”できるリーダー’’の習慣とは①(AI分析によるトップ5%リーダーの特徴)

 約10年間、企業法務を中心に弁護士業を展開させていただく中で、色々な経営者や経営幹部の方とお話させていただきましたが、同じリーダーという立場(いわゆる‘’管理職‘’以上の立場の方で、ここでは経営者も含みます。以下同様です。)にあっても、「できるリーダー」と「できないリーダー」は明確に分かれるということを日々痛感します。なお、「できる」「できない」という表現は多分に主観を含みますので、ここでの「できる」「できない」の基準は、「与えられた仕事に対して結果を残し続けているか否か」とさせていただきます。
 そして、この「できるリーダー」と「できないリーダー」の違いがどこにあるのかについて、‘’感覚的に‘’ではなく、‘’言語化できる程度に明確‘’になれば、それに従ってリーダーの行動を変えさせることができ(明確な行動指針を示すことができ)、自ずと成果を出し続けるリーダーを育てることができると考え、リーダーの言動を観察・分析してきました。

 この難しいテーマについて、最先端のAIを駆使してデータを収集し結果をまとめた非常に参考になる文献に出会いましたので、この文献を紹介させていただきたいと思います。
 皆様も「確かに!」と思うことが多々あろうかと思いますので、すぐに取り入れられそうな行動については、取り入れていただき、また、皆様の会社の管理職の方々にも是非共有していただければと思います。

【AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣】
(著者:越川慎司氏、出版日:2021年8月20日)
※以下は、本文献を要約した内容です。

<AIサービスと人間による調査と分析>

 本文献では、AIを使った調査結果を前提としていますが、当該調査では、著者のクライアント企業27社の協力を得て、合計1400時間以上にわたる行動履歴が取得されています。 
また、調査対象者は、管理職の中でトップ5%の「5%リーダー」1841名、一般的な管理職1715名、合計3556名です。
さらに、調査・分析方法は、対象となるトップ5%リーダーと、それ以外の管理職の行動データを以下のようなデジタルデータから取得し、これらの膨大なデータをAIと人間により分析するという方法です。

・オンライン会議の録画データ
・カレンダーなどのグループウェア利用履歴
・アプリケーション利用履歴
・クラウドサービス利用履歴
・ビジネスチャットの会話履歴
・メールの送受信履歴
・作成した資料ファイル一式
・ヒアリング録音データ
・多種多様なオンラインアンケート結果
・働きがい診断結果
・過去5年間の人事評価
・社内異動履歴
など

<5%リーダーが考えていること>

5%リーダーは、チームが目標達成することのみを考えています。そのために、5%リーダーは、メンバーには必ずタレント(能力)があることを信じ、それを引き出すためにどのようにティーチングとコーチングをすべきかを考えています。
 メンバーたちに自由と責任を与え、自発的に動いてもらうことで、リーダー自身の管理負荷を減らそうともしています。5%リーダーは、全てを完全にマネジメントできないと腹をくくっており、「メンバーのほうが自分より顧客や現場に近い分、より多くの情報に触れ業務スキルが高い」と答える5%リーダーが大勢いました。
 つまり、5%リーダーは自分ひとりでは達成できない大きな目標を達成するために、今までやっていた自分の能力や経験を手放しているのです。この上司の「手放す」という行為が実はチームの結束力を生み、それがチーム個々人の自主性を育みます。

<AIが突き止めた!トップ5%リーダーの意外な特徴>

①トップ5%リーダーの59%は歩くのが遅い!

→ トップ5%リーダーのうち58%が、別のアンケートで、「意図的に時間と気持ちに余裕を作るようにしている。」と答えていたので、これが歩くスピードに反映されているのだと思います。
→ トップ5%リーダーは自分が仕切る会議では時間内に終わることを厳守していました。他の管理職よりも会議中に時間を確認する回数は2.8倍多く、時間内どころか予定より早く終わらせようとしています。
 また、会議改革に取り組む5%リーダーが多く、一般的な管理職の3倍以上の人が社内会議の量と質を改善しようとしていました(ex.30分の定例会議を25分に設定、意思決定の会議は参加者数を絞る、会議の冒頭でアジェンダと各参加者の役割を発表する、など)。

②トップ5%リーダーの58%は話が短い!

→ 5%リーダーのうち58%は、発言頻度は多いが、発言時間は短いことがわかりました。
 「丁寧に話せば確実に伝えることができる」と勘違いする管理職も多くいますが、事細かに説明しても、相手がそれを聞く気にならなければ伝わりません。
→ 5%リーダーは最初の一言に魂を込めます。
 会議が終わった1時間後、参加者に、「どのパートが最も記憶に残っているか?」を聞いたところ、最も記憶に残っていたのは「最後の5分」でした。しかし2番目に記憶に残っているパートを聞くと、69%の人が「冒頭の入り」と答えました。特に冒頭の一言はインパクトが残りやすいことがわかりました。
→ 一般的な管理職は1on1ミーティングで、自分が7割話し、メンバーに残り3割ぐらい話をさせていましたが、5%リーダーはミーティング時間の平均67%をメンバーに話させているのが特徴的でした。
 5%リーダーはメンバーに自分自身のことを考えさせる時間を作って、その気づきや学びを思う存分話してもらうことを狙っていました。

③トップ5%リーダーの48%はメンバーにかなわないと思っている!

→ 5%リーダーのうち48%は「自分がメンバー全員の能力を上回っている必要はない」と答えています。現場のメンバーが自分で考えて自走する組織を目指す上で、リーダーが全ての能力を担って動く必要はないと考えているのです(一方、一般的な管理職は、「メンバーにはかなわないと思いますか」という質問に対して「いいえ」と答える人が75%でした。)。
 5%リーダーは、自らの業務遂行能力を高めることを諦めています。自分の業務処理能力を高めることより、メンバーの能力を高めるために、チーム全体の調整をすることが自分の責務だと思っています。5%リーダーはメンバーのストロングポイントに注目し、そこを伸ばしてあげることに注力していました。
 → 5%リーダーは、メンバーには自分にも得手不得手があるという前提で、役割分担しながら同じ方向に向けて切磋琢磨していこうとしています。これこそが、5%リーダーが目指す「共感・共創」の関係です。

④トップ5%リーダーの65%は思いきった決断をしない!

→ 8000時間におよぶオンライン会議の録画データを見ると、一般的な管理職に比べて、5%リーダーの決定数は約25%多かったです。
 例えば、同一のクライアント企業・同じ職責の管理職で、同じ案件の意思決定のスピードを測ったところ、5%リーダーは他の管理職に比べて意思決定スピードが約1.3倍速いことがわかりました。
→ 「進むぞ!」と決断するのと同時に、「代わりにこっちはやめる」というトレードオフをしています。やる覚悟とやめる覚悟を持っているのが5%リーダーの特徴と言ってよいでしょう。
→ しかし、5%リーダーは、一か八かの思い切った決断をしないことがわかりました。
 「失敗確率を下げる」と発言したのは、5%リーダーで291名、一般的な管理職は4名でした。成功例を真似することに注力している一般的な管理職は891名、5%リーダーは3名でした。5%リーダーは成功確率を上げようとしているのではなく、失敗確率を下げようとしていたことがわかりました。

⑤トップ5%リーダーの67%は「感情」を共有する!

 → トップ5%リーダーは、相性を超えて、メンバーの「できること・できなこと」に関心を持ち、他のメンバーの「できること・できないこと」を組み合わせることで、最大限の効果を引き出そうとしています。
 → そのため、5%リーダーはまずメンバーを把握するために、対話の頻度と、相手にしゃべらせる時間を増やします。メンバーとの対話では、単純に結果を共有してもらうだけではインサイトを得ることができないので、その結果が導き出された理由を掘り下げていきます。
 チーム全体で成果を出し続けるためには、心理的要因も重要であることを5%リーダーは理解しています。5%リーダーの67%が「情報」よりも「感情」の共有を重視すると答えていました。これは一般的な管理職の21倍です。
 感情共有とは、相手の感情に寄り添うことです。感情が生み出されたメカニズム、人が行動を起こすメカニズムを理解しようとすることが大切です。

よかれと思ってやってしまう「95%リーダー」の行動習慣
①95%リーダーは部下に答えを教える。
 × 答えを教えて、上司に依存する部下を育てる。
 〇 答えの出し方をサポートして、自分で考えて行動する部下を育てる。
②95%リーダーは何でも「見える化」しようとする。
 × 進捗を100%把握するために、報告書などの提出物を増やす。
 〇 年間目標と行動目標は共有し、実現方法はメンバーに任せる。
③95%リーダーはタスク管理が自分のメイン業務だと信じる。
 × タスクの進捗を確認し、全メンバーの全タスクが順調に進むように管理する。
 〇 仕事がきたとき、受けるかどうかの判断に最大のエネルギーを注ぎ、受けた仕事をメンバーに委ねる。
④95%のリーダーは週報の作成にエネルギーを費やす。
 × 週報にチームの成果をまとめて、上司や経営陣にアピールする。
 〇 チームの進捗を誰でも見られる状態を構築し、現場の状況を見て次の行動を設計する。
⑤95%リーダーは定例会議で自分が7割話す。
 × メンバーよりも多く発言し、参加者が傍観者になる。
 〇 メンバーの発言機会を作り、参加者全員が会議を「自分事」として捉える。
⑥95%リーダーは感情で人を動かそうとする。
 × 感情的に結果を責めて、メンバーと信頼関係を築けない。
 〇 まずは結果よりも関係構築にフォーカスし、協力体制を作る。

 
 「与えられた仕事に対して結果を残し続けているリーダー」には、「行動」レベルで、一定の共通点があることがわかります。この「行動」レベルの共通点を、1つでも多く取り入れ、今日の行動を1つずつ変えていけば、確実に成果を出せるようになると思います。

佐藤 康行 弁護士法人フォーカスクライド 代表弁護士執筆者:佐藤 康行

佐藤 康行 弁護士法人フォーカスクライド 代表弁護士
2011年に弁護士登録以降、中小企業の予防法務・戦略法務に日々注力し、多数の顧問先企業を持つ。
中でも、人事労務(使用者側)、M&A支援を中心としており、労務問題については’’法廷闘争に発展する前に早期に解決する’’こと、M&Aにおいては’’M&A後の支援も見据えたトータルサポート’’をそれぞれ意識して、’’経営者目線での提案型’’のリーガルサービスを日々提供している。

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