退職時に競業避止義務を定めた合意書を作成することにより会社の損失を予防できた事例

相談企業の業種・規模

業種:サービス業
規模:従業員数約250名
相談者:経営者

相談経緯・依頼前の状況

会社を退職する従業員に会社と競合する事業を営む会社を設立する動きがあり、その従業員は営業担当であったため退職後に会社の顧客を奪取する可能性がありました。このような経緯により、会社から退職時に競業避止義務を記載した合意書を作成して欲しいという依頼を受けました。

退職後の競業避止義務の概要について

在職中の従業員は労働契約上の義務として当然に競業避止義務を負う一方で、退職後の従業員は労働契約が終了しているため当然に競業避止義務を負うことにはなりません。そこで、退職後の従業員に競業避止義務を課すためにはその合意が必要となります。
ただ、退職後の従業員には憲法上、職業を選択する自由が保障されていることから合意の内容が合理的なものでない限り無効となります。
従って、退職後の競業避止義務の合意については内容を合理的なものとし、合意を有効としておく必要があることに注意する必要があります。

退職後の競業避止義務合意の有効性について

裁判例上、退職後の競業避止義務合意の有効性の有無は下記の要素を総合考慮することにより判断されます。
①守るべき企業の利益(正当な目的)があるかどうか、
それを踏まえつつ、競業避止義務契約の内容が目的に照らして合理的な範囲に留まっているかという観点から、
②従業員の地位
③地域的な限定があるか
④競業避止義務の存続期間
⑤禁止される競業行為の範囲について必要な制限が掛けられているか
⑥代償措置が講じられているか

以下では上記の要素について詳細に解説します。
・①について
競業避止義務を課してでも守るべき企業の利益があることが重要です。
裁判例上は、技術的な秘密や、営業上のノウハウ等に係る秘密、顧客との人間関係等について企業の利益の有無が判断されており、秘密の価値が高いことや、顧客との人間関係が会社の信用の下に形成された等の事情がある場合には守るべき企業の利益があると判断される傾向にあります。
・②について
会社が守るべき利益を保護するために競業避止義務を課すことが必要な従業員であるかが重要となります。
例えば、従業員が会社の秘密情報を扱っていたこと等が肯定的な要素となります。
・③について
競業行為を禁止する地域に合理的な限定がある場合には肯定的な要素となります。
・④について
守るべき企業の利益を保護する手段として合理的な期間が定められていることが重要となります。
裁判例上、競業避止義務の存続期間に関し、概ね1年以内の期間については肯定的ですが2年以上の期間については否定的な判断がなされている傾向にあります。競業避止義務の存続期間についてはできるだけ長い期間義務を設定したいと希望される会社様が多いのですが合意が無効とならないよう可能な限り期限を1年以内とし、2年を超える期間は設定すべきではありません。
・⑤について
守るべき企業の利益との関係で禁止行為が合理的な範囲にとどまっていることが重要です。
例えば、在職中に担当した顧客への営業活動等、禁止対象となる活動内容がある程度具体的に定められていると肯定的に判断されます。
・⑥について
競業避止義務を課すことで職業選択の自由を制限することに対する代償措置があることが重要です。
代償措置については、たとえ競業避止義務を課すことの対価として明確に定めた措置がなくとも、賃金が高額であった等の代償措置とみなされるものが存在する場合には肯定的に判断されています。

問題の発生・解決までの流れ

上記の点に注意し有効性が認められるよう退職時の競業避止義務合意書を作成しました。
しかしその後、当該従業員が会社を退職した後に会社の顧客に営業をかけていることが判明しました。
そこで、この従業員及び従業員の代理人に対して、退職時の合意書の内容は有効であり、競業行為は合意書に反すること、今後も合意書の定めに反して顧客に営業をかけ、顧客を奪取した場合には、合意書に定めた競業避止義務違反に基づき損害賠償を請求する旨伝えました。
そうしたところ、この従業員による顧客への接触は止み、結果的に顧客奪取により営業利益の損失が生じることを免れることができました。

解決のポイント

事前に合理的な内容の退職合意書を作成していたことが大きなポイントとなり、競業行為による損害を抑制することができました。
当事務所では、労務に精通した経験豊富な弁護士が多数所属しており、退職時の対応をはじめその他の労務問題も多く取り扱っております。労務問題についてご不安があればお気軽にご相談ください。

解決するまでに要した期間

全体で約半年

執筆者:弁護士法人フォーカスクライド

中小企業の企業法務を中心とした真のリーガルサービスを提供するべく、2016年7月1日に代表弁護士により設立。
「何かあった時だけの弁護士」(守りだけの弁護士)ではなく、「経営パートナーとしての弁護士」(攻めの弁護士)として、予防法務のみならず、戦略法務に注力している。
また、当法人の名称に冠した「フォーカスクライド」とは、「クライアント・デマンド(クライアントの本音や真のニーズ)に常にフォーカスする(焦点を合わせる)。」という意味であり、弁護士が常にクライアントの目線で考え、行動し、クライアントの本音やニーズに焦点を合わせ続けることを意識して、真のリーガルサービスを提供している。
なお、現在では、資産税に特化した税理士法人フォーカスクライドと、M&A及び人事コンサルティングに特化した株式会社FCDアドバイザリーとともに、グループ経営を行っている。

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