企業の企業法務を中心とした真のリーガルサービスを提供するべく、2016年7月1日に代表弁護士により設立。
「何かあった時だけの弁護士」(守りだけの弁護士)ではなく、「経営パートナーとしての弁護士」(攻めの弁護士)として、予防法務のみならず、戦略法務に注力している。
また、当法人の名称に冠した「フォーカスクライド」とは、「クライアント・デマンド(クライアントの本音や真のニーズ)に常にフォーカスする(焦点を合わせる)。」という意味であり、弁護士が常にクライアントの目線で考え、行動し、クライアントの本音やニーズに焦点を合わせ続けることを意識して、真のリーガルサービスを提供している。
なお、現在では、資産税に特化した税理士法人フォーカスクライドと、M&A及び人事コンサルティングに特化した株式会社FCDアドバイザリーとともに、グループ経営を行っている。

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