経営者が知っておくべき法定利率に関するルールとは?

Column for Executive

1.はじめに

2020年4月1日に契約ルールなどを定める民法の債権法部分の改正(以下、「債権法改正」といいます。)が行われ、法定利率についての見直しがなされました。
企業は商取引を日常的に行っていることから私人、企業に対して多くの債権・債務を持っている若しくは負っています。そして、場合によっては支払いが遅延する等の事情により遅延損害金が発生します。その際、遅延損害金は利率によって金額が大きく変わるため法定利率を含めた利率について理解しておくことが大切です。
そこで、以下では、債権法改正によって見直された法定利率について説明します。

2.法定利率に関する見直し

⑴改正のポイント

法律上定められている利率(法定利率)に関する改正については大きく分けて以下の3つの改正ポイントがあります。

①法定利率の引き下げ(施行時:年3%)
①法定利率の引き下げ(施行時:年3%)
③法定利率を用いる場合の基準時の整備

ここからは、法定利率に関するそれぞれの改正ポイントについて詳しく説明していきます。

⑵法定利率の引き下げ

法定利率については、民法制定以来、見直しがなされていませんでした。
そのため、昨今では法定利率(年5%)が市場の金利を大きく上回る状態が続き、法定利率と市場の金利がアンバランスな状況となっていました。
そこで、法定利率を年5%から施行時の時点では年3%とする法定利率の引き下げが行われました。
また、これに伴い年6%という会社の取引に適用される利率も廃止され、法定利率が統一化されました。
したがって、改正前民法では年5%だった個人の顧客に対する債権などの法定利率と、年6%だった取引先の企業に対する債権などの法定利率が、改正後民法ではいずれも年3%(施行時)となり区別をする必要がなくなりました。

⑶緩やかな変動制の導入

改正前民法において法定利率は固定されていました。
法定利率が固定されていると、将来的に法定利率と市場の金利とが再び大きくかけ離れる事態になるおそれがあります。
そこで、改正後民法では、この事態を避ける目的で法定利率を固定制から変動制へと変更されました。
また、法定利率が市場の金利の短期間あるいは、ささいな変化に連動して変わるとこれに対応するために大きなコストがかかってしまいます。
そこで、改正後民法は3年ごとに法定利率を見直し、その際に、基準割合(直近5年間の銀行の短期貸付利率により算定)に前回の変動時と比較して1%以上の変動があった場合にのみ、1%刻みの数値で法定利率を変動させる緩やかな変動制を採用しました。
法定利率が変動制となったことから、債権ごとにいつの時点の法定利率が適用されるのかを個別に判断することが必要となりましたので注意が必要です。

⑷法定利率を用いる場合の基準時の整備

上記のとおり、改正後民法において、法定利率については変動制が採用されました。
そのため、法定利率を計算する時に、いつの時点の法定利率を用いるべきなのか混乱しないよう、法定利率の基準時が整備されました。
具体的には、利息の算定に当たっては利息が生じた最初の時点、支払いが遅れたことに対する損害金(遅延損害金)の算定に当たっては支払う責任を負った最初の時点を基準時とする等の整備がなされました。
また、変動制がとられることになると、一つの債権について、債権が存続している間に法定利率が変動した場合に、複数の法定利率が適用されるのではないかとの心配がありますが、一つの債権については一つの法定利率が適用され、その後の法定利率の変動の影響を受けることはないこととされています。

⑸実務の影響、対策

以下、具体例に沿って法改正による企業取引への影響、そして、どのような対策を行うべきかについて説明します。

具体例
企業Aが企業Bと業務委託契約を締結し、業務を行ったのですが、Bが委託料を支払いませんでした。その後、AがBに対し委託料を請求する訴訟を提起し、勝訴した場合、遅延損害金はどのように算定されるのでしょうか。

ⅰ利率について
改正前民法ではBが企業であるため遅延損害金は、会社の取引に適用される法定利率の6%で算定されていました。
一方、改正後民法においては、相手が企業の場合にも法定利率は年3%(施行後3年間の場合)で算定されるため、以前よりも遅延損害金の額が減少することになります。
そこで、これまで通り利率を年6%とするなど、遅延損害金の利率を法定利率よりも多くすることで、相手方にプレッシャーをかけて債権回収対策を行いたいと考えた場合、利率は当事者間の合意でも決められるため、契約書に利率を明示しておくという方法があります(もちろん、消費者契約法等の上限規制には留意してください。)。

ⅱ基準時について
改正後民法では法定利率が変動制になったため、基準時が明確でないといつの時点が基準時となるのかについてトラブルになるおそれがあります。
そのため、法定利率の基準時となる委託料の支払日を契約書の中に明示しておくといった対策をとることが大切になります。
このように、契約を締結する際には、遅延損害金の約定について明示しておく重要性が増したといえます。

3.おわりに

当事務所では、契約書チェックを日々の業務として多く取り扱っており、将来の紛争リスク予防や具体的なリスクの程度を勘案した上で利率をどのように設定すべきかなど様々なリーガルチェックが可能です。
まずは、お気軽に当事務所までご相談ください。

執筆者:弁護士法人フォーカスクライド

中小企業の企業法務を中心とした真のリーガルサービスを提供するべく、2016年7月1日に代表弁護士により設立。
「何かあった時だけの弁護士」(守りだけの弁護士)ではなく、「経営パートナーとしての弁護士」(攻めの弁護士)として、予防法務のみならず、戦略法務に注力している。
また、当法人の名称に冠した「フォーカスクライド」とは、「クライアント・デマンド(クライアントの本音や真のニーズ)に常にフォーカスする(焦点を合わせる)。」という意味であり、弁護士が常にクライアントの目線で考え、行動し、クライアントの本音やニーズに焦点を合わせ続けることを意識して、真のリーガルサービスを提供している。
なお、現在では、資産税に特化した税理士法人フォーカスクライドと、M&A及び人事コンサルティングに特化した株式会社FCDアドバイザリーとともに、グループ経営を行っている。

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