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育児・介護休業法(正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)は、育児休業や介護休業等に関し事業主(会社)が講ずべき措置を定めるほか、育児又は家族の介護を行う労働者等に対する支援措置を講ずること等により、労働者が退職せずに済むようにし、その雇用の継続を図るとともに、育児又は家族の介護のために退職した労働者の再就職の促進を図ることとし、育児及び家族の介護を行う労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるよう支援することを目的としています(育児・介護休業法第1条)。
育児・介護休業法上の育児休業とは、原則として1歳に満たない子を育てる男女労働者が取得できる休業をいいます。育児休業の対象労働者は、基本的に女性に限らずすべての労働者が対象ですが、例外として、日雇いの労働者など一部対象外となる労働者もいます。有期雇用労働者の場合、養育する子が1歳6ヶ月に達する日までに労働契約が終了することが明らかでないことという要件を充足した場合に対象労働者となります。また、休業期間は、原則として子が出生した日から1歳に達する日(誕生日の前日)までの間で労働者が申し出た期間です。
原則的な育児休業に対して、一定の要件を充足した場合には、1歳を超えて休業することも可能です。具体的には、①両親ともに育児休業をする場合の特例(パパ・ママ育休プラス)、②休業期間の延長の二つの制度があります。
①両親ともに育児休業をする場合の特例(パパ・ママ育休プラス)
パパ・ママ育休プラスは、以下のいずれの要件も充足した場合、通常の育児休業より対象となる期間が2ヶ月延長され、子が1歳2ヶ月に達する日まで取得することが可能となります。
・労働者本人の配偶者が子の1歳に達する日以前において育児休業をしていること
・労働者本人の育児休業開始予定日が子の1歳の誕生日以前であること
・労働者本人の育児休業開始予定日が、配偶者がしている育児休業の初日以降であること
②休業期間の延長
休業期間の延長制度は、子が1歳から1歳6ヶ月の休業の場合は子が1歳に達する日において、1歳6ヶ月から2歳の休業の場合は子が1歳6ヶ月に達する日において、以下のいずれの要件も充足した場合、それぞれ休業期間が1歳6ヶ月・2歳まで延長することが可能となります。
・子が1歳(又は1歳6ヶ月)に達する日において、労働者本人又はその配偶者が育児休業をしていること
・子が1歳(又は1歳6ヶ月)に達した後も特に休業が必要と認められる事情(保育所等に申込しているが入所できない、常態として子の養育を行っている配偶者に一定の事情が生じる)があること
改正前の育児・介護休業法において、子が1歳に達するまでの育児休業の取得は、原則として子1人につき1回のみとされており、その例外として子の出生後8週間以内に取得する育児休業の制度(パパ休暇)が設けられておりました。このパパ休暇での育児休業は、育児休業の取得回数としてカウントされないため、子が1歳に達するまでの間に、育児休業の再度の申出をすることが可能でした。
もっともこのパパ休暇制度は、後述する出生時育児休業(産後パパ育休)制度の導入にともない、廃止されました。
令和4年10月1日から、育児・介護休業法が一部改正され、子が1歳に達するまでの育児休業とは別に、子の出生後8週間以内に4週間まで休業を取得できる制度(出生時育児休業)が開始されました。子の出生後8週間は女性が労働基準法上の産後休業を取得している時期であるため、主に男性が取得する休業ということで「産後パパ育休」とも呼ばれます。
産後パパ育休は、原則としてすべての労働者(日々雇用される者を除きます。)が対象ですが、有期雇用労働者については、「子の出生の日(出産予定日前に出生した場合は出産予定日)から起算して8週間を経過する日の翌日から6ヶ月を経過する日までに労働契約が満了することが明らかでない者」に限られます。また、労使協定を締結した場合には、以下の労働者は対象外とされます。
・引き続き雇用された期間が1年未満の者
・産後パパ育休申出があった日から起算して8週間以内に雇用関係が終了することが明らかな者
・1週間の所定労働日数が2日以下の者
産後パパ育休の対象となる期間(対象期間)は、子の出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日までです。ここでの「出生の日」とは、出産予定日前に子が生まれた場合には「出産予定日」を指し、出産予定日後に子が生まれた場合には「(実際の)出生日」を指します。この対象期間の間に、4週間(28日)以内の育児休業を取得することができます。
対象期間内に分割して2回まで取得が可能です。ただし、産後パパ育休の場合、分割して取得する場合でも2回分をまとめて取得を申し出ることが必要です。なお、令和4年10月から、1歳までの原則的な育児休業についても2回までの分割取得が可能とされるため、産後パパ育休と原則的な育児休業のそれぞれ2回ずつ分割して取得することが可能となります。
会社は、産後パパ育休の申出があったときは、その申出を拒むことはできません。ただし、1回の申出の後に、新たにもう1回申出がなされたときはその申出を拒むことができます。3(4)のとおり、産後パパ育休の分割取得を希望する場合は、1回で2回分の休業を申し出ることが必要であり、1回の申出後に新たに申し出た場合の2回目については、取得を認める必要はありません。
産後パパ育休の申出は、原則として開始しようとする日の2週間前までに行う必要がありますが、労使協定を締結して一定の雇用関係整備のための措置(研修の実施や相談体制の整備等)を講じた場合、1ヶ月以内の期間を申出の期限とすることが可能です。ただし、出産予定日前に子が出生したことや配偶者の死亡等、特別な事情がある場合は、1週間前までの申出でよいとされます。
なお、労働者の申出がこれらの期限より遅れた場合、会社は、開始する日を指定することができます。この場合の指定できる期間は、労働者が申し出た開始予定日から「申出があった日の翌日から起算して2週間(労使協定で申出期限を定めた場合は、その日が経過する日、特別な事情がある場合は1週間)を経過する日」までの間です。
育児・介護休業法は、産後パパ育休制度の開始を始めとして、令和4年4月1日と同年10月1日に大きく制度を変更する改正がなされました。この法改正に伴い、就業規則や育児・介護休業規程等の規程類(就業規則等)の改定が必要となります。主な改定すべき事項は以下のとおりです。
①有期雇用労働者の育児休業及び介護休業の取得要件緩和に関する改定
令和4年4月1日施行の法改正により、有期雇用労働者の取得要件として「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上の者」が廃止されましたので、就業規則等に育児休業・介護休業等の取得要件として定めている場合、当該定めの削除が必要となります。
②育児休業の申出方法等の見直し
令和4年4月1日施行の法改正により、従前育児休業の申出方法及び会社が育児休業の取扱いに関する通知方法として定められていた書面、FAX及び電子メール等の中に、LINEやFacebookといったSNSの利用も可能とされました。
③「パパ休暇」に関する規定の削除
産後パパ育休制度の開始に伴い、従来の「パパ休暇」制度は廃止されますので、当該規定に関する条項が就業規則等に定められている場合には、当該規定の削除が必要となります。
④育児休業の申出回数を「1回」から「2回まで可」への変更
令和4年10月1日施行の法改正により、育児休業の申出回数は、2回まで可能とされることになりましたので、当該規定の修正が必要です。また、これに関連して、育児休業申出の撤回に関しても変更の必要があり、従前1回目の育児休業の申出を撤回した場合、その後再度の申出はできないものとされておりましたが、改正後には残り1回の申出が可能となりますので、撤回に関する規定を修正する必要があります。
⑤産後パパ育休に関する定めの追加
産後パパ育休制度の開始に伴い、対象労働者、申出の手続き、申出の撤回、休業期間、休業中の就業等に関する条項の制定が必要になります。この時、育児・介護休業法上育児休業とは別の制度として位置づけられており、取得要件が別に定められていたり、労使協定の締結により一定範囲の就業が認められていたりするなど育児休業とは制度内容が異なります。そのため、育児休業とは別に章立てするなど独立した条文と定めると一見して内容を把握しやすくなると考えられます。
育児休業等の申出に関しては、書面を用いている場合が多いと考えられますが、産後パパ育休の申出、通知、就業可能日等の申出、就業日の提示、同意等のための新しい書式を準備しておく必要があります。
また、今後男性から産後パパ育休の取得の申出が増えることが予想されるところ、業務を複数担当制にしたり、男性の労働者から早めに取得の申出に関する相談をしてもらうようにするなど、業務に支障を来すことのない業務体制を構築しておくことが重要となります。
産後パパ育休に関しては、必要に応じて以下のような労使協定の締結が必要となります。
①一定の労働者を産後パパ育休の対象外とする場合
3(2)で述べたとおり、雇用期間が1年未満の者等について産後パパ育休の対象となる労働者を対象外とする場合、労使協定の締結が必要となります。
②申出期限を2週間超1ヶ月以内とする場合
産後パパ育休の申出は、原則として2週間前までに申し出ることとされていますが、業務の都合等により2週間前の申出で対応が難しい場合、労使協定を締結して2週間超1ヶ月前までの間で、申出の時期を早くすることができます。この場合、産後パパ育休の申出が円滑に行われるようにするための雇用環境の整備その他の厚生労働省令で定める措置を講じる必要があり、かかる措置について就業規則等に定めておく必要があります。
③就業を可能とする場合
労働者が休業中に就業を行う場合には、対象となる労働者の定め等を含めて、労使協定の締結が必要となります。
産後パパ育休の開始に伴う実務上の対応を怠った場合、育児・介護休業法に違反しているということで、勧告が行われ、この勧告を受けても会社がこれに従わない場合には、企業名等が公表されることになります。また、上記勧告のほかに報告を求めることがあり、かかる報告の求めに対して報告をしない、または虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料に処することとされます。さらに、会社が産後パパ育休に対応できていなかったがために、人員配置の問題などが生じることで本業への影響も懸念されるところです。
以上のとおり、令和4年10月1日以降、男性の従業員から産後パパ育休の取得の申出が増えることが予想され、これに対する会社の対応は急務となります。育児・介護休業法は法令の定めが非常に分かり辛いものとなっている一方で、業務への影響が非常に大きいものですので、自社のみで対応されるよりも専門家である弁護士に対応を相談する必要性が大きいと言えます。当事務所では、日々顧問先の企業様から労務問題に関するご相談を受けており、その中で育児・介護休業法に関連する就業規則の改定や社内制度の構築について迅速かつ適切なアドバイス・書面作成等の対応を実施させていただいております。
対応が未了で今後どのように進められれば良いかお悩みであれば,是非お気軽にご相談ください。
執筆者:新留 治
弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。2016年に弁護士登録以降、個人案件から上場企業間のM&A、法人破産等の法人案件まで幅広い案件に携わっている。特に、人事労務分野において、突発的な残業代請求、不当解雇によるバックペイ請求、労基署調査などの対応はもちろん、問題従業員対応、社内規程整備といった日常的な相談対応により、いかに紛争を事前に予防することに注力し、クライアントファーストのリーガルサービスの提供を行っている。