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別稿(【働き方改革】従業員の副業・兼業に対する適切な対応を弁護士が解説①【制度導入編】)でもご紹介しましたとおり、従業員の副業・兼業の希望は年々増加傾向にあり、会社としては、これに適切に対応する必要があります。具体的には、従業員による副業・兼業を禁止したり、一律で許可制とすることは基本的に認められません。そのため、会社としては、原則として従業員による副業・兼業を認める方向で検討する必要があります。そして、会社は、副業・兼業を許容しつつ、これにより生ずる各種リスクをどのようにして軽減・分散し、かつ業務に支障のないようにするかの対応策が求められます。
本稿では、実際に現状副業・兼業を禁止や一律許可制としている会社が、具体的にどのような手順で、原則副業・兼業を許容する制度を導入するか、適切な対応をしない場合に発生し得るリスク等についてご紹介します。
副業・兼業を禁止や一律許可制にしている会社は、副業・兼業を認める方向で就業規則・雇用契約書を見直す必要があります。具体的な条項例としては、令和3年4月に改定されたモデル就業規則が参考となりますが、必ずしも当該条項例と同一にしなければならないというものではありません。
また、副業・兼業に関して、従業員から会社に対して必要事項を届け出る形で申告を義務付ける条項とすること、申告を求める内容に応じた届出書等の準備など手続き面の整備も重要です。個々の会社の業務内容や雇用形態、人数、従業員構成などに応じて、ルールを作ることが必要になります。
会社は、就業規則等に基づいて、従業員に対して副業・兼業の内容に関する基本事項の確認をする必要があります。確認事項としては、①自社と副業・兼業先でのそれぞれの労働時間を通算する対象となるか否かを判断する事項、②(①で通算を必要とする場合)具体的に労働時間の通算の為に必要な事項が挙げられます。
①の事項に関しては、以下の内容について確認することが考えられます。
②の事項に関しては、以下の内容について確認することが考えられます。
従業員による副業・兼業において、もっとも管理が問題となるものが、労働時間の管理です。これは、大きく分けて、①そもそも労働時間を副業・兼業先と通算する必要があるか否か、②通算する必要があるとしてどのように通算するのか、に分けられ、②については、さらに所定労働時間の通算と所定外労働時間の通算で異なる計算方法をとる必要があり、実際の労働時間管理の理解を困難にする要因にもなっております。
以下では、副業・兼業における労働時間管理について、その中核となる部分に絞ってご紹介いたします。
副業・兼業をする従業員の労働時間は、事業主を異にする場合でも通算して適用されます(労働基準法第38条第1項、労働基準局長通達(昭和23年5月14日付け基発第769号)。
もっとも、労働基準法が適用されない場合(フリーランス、独立・起業、共同経営、アドバイザー、コンサルタント、顧問、理事、監事等)、労働基準法は適用されるものの労働時間法制が適用されない場合(農業・畜産業・養蚕業・水産業、管理監督者・機密事務取扱者、監視・断続的労働者、高度プロフェッショナル制度)には、例外的に労働時間は通算されません。
副業・兼業の開始前に、自社における所定労働時間と副業・兼業先における所定労働時間とを通算して、自社の労働時間制度における法定労働時間を超える部分の有無を確認する必要があります。そして、自社における所定労働時間と副業・兼業先における所定労働時間とを通算して、労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、時間的に後から労働契約を締結した会社における当該超える部分が時間外労働となり、当該会社における36協定で定めるところによって行うこととなります。
この所定労働時間の通算は、副業・兼業の開始前に確認することが可能ですので、事前に確認する必要があります。
上記(ア)の所定労働時間の通算に加えて、副業・兼業の開始後に自社における所定外労働時間と副業・兼業先における所定外労働時間とを当該所定外労働時間が行われる順に通算して、自社の労働時間制度における法定労働時間を超える部分の有無を確認する必要があります。そして、自社の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、当該超える部分が時間外労働に該当します。
ただし、自社で所定外労働がない場合は、所定外労働時間の通算は不要となります。また、自社での所定外労働があるものの、副業・兼業先での所定外労働がない場合は、自社の所定外労働時間を通算すれば足ります。
上記の所定外労働時間の把握をするには、従業員からの申告等による必要があります。この点、副業・兼業先における従業員の実労働時間は、労基法を遵守するために把握する必要がありますが、把握の方法としては、必ずしも日々把握する必要はなく、労基法を遵守するために必要な頻度で把握すれば足ります。例えば、時間外労働の上限規制の遵守等に支障がない限り、一定の日数分をまとめて申告等させる(例:一週間分を週末に申告させる等)、所定労働時間どおり労働した場合には申告等を求めず、実労働時間が所定労働時間どおりではなかった場合のみ申告等させる、時間外労働の上限規制の水準に近づいてきた場合に申告等させることなどの方法が考えられます。
上記(ア)(イ)のとおり、所定労働時間の通算は雇用契約の締結の先後の順に行い、所定外労働時間の通算は所定外労働の発生順に行う必要があるところ、副業・兼業の日数が多い場合や自社と副業・兼業先の双方で所定外労働が発生する場合等においては、労働時間の申告等や通算管理において、会社・従業員の双方に手続上の負担が伴うことになります。
このため、厚生労働省では、会社・従業員双方の手続上の負担を軽減し、労基法に定める最低労働条件が遵守されやすくなる簡便な労働時間の管理の方法(「管理モデル」といいます)が提案されております。
具体的には、副業・兼業の開始前に、自社と副業・兼業先で協議をして、自社の法定外労働時間、副業・兼業先での労働時間(所定労働時間及び所定外労働時間の両方を含む)の上限をそれぞれ設定し、当該上限の範囲内で従業員に労務に従事させるというものになります。そして、自社は上限を超えた場合(法定内かつ所定外労働に対して割増賃金が発生する場合は所定労働時間を超えた場合)にのみ割増賃金を支払い、副業・兼業先は実際に労働に従事させた時間の全てに対して割増賃金を支払うことになります。
この管理モデルを利用するメリットは、自社が副業・兼業先での労働時間を都度把握することなく、自社での労働時間管理のみで副業・兼業時の時間外労働の未払を防止できることにあります。しかし、上記のとおり、副業・兼業先は労働に従事させた時間の「全部」に対して割増賃金を支払わなければならないという負担を受けることになるため、そもそも副業・兼業先が管理モデルの導入に応じないという可能性があります。副業・兼業先が管理モデルの導入に応じなければ、そもそも導入自体できず、結果として原則通りの通算方法によらざるを得ないこととなります。
会社は、従業員が副業・兼業をしているかにかかわらず、健康診断の実施義務、長時間労働者に対する面接指導・ストレスチェックやこれらに基づく事後措置(健康確保措置)を実施しなければなりません。
もっとも、このような健康確保措置の実施対象者の選定にあたっては、副業・兼業先における労働時間を通算することはされておらず、自社の労働時間のみで判断すれば足りるとされております。
従業員からの副業・兼業の申請に対して一律に禁止したり、許可制をとりつつ合理的な理由なく不許可とした場合、本来時間外に収入を得ることやスキルアップを図ることができたにもかかわらず、その機会を奪われたということで、慰謝料請求を受ける可能性があります。
また、副業・兼業それ自体を理由として懲戒処分や解雇などを行った場合、当該懲戒処分や解雇の効力自体を否定されるという可能性があります。
副業・兼業に関する導入手順やリスクについては以上のとおりです。
副業・兼業を原則として容認する制度を導入するにあたっては、就業規則等の改訂、従業員に対する基本事項の確認、労働時間の管理、従業員の健康管理措置の実施等いくつものハードルをクリアしていく必要があります。ハードルを全て自社にて適切に超えていくということは非常に困難と言わざるを得ません。
当事務所では、日常的に副業・兼業に関してお困りのことについてアドバイスをさせていただくとともに、実際に導入するにあたってのご相談に対しても迅速かつ適切にアドバイスをさせていただいております。
実際に副業・兼業の申出を従業員から受けておられる会社様も、将来的に制度として導入を検討されている会社様も、お気軽にご相談ください。
執筆者:新留 治
弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。
2016年に弁護士登録以降、個人案件から上場企業間のM&A、法人破産等の法人案件まで幅広い案件に携わっている。特に、人事労務分野において、突発的な残業代請求、不当解雇によるバックペイ請求、労基署調査などの対応はもちろん、問題従業員対応、社内規程整備といった日常的な相談対応により、いかに紛争を事前に予防することに注力し、クライアントファーストのリーガルサービスの提供を行っている。