国外財産調書制度について

1. はじめに

 近年、国外財産の保有が増加傾向にある中で、国外財産に係る所得税や相続税の課税の適正化が喫緊の課題となっていることから、国外財産を保有する方にその保有する国外財産について申告をする仕組みとして、国外財産調書制度が創設され、平成26年1月から施行されました。
 実務においても、国外財産を所有している納税者に対する税務当局からの問い合わせ(国外財産調書に関するお尋ね)も非常に増えております。
今回のコラムでは、国外財産調書制度について触れていきます。

2. 制度の概要

 国外財産調書制度とは、適正な所得税及び相続税の課税を行う目的で、国外財産を、納税者の自主的な判断により税務署へその内容を届け出るものになります。
 その年の12月31日において、その価額の合計額が 5,000 万円を超える国外財産を有する居住者の方(非永住者の方を除きます。)は、その年の翌年の3月15日までに、その国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した「国外財産調書」を、所轄税務署長に提出しなければならないこととされています(内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(以下 「国送法」。)5①本文)。
 なお、相続開始の日の属する年の年分の国外財産調書については、その相続又は遺贈により取得した国外財産(以下「相続国外財産」。)を記載しないで提出することができます。
 この場合において、相続開始年の年分の国外財産調書の提出義務については、国外財産の価額の合計額から相続開始年に取得した相続国外財産の価額の合計額を除外して判定します(国送法5②)。この取扱いは、令和2年分以後の国外財産調書について適用されています。 国外財産調書は、自主的に自己の情報を記載し提出するものであることから、適正な提出を確保し、国外財産に係る情報を的確に把握するために、以下の特例措置が設けられています(国送法6、10)。

①加算税の軽減措置

提出された調書に記載された国外財産に係る所得税・相続税の申告漏れが生じたときであっても加算税を5%軽減します。

②加算税の加重措置

調書の提出がない場合又は提出された調書に記載のない国外財産に係る所得税・相続税の申告漏れが生じたときには、加算税を5%加重します。
(注1) 相続税に係る加算税の加重措置については、令和2年4月1日以後に取得した相続国外財産に対する相続税について適用されます。
(注2) 相続国外財産については、相続国外財産を有する方の責めに帰すべき事由がなく提出等がない場合には加重措置の対象となりません。この取扱いは、令和2年分以後の所得税又は令和2年4月1日以後に取得した相続国外財産に対する相続税について適用されます。
③国外財産調書に記載すべき国外財産に関する書類の提示等がない場合の加算税の軽減措置又は加重措置の特例
国外財産に係る所得税又は国外財産に対する相続税の調査に関し修正申告等があり、加算税の適用のある方が、その修正申告等の日前に、国外財産調書に記載すべき国外財産の取得、運用又は処分に係る書類(電磁的記録や写しを含みます。)の提示又は提出(以下「提示等」。)を求められた場合に、その日から 60 日を超えない範囲内で、提示等の準備に通常要する日数を勘案して指定された日までに提示等がなかったとき(提示等をする方の責めに帰すべき事由 がない場合を除きます。)は、
・上記①の加算税の軽減措置は、適用しない。
・上記②の加算税の加重措置については、加算割合を5%から10%とする。
(注) この取扱いは、令和2年分以後の所得税又は令和2年4月1日以後に取得した相続国外財産に対する相続税について適用されます。

④罰則の適用

正当な理由なく期限内に提出がない場合又は虚偽記載の場合に、1年以下の懲役又は50 万円以下の罰金が科せられます。

3. 国外財産調書の提出状況

 令和4年2月1日に、国税庁のホームページ上にて、令和2年分の国外財産調書の提出状況が公表されました。
 国税庁の当該資料によりますと、提出総件数は11,331件となり、当該調書制度創設以来において最多提出数となりなした。
 その提出件数の内訳をみてみると、東京局、大阪局及び名古屋局で85.6%を占めていることが確認できます。また、提出している調書における総財産額も東京局、大阪局及び名古屋局で91.7%を占めています。
 このことから、本制度の調書を提出しているのは首都圏に集中しているといえます。

4. おわりに

 以前は、日本の税務当局が国外財産を把握することは難しかったが、近年においては本コラムで紹介した国外財産調書制度や非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である共通報告基準(CRS)等の資料情報の活用により、納税者の財産の国際化に対応し、適正な課税を実現することが可能となっています。
 弊所でも国外財産調書の提出のみならず、国外資産の各種申告も対応しておりますのでお気軽にご連絡ください。

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