従業員に対して解雇及び解雇予告を行った場合には、当該従業員から解雇理由書の交付を求められることがあります。当該従業員が解雇理由書の交付を求めるということは、解雇理由に納得していない可能性が高いため、適切に対応しなければ解雇を巡り紛争となるおそれがあります。
また、解雇の有効性を巡り訴訟に発展することも十分に考えられ、訴訟となった場合には、解雇の有効性を判断する上で、解雇理由書が重要な判断材料の一つとなります。
そのため、紛争を予防する、訴訟に発展した場合に備える上で、適切な解雇理由書を作成しておく必要があります。
以下では、解雇理由書の書き方、注意点等を踏まえた適切な解雇理由書の作り方などについて説明していきます。
(1)解雇理由書とは、従業員を解雇する場合に、その解雇した理由を記載した証明書のことをいいます。そして、下記の2つのケースにおいて、使用者は解雇理由書を交付する必要があります。本稿では解雇の理由を記載する必要のある下記の二つの証明書を併せて解雇理由書と定義します。
(2)退職時の証明書
退職する従業員が、退職に関する事項を記載した証明書(以下「退職証明書」といいます。)の交付を求めた場合には、同証明書を交付する必要があります。
この証明書には、従業員が求めた使用期間、業務の種類、地位、賃金、退職事由等を記載する必要があるのですが、退職事由が解雇の場合には退職事由にその解雇理由を含んだ記載をする必要があります。
(3)解雇予告時の証明書
使用者が解雇予告を行った上で従業員を解雇する際に、当該従業員が、解雇の理由を記載した証明書の交付を求めた場合には、同証明書を交付する必要があります。
(ただし、解雇予告を行ったがその後、当該従業員が自主退職した等の当該解雇事由以外の事由により退職した場合には、当該退職の日以降は同証明書を交付する必要はありません。)
労働基準局の通達によると、解雇の理由については、具体的に示す必要があり、就業規則の一定の条件に該当する事実があることを理由として解雇した場合は、就業規則の当該条項の内容およびその条項に該当するに至った事実関係を解雇理由書に記入する必要があるとされています。
そして、解雇は、就業規則の解雇事由に基づいて行うことが一般的ですので、解雇の根拠となる就業規則上の条項を指摘し、当該条項に該当する具体的な事実を記載していくことになります。
解雇の有効性については、解雇理由書に記載された内容を基にその有効性が判断されることがあるため、全ての解雇の理由となる事実をできる限り詳細に解雇理由書に記載すべきです。
例えば、勤務態度不良を示す具体的事実が多数ある場合には、全ての事実を漏らさずに、できるだけ具体的に記載することが重要です。
また、裁判の際に、解雇理由書に記載されていない事由を後から主張しても認められない可能性が高いです。そのため、解雇理由書を作成する時点で、対象従業員の解雇事由を漏らさずに記載しておく必要があります。
解雇理由書に記載する事項は、従業員の請求した事項に限られますので、従業員が請求していない事項を記入しないよう注意する必要があります。
特に退職証明書の場合には、従業員が転職先に提出するために交付を請求する場合もありますので、その際には、解雇の具体的理由についての記載は求めないことが考えられます。この場合、使用者は解雇の理由を請求書に記載してはいけないことに注意する必要があります。
解雇理由書に従業員の就職を妨害することを目的とする等の秘密の記号を記入することは禁じられています。
例えば、従業員の就職を妨害する等の目的の下に、対象従業員は欠勤、遅刻が多いということを何らかの記号により表現している場合には労働基準法違反となりますので注意する必要があります。
解雇理由書を交付する期限については、何日以内といった具体的な基準はありませんが、
労働基準法上は「遅滞なく交付しなければならない」つまり、すみやかに交付することが義務付けられています。そのため、従業員から解雇理由書の交付を求められた場合、使用者はできるかぎり素早く対応する必要があります。
ただし、時効との関係で、退職時から2年を経過した場合にはそれ以後の請求には応じる必要はありません。
上記3(2)イのルールに違反した場合には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条1号)。また、それ以外の上記のルールに違反した場合には、30万円以下の罰金に処せられます(労基法120条1号)。
そのため、上記のルールに沿った記載、対応を遵守する必要があります。
解雇の際に、解雇理由書に関する対応を適切に行わなかった場合には解雇を巡る紛争が長期化するリスクが高まり、また、解雇理由書の記載が不十分であった場合には裁判で解雇が無効となるリスクも高まります。
そのため、適切な解雇理由書を作成し従業員に交付しておくことが重要となります。
また、解雇する際には解雇理由に照らしてそもそも解雇が有効であるのかを検討しておくことも重要です。
当事務所では、労務に精通した経験豊富な弁護士が多数所属しており、解雇の対応をはじめその他の労務問題も多く取り扱っております。労務問題についてご不安があればお気軽にご相談ください。
執筆者:弁護士法人フォーカスクライド
中小企業の企業法務を中心とした真のリーガルサービスを提供するべく、2016年7月1日に代表弁護士により設立。
「何かあった時だけの弁護士」(守りだけの弁護士)ではなく、「経営パートナーとしての弁護士」(攻めの弁護士)として、予防法務のみならず、戦略法務に注力している。
また、当法人の名称に冠した「フォーカスクライド」とは、「クライアント・デマンド(クライアントの本音や真のニーズ)に常にフォーカスする(焦点を合わせる)。」という意味であり、弁護士が常にクライアントの目線で考え、行動し、クライアントの本音やニーズに焦点を合わせ続けることを意識して、真のリーガルサービスを提供している。
なお、現在では、資産税に特化した税理士法人フォーカスクライドと、M&A及び人事コンサルティングに特化した株式会社FCDアドバイザリーとともに、グループ経営を行っている。