経営者の成長に欠かせない考え方

 別稿の【人事戦略から切り離すことができない「教育」】と同様、本稿でも、伊藤真塾長のお話を引用しつつ、「経営者の成長に欠かせない考え方」というテーマで書かせていただきます。

【伊藤真塾長から語られたこと】

 ある場で伊藤真塾長から語られたお話の中で、次の2点は、経営者又は上司という立場にある方々にとって非常に参考になる内容でした。

①教育とは何か(別稿【人事戦略から切り離すことができない「教育」】
②自分の周りで起きた上手くいかないこと全てを学びに変えるための考え方(本稿)

 伊藤真塾長は、過去の挫折の1つとして、法科大学院(ロースクール)創設の失敗という出来事を引用しつつ、以下のような趣旨のお話をされました。

 ※ちなみに、法科大学院(ロースクール)とは…
 司法試験合格を目指す学生が入学する大学院(法学部の司法試験用の大学院みたいなものですが、法学部以外の学部から入学する学生もいます。)です。
 法科大学院という制度は、司法制度改革の1つの柱として国が創設した制度ですが、これにより、司法試験を受験するためには、原則として法科大学院を卒業しないといけなくなりました。

 

私は、「日本一の法科大学院を作る!」という想いで全勢力を注ぎ込み、法科大学院創設のための要件を全て整えましたが、反対勢力の反発に遭い、最終的に法科大学院の創設を断念せざるを得なくなりました。
これにより、経済的損失はさることながら、「伊藤真は国から認められなかった」等という風評被害をも受け、当時は大変でした。
この時は、私は、「なぜ上手くいかなかったのだろう?」と自問自答した結果、「‘’自分が‘’日本一の法科大学院を作る」というように、「自分が」という「我」が出ていたからだと気づきました。当時の私の頭の中には、自分以外の法科大学院のこと等全く考えていなかったのです。「自分さえ良ければそれでいい」という考え方が無意識のうちにあったのだと思います。
やはり「自分さえ良ければ」「自社さえ良ければ」という考え方で始めたことは上手くいかないことが多いということを再認識し、自分の全ての「在り方」を見直すことができました。

 この話を聞いて、私は衝撃を受けました。
 このエピソード自体は業界では有名でしたので私も認識していましたが、これまで私は「明らかに理不尽な仕打ちだな。出る杭は打たれるから、仕方ないか。その反対勢力の器が小さすぎただけだ。」と思っていましたし、おそらく伊藤真塾長もそのように考えているだろうと何気なく考えていました。
 しかし、その頃、伊藤真塾長は私とは全く異なることを考えていたのです。このような状況でも、「なぜ上手くいかなかったのだろう?」と自問自答し、「何か自分に原因がなかったか?」と自分に矢印を向けていたのです。

【「考え方」の重要性】

 京セラやKDDIの創業者である稲盛和夫氏が打ち出した有名な方程式として、
「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」
が紹介されることが多いですが、私も色々な成長企業経営者の姿を見ていて、この方程式は正しいと確信しています。

 この方程式の要素の中で、唯一「マイナス」になる要素が「考え方」です。確かに「熱意」や「能力」は個人差がありますし、「能力」については一定の努力が必要になりますが、「マイナス」になることはありません。最悪でも「ゼロ」ですので、人生・仕事の結果が「マイナス」になることがないのです。

 しかし、「考え方」だけは、自己中心的・利己的な考え方であったり、悪だくみであった場合、「マイナス」になることがあります。そして、経営者や上司になる方々は、一般的に「熱意」がものすごくあり、「能力」も高いことが多いため、「考え方」がマイナスになった途端に、人生・仕事の結果は「大きくマイナス」になってしまいます。

 しかも、「能力」と違って、この「考え方」は気を抜くと、一瞬で「マイナス値」になってしまう危険を孕んでいます。昨日まで正しい考え方であった方が、一晩で、正しくない考え方になって暴走してしまうことはあり得ます。
 そこで、常に「考え方」が「マイナス値」にならないように意識することが重要になってきます。

【自分に矢印を向ける考え方】

 何をもって「考え方」が「マイナス値」と評価できるのか、については色々な見解があろうかと思いますし、「考え方」といっても、その切り口は数多く存在します。
 その1つとして、伊藤真塾長のお話からも学び取れることですが、持続的に成長する経営者は共通して、「身の回りで上手くいかないことが起きた時に、まずは自分に矢印を向けて、その原因分析を行っている」ということを感じます。

 伊藤真塾長のお話にあったエピソードと同じような事態が発生し、自社に多大な経済的損失に加え風評被害が生じた場合、二流の経営者は、おそらく「反対勢力に対する愚痴を言って終わる」、「自分は運が悪かっただけで自分に原因はないと結論付けて終わらせる」と思います。

 もう少し身近な例であれば、部下が何かしらミスを犯してしまった際に、従業員を叱責して、部署を変えたり、懲戒処分したりして、「それだけで終わる」という経営者は、いつまで経っても組織を強くすることができていないように思います。
 もちろん、ミスをしてしまった従業員に対し指導し、場合によっては法的措置を講じることは必要ですし(毅然とした対応をしなければならない問題社員やモンスター社員は増加していますので、ご注意ください。)、そのことを否定するわけではありません。問題は、「それだけで思考が停止し、そこから何も学ぼうとしない」「他人や環境にしか矢印を向けない」という姿勢や考え方です。
 
 何千回失敗しても、最後の1回成功すれば、過去の何千回もの失敗が全て成功の要因に変わります(その意味で、「諦めない限り失敗は存在しない」のですが、ここでは分かりやすく「失敗」という表現を使います。)。
 全ての失敗を成功の要因にできるか否かは、全ての失敗から何を学び取れるかにかかっています。
 そして、そのためには、常に「自分に矢印を向けて、その原因分析を行う習慣」を身につけることが重要だと思います。
 
 経営をしていたら、毎日のように「上手くいかないこと」が発生します。私も毎日その連続です。こんな時、周りのせいにして、当たり散らしたくなります。他人や環境のせいにできたら、とても楽ですから。
 でも、そこで食いしばって、自分に矢印を向けてみてください。まずは、自分に何か上手くいかなかった原因がないかを考えてみてください。

佐藤 康行 弁護士法人フォーカスクライド 代表弁護士執筆者:佐藤 康行

佐藤 康行 弁護士法人フォーカスクライド 代表弁護士
2011年に弁護士登録以降、中小企業の予防法務・戦略法務に日々注力し、多数の顧問先企業を持つ。
中でも、人事労務(使用者側)、M&A支援を中心としており、労務問題については’’法廷闘争に発展する前に早期に解決する’’こと、M&Aにおいては’’M&A後の支援も見据えたトータルサポート’’をそれぞれ意識して、’’経営者目線での提案型’’のリーガルサービスを日々提供している。

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