【親なきあとシリーズ①】基本的な事例における親なきあと対策の考え方と基礎知識

相談者

家族構成:両親、長男、長女(障害あり)
相談者:両親(60歳代)

相談経緯・依頼前の状況

相談者と共に暮らしている長女は発達障害であり、就業することや資産の管理などは困難な状況であった。長男は仕事に就いて独立して生計を営んでおり心配はないが、以前から、相談者ら夫婦が亡くなったあとの長女の生活、特に財産をどのように準備しておけばいいのか、また長女がどのように暮らしていくのかについて、漠然とした不安を抱いていた。
相談者が参加した親なきあとセミナーで、親なきあと相談サービスを提供する「一般社団法人あしたパートナーズ」(https://www.ashita-partners.com/)の講師から、生命保険信託の存在や遺言の作成の必要性に関する話を聞き、同法人に問い合わせを行ったところ、同法人の代表理事を務める弊所弁護士が、上記講師とともに個別相談に対応することとなった。

解決までの流れ

まずは、弊所において家族構成や資産構成、長女の資産管理能力、及び長男の生活状況等に関する基礎的な情報のヒアリングを実施しました。また、両親自身が子どもの将来についてどのような希望を持っているのか、財産の配分についてどのようなイメージを持っているのか等も併せて確認しました。
確認できた情報を踏まえて、遺産分割に関するリスクと、長女が一時的に多額の現預金を取得してしまうリスクについて説明しました(詳細は後述)。また、これらのリスクを踏まえて、遺言の作成と生命保険信託の活用が選択肢であるとの提案を行いました。
上記の提案を受けてご夫婦で話し合っていただいた結果、遺言を作成する方針であることと、生命保険信託の活用を見据えてキャッシュフローを確認する意向であることが表明されました。その後、ご夫婦の資産状況を前提として、今後の人生(平均余命まで)でどのようなキャッシュフローが想定されるのかを確認し、将来長女に必要な資金に関するキャッシュフロー計算も行いました。
遺言については、長女がまだ未成年であり、将来の生活が具体的に想定できない状況であったため、当面の遺産分割に関するリスクを回避するための遺言を作成する方針を確認しました。この方針を受けて、ご夫婦それぞれが、自身の相続発生時には全財産を他方の配偶者に相続させる旨の遺言を作成することとし、弊所にて案文を作成し、オンラインにてリアルタイムでご夫婦に自筆証書遺言を作成、さらに弊所にて形式要件等の確認を行い、遺言が完成しました。
今後は、長女の成長や長男の生活状況等に合わせて、適宜のタイミングで遺言の見直し、具体的には長男・長女の資産配分などを含む遺言を検討していくこととし、当面の対応は終了しました。

解決のポイント

まず、上記のご家庭でご夫妻のいずれかに相続が発生した場合、他方の配偶者、長男、長女を当事者とする遺産分割協議を行わなければなりません。長女は未成年ですので親権者である親が代理人となればよいと思われがちですが、両者ともに相続人である場合には利益相反関係があるため、裁判所に「特別代理人」の選任を求める必要があります。
特別代理人は、長女の(形式上の)利益の確保を最優先に行動し、裁判所の監督下にありますので、親に多めに配分したり、将来長女の財産管理を手伝う長男に多めに配分したりといった、柔軟な配分には応じてもらえません。
また、遺産分割協議に委ねてしまうと、他方配偶者と長男の間で遺産の配分を巡る争いが発生するおそれもあります。実際に、仲の良い家族が遺産分割によって関係悪化に至ってしまうケースは多数発生してしまっているのが現実です。
このような遺産分割を回避するのが遺言であり、遺言を作成する人の思いを次世代に伝えることができ、その家族に適した財産の残し方を実現することができます。

弊所グループ法人には、相続対策を専門とする弁護士と、資産税、特に相続税分野を専門とする税理士が在籍しています。そのため、相続争いの回避については弁護士が主導し、相続税負担が想定されるご家庭に対しては、専門の税理士が試算や対策を提供することができます。
また、上記のあしたパートナーズは司法書士や社労士、福祉事業者や行政など、幅広いネットワークを有しておりますので、親なきあとの財産に関するご相談のみならず、障害に関する幅広いご相談をお待ちしております。

解決するまでに要した期間

3ヶ月程度

伊藤 良太 弁護士法人フォーカスクライド パートナー弁護士執筆者:伊藤 良太

伊藤 良太 弁護士法人フォーカスクライド パートナー弁護士
中小企業の事業承継・相続対策及び資本政策を中心として、契約・労務・ガバナンス等の一般企業法務や、M&A、不動産案件も取り扱う。
事業承継については、経済産業省での執務経験も活かして、法務・税務横断的な提案を得意とし、事業と家族の双方に配慮した円滑・円満な承継に注力している。

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