事業承継における遺留分対策として遺留分放棄を実行し、将来のリスクを回避した事例

相談企業の業種・規模

業種:非鉄金属加工業
規模:100人~500人 売上高50億円~100億円
相談者:先代経営者・後継者(先代経営者の長男)

相談経緯・依頼前の状況

先代経営者が保有する対象会社の株式について、事業承継税制(中小企業の株式の贈与・相続についての納税猶予制度)を活用して後継者へ移転することが計画されていました。
相談者と税理士が事業承継計画の検討を進める中で、後継者の兄弟(先代経営者の次男)が有する遺留分が大きなリスクとなり得るのではないかとの論点が提起されました。そこで、税理士からの紹介を受けて、弊所が遺留分問題に対応することとなりました。

解決までの流れ

まずは、弊所において事業承継計画の全体像を確認した上で、遺留分の試算を行い、確かに従来の事業承継計画のまま進めた場合に次男から後継者である長男に対して、数億円程度の遺留分侵害額請求が行われる可能性があることを確認しました。
そこで、遺留分対策として、対象会社株式以外の財産を均等に配分する方法、株式を含む保有財産を処分すること等によって現金を増やす方法、生命保険等を活用して遺留分相当額の資金を準備する方法、遺留分算定基礎財産を減らしていく方法等を検討し、本事案における適用可能性について議論を深めていきました。
その結果、先代経営者から非後継者である次男に対して、対象会社株式以外の財産を一定程度生前贈与し、それを踏まえて次男に遺留分放棄の手続きをとってもらう方法が採用されました。
生前の遺留分放棄は、将来の遺留分権利者が、家庭裁判所に遺留分を放棄する旨を申立て、家庭裁判所がこれを認めた場合のみ可能となります。その際に裁判所が審査するのは主に、「本当に遺留分放棄をする意思を持っているのか」、「遺留分放棄をする必要性や合理性はあるのか」、そして「放棄する人が遺留分の代わりとなる十分な財産を受け取っているか」という点です。
弊所は、後継者側からの依頼を受けた立場でしたので、利益相反に留意して非後継者の次男と直接交渉することはありませんでしたが、後継者による説得や説明のサポートをさせていただきました。

解決のポイント

上記のとおり、遺留分放棄が裁判所から許可される要件はなかなか満たすことが難しい内容になっています。特に、遺留分放棄の必要性や代わりの財産については、明確な基準もなく、実務上の悩ましいケースが少なくありません。
本件では、事業承継を円滑に進めなければならないことを遺留分放棄の必要性・合理性を基礎づける事情として主張していただくこととしました。将来遺留分侵害額請求権が行使された場合には経営が立ち行かなくなる可能性もあるからです。
また、代わりの財産(代償財産といいます。)については、遺留分だけでも数億円と試算されていたため、とてもそのような高額な代償財産を用意することはできません。そこで、可能な限りの現金を贈与することとして、贈与した現金によって次男の生活は一定程度安定することや、相続開始時にはさらに幾ばくかの財産を相続できるような遺言を作成していること等を主張し、代償財産として十分であることをアピールすることとしました。
その結果、裁判所は無事に遺留分放棄を許可し、遺留分が有効に放棄されたことで、将来遺留分が主張されて資金が流出し、家族関係も悪化してしまうリスクを排除することができました。
また、この副次的な効果として、事業承継や相続についてお互いの気持ちを明確に伝えあった結果、それまで疑心暗鬼となっていた家族関係も円満になってきたとのことでした。
弊所には、事業承継を専門とする弁護士と、資産税、特に事業承継や組織再編等を専門とする税理士が在籍しています。そのため、税務面での対応をご依頼いただく場合においても、弁護士が法的観点から確認させていただくことができます。事業承継や組織再編分野は法務と税務が密接不可分に関連する分野ですので、弁護士と税理士がスムーズに共同対応する体制は不可欠であると考えています。

解決するまでに要した期間

6ヶ月程度

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事業承継と遺留分

佐藤 康行 弁護士法人フォーカスクライド 代表弁護士執筆者:佐藤 康行

弁護士法人フォーカスクライド 代表弁護士。
2011年に弁護士登録以降、中小企業の予防法務・戦略法務に日々注力し、多数の顧問先企業を持つ。
中でも、人事労務(使用者側)、M&A支援を中心としており、労務問題については’’法廷闘争に発展する前に早期に解決する’’こと、M&Aにおいては’’M&A後の支援も見据えたトータルサポート’’をそれぞれ意識して、’’経営者目線での提案型’’のリーガルサービスを日々提供している。

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