採用選考段階での留意事項について

第1 はじめに

 企業には、どの労働者を採用するか否かについての採用の自由、および、採用のための判断資料を得る上での調査の自由が認められています(三菱樹脂事件・最判昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁)。
 ただし、採用の自由および調査の自由も無制約に認められているわけではなく、法令上の制約に加え、プライバシー、人格的尊厳等との関係で一定の制約を受けます。法令の制約の具体例としては、性別を理由とする採用差別の禁止(男女雇用機会均等法第5条、第7条)があります。また、年齢を理由とする採用差別についても、労働施策総合推進法第9条により、企業(使用者)は年齢に関わりなく均等な機会を与える旨の努力義務が定められています。
 本記事では、調査の自由および応募者のプライバシー、人格的尊厳等との関係に焦点を当てて、採用選考段階で尋ねて良いこと・尋ねてはいけないことを解説いたします。

第2 基本的な考え方

 上記第1のとおり、企業には、採用選考段階で応募者を調査するに際し、応募者のプライバシー、人格的尊厳等との関係で一定の制約を受けます。しかし、この制約により、企業は採用選考段階において何も質問できなくなるわけではありません。
 では、企業は、採用選考段階において、どのような質問であればすることができるのでしょうか。
 ここで参考になるのが、厚生労働省「公正な採用選考をめざして」(以下では、「厚生労働省ガイドライン」といいます。)です。厚生労働省ガイドラインによれば、企業は、応募者が求人職種の職務を遂行するに際し、必要な適性・能力を有しているかという観点から必要な範囲で質問をすべきである、ということになります。
 具体的に何が応募者の適性・能力に関係するかは、企業の職務内容や求人職種等によって異なります。もっとも、厚生省労働省ガイドラインでは、以下の①~⑪の事項をエントリーシート・応募用紙に記載させる、面接時において尋ねる、作文の題材とするなどによって把握することや、⑫~⑭を実施することは、就職差別につながるおそれがあるとして、避けるよう指摘されていますので、留意すべきです。

 <本人に責任のない事項の把握>
 ①本籍・出生地に関すること
 ②家族に関すること(職業・続柄・健康・病歴・地位・学歴・収入・資産など)
 ③生活状況に関すること(間取り・部屋数・住宅の種類・近隣の施設など)
 ④生活環境・家庭環境などに関すること

 <本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)の把握>
 ⑤宗教に関すること
 ⑥支持政党に関すること
 ⑦人生観・生活信条などに関すること
 ⑧尊敬する人物に関すること
 ⑨思想に関すること
 ⑩労働組合(加入状況や活動歴など)、学生運動などの社会活動に関すること
 ⑪購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること

 <採用選考の方法>
 ⑫身元調査などの実施
 ⑬本人の適正・能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用
 ⑭合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施

 職安法指針第5の1⑵も、人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別のおそれのある事項、思想及び信条、労働組合の加入状況に関する個人情報は、原則収集してはならないとしています。
 以上の基本的な考え方を踏まえ、採用選考段階で実務上問題となりやすい事項を質問することの是非を検討いたします。

第3 実務上問題となりやすい質問

1 健康状態、既往歴

 上記第2で指摘したとおり、厚生労働省ガイドラインは、⑭合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施を避けるべきとしています。そのため、企業の事業内容や求人職種等に鑑み、応募者の適性・能力と関係のない健康状態、既往歴について質問することは、プライバシーを侵害する可能性があり、不適切です。
 一方で、企業の事業内容や求人職種等によっては、採用選考時に求人職種の職務に対する適性があるかどうかを判断するため、健康診断を含め、健康状態を確認する必要性があるものもあります。
 ここでは、厚生労働省ガイドラインが示す以下の具体例と考え方が参考になります。

□運転・配送業務で求人募集する際、失神等の発作が生じないか確認
(考え方)
配送業務であれば事故を未然に防ぐため、失神等安全運転に支障をきたすような発作等の有無を確認することは、合理的・客観的な必要性があると考えられます。
そのような場合であっても、単に病名のみで判断するのではなく、発作の程度・状況(薬の服用で抑えられているか等)で判断する必要があります。

□アトピー性皮膚炎などアレルギー症状を確認
(考え方)
食品関連会社の製造工程で、直接アレルギーのある食品に触れることによってアトピー性皮膚炎などの症状を発症することを確認することは合理的・客観的な必要な必要性があると考えられます。
そのような場合であっても、手袋等で直接触れなければ症状が出ないことも想定されますので、真に必要な範囲内で確認する必要があります。なお、採用後の訂正配置のためアレルギーを確認することは、雇入時の健康診断により把握すべきことであり、採用選考時に確認することに合理性はありません。
また、アトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー疾患を理由に採用しない企業は、応募者の職務に対する適性・能力に基づき採否を判断するようお願いします。

2 犯罪の経歴、反社会的勢力との関わり

 犯罪の経歴は、個人情報保護法上、要配慮個人情報(第2条第3号)として、本人の同意を得ない限り取得することができません。そのため、企業は、プライバシーの観点から、前科についての質問は避けるべきであると考えます。もっとも、例えば、公務員や教職員、保育士といった職業では、法律上、一定以上の前科がある者は欠格事由とされていますから、そのような者か否かは調査するのに必要な範囲で犯罪歴について質問することは許容されると考えます。
 反社会的勢との関わりは、暴力団員という立場が職安法指針の「社会的身分」に当たると考えるのであれば、そのような情報を収集してはならないということになります。しかしながら、国家的な暴力団排除の動きや全国の各地方自治体での暴力団排除条例の制定、暴力団のような反社会的勢力との関係性を忌避することで得られるメリットなどを勘案すれば、暴力団員との関係性を絶つことの重要性に鑑み、応募者の暴力団への加入歴や関係性に関する情報を収集することは、企業における業務目的達成において必要不可欠なものとして、十分許容されると考えます。

3 借金、滞納等のお金に関するトラブルの経歴、家計状況の質問

 これらの質問は、項目②家族に関すること(特に、収入・資産)を推認させるものであり、一般的に、応募者の適正・能力と関係がないので避けるべきです。
 もっとも、例えば、弁護士や社労士等の士業や警備員といった職業では、法律上、破産手続の決定を受けて復権を得ない者は欠格事由とされていますから、そのような者か否かは調査するのに必要な範囲で金銭関係について質問することは許容されると考えます。

4 アルバイト歴

 アルバイト歴は、応募者が求人職種の職務を遂行するために必要な適性・能力を有しているかを判断するために必要な情報であると考えます。なぜなら、アルバイトの職務内容と求人職種が同じであれば、そのような過去の経験を生かすことができるという意味で、応募者の適性・能力の高さを裏付けますし、逆に、アルバイト期間が短い場合には、企業として、短期間で終了した理由等を尋ね、その中で応募者の適性・能力に関する情報を得ることができるかもしれないからです。
 そのため、アルバイト歴の有無やその内容を尋ねること自体は必要な質問として許容されると考えます。

5 妊娠

 妊娠の有無に関する質問は、女性応募者が求人職種の職務を遂行するために必要な適性・能力を有しているかを判断するためには不要な情報であると考えられるので、控えるべきでしょう。ただし、企業側からの「入社した場合に何か配慮してほしいことはありますか」との問い掛けに対して、女性応募者が妊娠について言及した場合には、就労環境の配慮や労働能力の把握等の観点から必要な範囲内で妊娠について尋ねることは可能であると考えます。

6 カルト教団の信者または家族のかかわり等の経歴の質問

 これらの質問は、項目⑤宗教に関すること及び⑨思想に関することを直接把握するもので、職安法指針でも取得が禁止されているため、質問することができません。また、応募者を採用する・しないは、雇用契約の当時者である当該応募者自身の属人的な事柄、事情などに限定して判断するべきなので、家族の信仰を申告させることは必要性を越えた調査として違法となる可能性が高いです。

7 LGBT

 LGBTとは、セクシュアルマイノリティの総称であり、「L」はレズビアン(女性の同性愛者)、「G」はゲイ(男性の同性愛者)、「B」はバイセクシュアル(両性愛者)、「T」はトランスジェンダー(身体の性と心の性との不一致)を意味します。このうち、「L」「G」「B」は性的指向(どの性を愛するか)、「T」は性自認(自分自身の性をどのように認識しているか)に当たります。
 株式会社LGBT総合研究所が全国20代~60代の約42万人を対象に実施した「LGBT意識行動調査2019」の結果によれば、LGBT・性的少数者に該当する人は約10.0%でした。このように、LGBTは他人事ではありません。そして、社会におけるLGBTの平等に対する意識も高まっており、自治体等においては、LGBT差別を禁止することを内容とする条例も制定されています(例えば、文京区男女平等参画推進条例第7条第1項は、「何人も、…性別に起因する差別的な取扱い(性的指向又は性的自認に起因する差別的な取扱いを含む。)その他の性別に起因する人権侵害を行ってはならない」と定めています。)。
 LGBTであることは、通常応募者の適性・能力とは関係なく質問する必要性が低いと考えられますので、原則として応募者にLGBTに関する質問をすべきではありません。
 厚生労働省ガイドラインも、「採用する側からカミングアウトをすること・しないことを強要されたり、カミングアウトする範囲を指定したりすることはできません。」としています。

第4 さいごに

 以上のとおり、企業は、企業の事業内容や求人職種等を踏まえ、調査事項が応募者の適性・能力に関係するか否かを考慮する必要があり、そもそも質問するべきか否か、質問するとしてもどのように質問すべきか等の判断に当たっては、応募者のプライバシーや人格的尊厳等の観点で悩まれることが多いと思います。
 当事務所は、多数かつ多様な顧問先企業様の採用選考に関するサポートをさせていただいてきた実績がありますので、採用選考段階から将来の労使紛争の火種を作らないよう適切にサポートさせていただくことが可能です。
 採用選考に関するお悩みがございましたら、お気軽にお問い合せください。

山野 翔太郎 弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士執筆者:山野 翔太郎

弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。
2022年に弁護士登録。遺言・相続、交通事故、離婚・男女問題、労働、不動産賃貸者などの個人の一般民事事件・刑事事件から、企業間訴訟等の紛争対応、契約書作成、各種法令の遵守のための取り組みなどの企業法務まで、幅広い分野にわたってリーガルサービスを提供している。

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