【改正パワハラ防止法】会社が講じるべき義務に対する適切な対応を弁護士が解説

1 パワハラ防止法とは?

 昨今,様々なハラスメントの存在が世間に浸透してきておりますが,会社内で問題となることがもっとも多いものとして「パワハラ」が挙げられます。
令和2年度に厚生労働省が行った「職場のハラスメントに関する実態調査」においても,従業員向けの相談窓口にて最も多い相談はパワハラであり(32.4%),過去3年間に1件以上パワハラに該当する相談を受けた企業は全体の36.3%,過去3年間にパワハラを受けた従業員は32.5%にも及ぶというデータもあります。
 そんな中,令和2年6月1日に「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法,いわゆる「パワハラ防止法」)」が改正され,パワハラの定義が定められることに加え,会社が講じるべき措置について明確に義務付けられることになりました。このパワハラ防止法上の会社が講じるべき措置に関する規定は,これまで大企業だけがその適用の対象でしたが,令和4年4月1日からは,中小企業を含むすべての会社に適用されることになりますので,否応なく対策を講じる必要があります。
 本稿ではパワハラ防止法上の会社が講じるべき義務についてご紹介します。

2 パワハラ防止法上の会社が講じるべき義務とは?

 パワハラ防止法では,会社側が雇用管理上講じる必要がある措置について,以下のように定められています。

(雇用管理上の措置等)
第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 (省略)
3 厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする。

 上記の「指針」として,「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」が定められ,全ての会社は,この指針に義務として定められたものを遵守しなければなりません。
具体的には,以下の事項について講じる義務があります。

  • ア 会社の方針等の明確化及びその周知・啓発
  • イ 相談(苦情を含む。)に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備
  • ウ 職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
  • エ アからウまでの措置と併せて講ずべき措置(当事者のプライバシーへの配慮,相談等を理由とする不利益取扱いの禁止等)

3 会社の方針等の明確化及びその周知・啓発とは?

(1)パワハラの内容,方針等の明確化と周知・啓発

 会社は,パワハラに該当する言動の内容やパワハラを行ってはならないという方針を示して,これを社内で周知・啓発しなければなりません。
 具体的には,就業規則,社内報,パンフレット,ホームページ等に,どのような言動がパワハラに該当するか,パワハラが発生する原因・背景等を記載して,従業員に周知・啓発する必要があります。

(2)行為者への厳正な対処方針・内容の規定化と周知・啓発

 パワハラに該当する言動を行った者に対して,厳正に対処すること及びその対処の内容について,社内で周知・啓発しなければなりません。
 具体的には,就業規則にパワハラに該当する言動を行った者に対する懲戒規定を定め,その内容を従業員に周知・啓発する必要があります。

4 相談に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備とは?

(1)相談窓口の設置

 会社は,相談への対応のために相談窓口を設置し,あらかじめ当該相談窓口の担当者を決めた上で,当該担当者とその連絡先を周知する必要があります。ここでの窓口は,社内だけでなく外部の機関に委託することも認められています。
 社内に相談窓口を設置する場合の一例としては,以下のようなものが考えられます。

  • 管理職や従業員を相談員として選任すること
  • 人事労務担当部門
  • コンプライアンス担当部門,監査部門,法務部門
  • 社内の診察機関,産業医,カウンセラー
  • 労働組合

 また,外部の機関を相談窓口として設置する場合の一例としては,以下のような機関が考えられます。

  • 弁護士や社会保険労務士の事務所
  • ハラスメント対策のコンサルティング会社
  • メンタルヘルス,健康相談,ハラスメントなど相談窓口の代行を専門に行っている会社

(2)相談に対する適切な対応

 相談窓口担当者には,相談の内容や状況に応じて適切に対応できることが求められます。これを実現するために,以下のような対応をとることが求められます。

  • 相談窓口担当者が相談を受けるにあたって,あらかじめ注意すべきことや聴取すべき内容等をまとめたマニュアルを作成し,教育・研修を実施すること。
  • 相談窓口担当者が相談を受けた後に,社内での対応の要否や対応の具体的内容を検討するにあたり,人事部門などと連携を図ることができる仕組みを作ること。

 形式的に相談窓口を設置したとしても,相談窓口担当者の対応に問題があった場合,パワハラの被害者たる従業員がさらに傷つく事態(二次被害)が発生したり,相談窓口担当者から会社のしかるべき部署や担当者への引継ぎが適切になされない結果,問題の悪化や被害拡大を引き起こす可能性がありますので,相談窓口担当者の対応方法と引継ぎ先には,十分注意を払う必要があります。

5 職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応とは?

 パワハラに関する相談を受けた場合の具体的な対応の流れとしては以下のとおりです。

  • ①事実関係の確認
  • ②行為者・相談者へとるべき措置の検討
  • ③行為者・相談者へのフォロー
  • ④再発防止策の検討

 ①の事実関係の確認では,相談者及び行為者の双方から事実関係を確認し,双方の主張に食い違いがある場合など必要に応じて第三者からも事実関係の確認を行う必要があります。また,相談者の希望として会社としての措置を講ずることまで希望するのか,単に相談するだけにとどめるのかという意向を確認することも重要です。
 ②の行為者・相談者へとるべき措置の検討に関しては,確認した事実関係をもとに,相談された言動が,パワハラ行為に該当するか否か,該当するとしてどのような処理を行うか(行為者から相談者への謝罪,人事異動,懲戒処分等)を検討することになります。もっとも,パワハラに該当するか否かを判断することは容易ではなく,最終的にパワハラに当たるとも当たらないとも判断できないという事案も出てくると思います。そのような場合でも,行為者の言動にどのような問題があったのか,どうするべきであったのかを明確にし,行為者に改善を促すことで事態が悪化することを未然に防ぐことが重要です。
 ③の行為者・相談者へのフォローとしては,当事者双方に対して会社として取り組んだことを説明し,理解を得つつ,同様の行為を繰り返す行為者を継続的に様子を見るなどの措置が考えられます。
 ④の再発防止策の検討としては,取組内容をきちんと記録し,定期的に検証・見直しを行いながら,社内研修を行うなどの措置が考えられます。

6 パワハラ防止法上の義務を怠った場合のリスクとは?

 パワハラ防止法上の会社に義務付けられた措置を講じていない場合,刑事罰を科せられる訳ではありませんが,行政からの助言・指導・勧告がなされ,勧告にも従わない場合には,勧告にも従わないことの公表がなされてしまいます。また,当該措置を講じていない状況で,実際にパワハラの事案が生じ,被害者が,加害者及び会社に対して損害賠償請求訴訟を起こした場合,これまで以上に会社が責任を負う可能性があり,責任を負うとなった場合にこれまでよりも重い責任,具体的には高額な損害賠償責任が発生するという可能性も考えられます。

7 当事務所でできること

 パワハラ防止法による会社が講ずべき措置がすべての会社に義務付けられた以上,これに対応することは急務といえます。これまで一度もパワハラの問題が生じたことなどないという会社でも,いつ問題が生じるか分かりません。そして,いざ相談窓口を設置し,運用を開始したとしても,実際の相談の場面では,どのような事情を確認し,確認した事情をどう評価して,パワハラに当たるか否かを判断し,どのような処分を下すのが妥当かを適切に判断することは非常に困難です。

 当事務所では,日常的にクライアントの企業様からパワハラ等の従業員トラブルのご相談を受け,その都度,迅速かつ適切に対応のアドバイスをさせていただいております。その結果,裁判手続きに至ることなく,かつ可能な限り損失を抑える形での解決を図ることができた事案も多数ございます。そして,具体的に会社が講ずべき措置の設置についても,随時ご相談を受け付けております。

 実際に問題が起こっている企業様も,今度どのような組織づくりをしようかと検討されている企業様も,お気軽にご相談ください。

新留治 弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士執筆者:新留 治

弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。2016年に弁護士登録以降、個人案件から上場企業間のM&A、法人破産等の法人案件まで幅広い案件に携わっている。特に、人事労務分野において、突発的な残業代請求、不当解雇によるバックペイ請求、労基署調査などの対応はもちろん、問題従業員対応、社内規程整備といった日常的な相談対応により、いかに紛争を事前に予防することに注力し、クライアントファーストのリーガルサービスの提供を行っている。

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