私は、弁護士になった時から約10年間、「伊藤塾」という受験指導校(司法試験のための専門学校のような塾で、私も大学時代、ここで法律を勉強しました。)の専任講師として、司法試験合格を目指して法律を一から学ぶ学生や社会人に対して、法律を日々教えています。
※伊藤塾について:https://www.itojuku.co.jp/
その伊藤塾が、このたび開塾25周年を迎え、2021年8月1日、伊藤塾から実務家となった弁護士、司法書士、行政書士その他の法律家たちのための「伊藤塾同窓会」を創立し、私も一同窓生として、伊藤塾同窓会創立総会に出席してきました。
ここで伊藤真塾長から語られたお話が、企業や経営者が成長するための視点として、非常に参考になりました。
そこで、伊藤真塾長のお話を共有させていただきつつ、人事組織戦略から切り離すことができない「教育」というテーマで書かせていただきます。
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伊藤真塾長は、司法試験業界では誰もが一度はお名前を聞いたことがあるくらい有名なカリスマ講師であり、かつ、参議院で意見陳述を行ったり、メディアや書籍でも様々な意見を世の中に発信し続けている法律家でもあります。法律実務家の中でも「伊藤真に法律を教わった」という方は多くいらっしゃいます。
そして、伊藤真塾長は、25年間、「世の中の幸せの総量を増やし、憲法価値を実現していく」という理念を貫き、圧倒的な司法試験合格実績という結果を出し続けておられ、私が、教育者として、また経営者として、本当に尊敬している方の一人です。
※伊藤真について:http://www.itomakoto.com/
ある場で伊藤真塾長から語られたお話の中で、次の2点は、経営者又は上司という立場にある方々にとって非常に参考になる内容でした。
伊藤真塾長は、教育について、以下のような趣旨のお話をされました。
「教育とは、夢を語り続け、それを形にする姿を見せること」、別の言い方をすれば「教育とは、夢・理想に向かって戦い続ける背中を見せること」です。
「夢」や「理想」と言うと、「何を綺麗事ばかり言っているのか?」「綺麗事だけで世の中上手くいかない」という声がすぐにあがってきます。そのような声も確かに一理ありますが、それでも、「夢」や「理想」を堂々と語り続ける人がいないと、世の中は何も変わりません。歴史上、偉業を成し遂げてきた人物も、皆「夢や理想のような青臭いことを堂々と言い続けてきた方」ばかりです。
伊藤真塾長の「教育」という言葉は、「教育者」という立場の方に向けた言葉ではなく、世の中を動かしていく方々、他人を指導教育する立場にある方々に向けた言葉でした。そのため、企業経営者や上司の立場にある皆様にも当てはまる言葉です。
人を動かすためには、大前提として、ワクワクするような「夢」や「理想」を、経営者自身が目を輝かしながら語り続けることが重要だと思います。
従業員がイキイキと働いている企業を訪問した際、私は機会があれば、その従業員に会社や社長の魅力を聞くようにしているのですが、多くの場合、「ただ単純に社長に付いていきたい、社長のビジョンを一緒に実現したいと思ったんです。この人に付いていけば、何かすごい景色を見れそうな気がします。」という趣旨の話をしてくれます。
他方で、つい先日、ある顧問先の社長から、「従業員のモチベーションを上げるために、やはり昇給をした方が良いでしょうか?」「どうしたらやる気を出してくれますかね?」という相談を受けました。
経済的メリットを与えることも、時と場合によっては効果的なことはありますが、人は経済的メリットにはすぐ慣れてしまいます。そのため、私は、従業員の「モチベーション」や「やる気」を出させるため「だけ」の昇給や賞与の効果・効能は長く続かず、また年功序列的な賃金制度も、人件費率をどんどん上げてしまう(従業員の生産性や企業の業績が上がらないにもかかわらず、人件費だけ半自動的に上がる)ため、お勧めしません。
従業員のモチベーションを上げるためには、経済的メリットを与えることだけではなく、経営者が「夢」や「理想」を語り、かつ、きちんと「共有」すること、そして、従業員1人1人の「自己有用感」を十分に満たすことだと思います。
「夢」や「理想」、また会社の「理念」等、経営者の考えを、他人である従業員に「共有」するためには、一度語るだけでは足りません。何度も何度も、高頻度で、繰り返すことが重要です。従業員から「社長、また言ってるよ」と思われるくらい繰り返す必要があると思います。
ある方から聞いた話ですが、ニトリの現代表も、セブンイレブンの前代表も、毎週、企業理念に関する勉強会を開き、同じことを色々な角度からお伝えしているようです。
そして、伊藤真塾長の言葉の中で大切なことがもう1つあります。それは、夢や理想を「語る」だけでなく、それを「形にしようと挑戦する姿を見せる」という点です。
これは、「成功した姿だけを見せようとする必要はない」という意味だと私は理解しています。むしろ、組織のトップが、失敗しながらも何度も挑戦し続ける姿を見せることが大切だと思います。成功の裏には、何百倍、何千倍もの挑戦、失敗、苦悩等があるという「過程」を見せることこそが、人を育てる上で本当に重要なことだと思います。
「夢」や「理想」を語ってくださいという話をすると、「思い浮かばない」という方が時々いらっしゃいます。ただ、このような回答をされる多くの方が、将来のビジョンを描く際に、無意識のうちに「できるかできないか」という視点で考え始めていることが多いです。
「できるかできないか」という視点から物事を考え始めると、必ず思考は制限されます。将来のビジョンを描く際は、この視点を意識的に排除し、「考えたことが全て現実化するとすれば」という前提で、ワクワクするままに思考を連鎖的に広げていくことが重要だと思います。
恥ずかしがらずに、また、どうせ伝わらないと勝手に諦めることなく、是非、ワクワクする「夢」や「理想」を従業員や同僚に語ってみてください。青臭いことを堂々と語ってみてください。
そして、何度も何度も、従業員や同僚に対し、その「夢」や「理想」を「共有」する時間を意識的に作ってください。今、ご自身の予定表に、共有の時間を組み込んでみてください。このような緊急度が低いが重要度の高いタスクは、先に予定表に記入してしまうことがコツだと思います。
さいごに、成功した姿(結果)だけを見せようとせず、是非、挑戦する姿、失敗する姿、苦悩する姿など、何度も困難に立ち向かう「過程」の姿を堂々と見せてみてください。
執筆者:佐藤 康行
佐藤 康行 弁護士法人フォーカスクライド 代表弁護士
2011年に弁護士登録以降、中小企業の予防法務・戦略法務に日々注力し、多数の顧問先企業を持つ。
中でも、人事労務(使用者側)、M&A支援を中心としており、労務問題については’’法廷闘争に発展する前に早期に解決する’’こと、M&Aにおいては’’M&A後の支援も見据えたトータルサポート’’をそれぞれ意識して、’’経営者目線での提案型’’のリーガルサービスを日々提供している。