事前調査を尽くした債権の仮差押えを行ったうえで,最終的に金3億7000万円の債権回収に成功した事例

相談企業の業種・規模

業種:原材料販売会社
規模:阪神地域にて展開
相談者:経営者

相談の経緯・依頼前の状況

依頼者は,相手方が製造する物品の原材料を販売していた会社です。原材料の販売は長年にわたり行われていましたが,相手方は,販売代金の一部を支払うのみで,残額は未払いとする状態が続いており,未払販売代金は積み重なっていきました。ご依頼時には,未払代金総額は,約3億円にまで膨れ上がっていました。
依頼者は,業界内における相手方との関係性から,未払代金の請求を強く求めることはありませんでした。ただ,相手方がその事業を縮小するとの情報を得たため,未払代金の回収を行うこととしました。
なお,当初は別の弁護士に依頼を行っていたようですが,その別の弁護士が,未払代金の回収は困難ではないかという様子であったために,当事務所へのご依頼となりました。

解決までの流れ

ご依頼時に,未払代金が億単位であることと,相手方が事業を縮小するとの情報があったことから,判決時に相手方から回収できる財産を残しておくことを目的とした行動をとることにしました。そのため,仮差押手続(保全手続)を用いることとしました。
まずは,仮差押えを行う財産があるか否かについて調査を行うことになりました。依頼者に対しては,相手方の取引形態であれば,このような資産(不動産や動産),債権があるのではないか,という観点からヒアリングを行いました。
その結果を踏まえ,初めに,相手方が所有する不動産がないか調査を行いましたが,差押え対象となるべき不動産はありませんでした。
次に,相手方の預金口座内に存する預金を仮に差し押さえることを検討しました。相手方には,いくつかの預金口座がありましたので,その預金については,預金口座に関する調査が完了した段階で,仮差押えを行いました。
ただ,預金の仮差押えをもってしても,約3億円もの未払代金の保全には至りませんでした。
これを踏まえ,さらにヒアリングを行ったところ,相手方の事業縮小に伴い,業界団体から約5億円の補償があることが判明しました。
当該業界団体への接触を行う等,この補償金に関する調査を尽くしたうえで,相手方が業界団体に対して有する補償金支払請求権を対象として仮差押え手続きを行い,未払代金相当額の債権保全を行うことができました。
その後,速やかに訴訟提起を行いました。
訴訟においては,依頼者が,依頼者と相手方との交渉経過を示したメモや,過去に発行した請求書,相手方から取得していた資料等,過去の資料を保管していましたので,訴訟も終始依頼者優位に進みました。
最終的には,裁判所の提案により和解が行われることとなりました。和解交渉では,法律上は発生しているが,
訴訟では請求していなかった遅延損害金の存在を示しつつ,未払代金相当額に若干の上乗せを行った金3億7000万円の支払義務を相手方に課すことによって,訴訟が終了しました。
最後に,保全していた補償金支払請求権を民事執行手続にて回収するなどして,未払代金全額を超える,金3億7000万円の回収を行うことができました。

解決のポイント

・多額の債権があり,かつ相手方の経営状況が悪化している状況でしたので,真っ先に仮差押えを検討し,債権の保全を行うことが重要でした。相手方の取引実態をヒアリングした上で,資産や債権の存在を調査することで,債権の保全に成功することができました。
・債権の保全を行うことにより,和解が決裂したとしても依頼者が債権回収を行うことができる状態になりました。そのため,訴訟提起後における和解交渉においても,強気な交渉を行うことができました。
・依頼者が,過去の交渉経緯に関するメモや過去に発行していた請求書,相手方から取得していた資料を保管していましたので,これを用い,訴訟を有利に進めることができました。

債権が多額にわたり,かつ相手方の事業が縮小されていた場合,漫然と訴訟を行っていては,判決を得たとしても,そのころには,相手方が「ない袖は振れない」状態になり,判決書がただの紙切れになってしまいます(勝訴=金銭回収というわけではないのです。)。
そのため,このような場合は,債権保全という選択を行うことになります。相手方にどのような資産,債権があるかについて,当事務所は,相手方の取引実態に関してヒアリングを行い,過去の事例も参考にしながら想像し,事案に最適な調査を尽くすことができると考えています。
勝訴判決を得ることは,ゴール地点ではなく,債権を回収することがゴール地点となります。当事務所では,このゴール地点から手続きを検討することにより,依頼者にとって有利な結果をもたらす手続きを検討,実行することができると考えています。

解決までに要した期間

依頼を受けてから1年半(和解の成立までの期間)

伊藤 良太 弁護士法人フォーカスクライド パートナー弁護士執筆者:伊藤 良太

弁護士法人フォーカスクライド パートナー弁護士。
中小企業の事業承継・相続対策及び資本政策を中心として、契約・労務・ガバナンス等の一般企業法務や、M&A、不動産案件も取り扱う。
事業承継については、経済産業省での執務経験も活かして、法務・税務横断的な提案を得意とし、事業と家族の双方に配慮した円滑・円満な承継に注力している。

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