オンライン服薬指導サービスの注意点について

1 オンライン服薬指導の解禁の経緯、沿革について

(1)服薬指導とは、薬剤師法25条の2に基づき薬剤師に課されている義務であり、患者が医師から処方された薬に対して患者の自己判断で服薬を中止・休止したり、服薬量を間違えたりすることを防止するため、患者が医師から処方された薬に対して薬効・副作用などの正確な情報を説明する薬剤師の業務のことを指します。

(2)これまで、患者が服薬指導を受ける方法としては、医師の診察・治療を受けた患者が、病院で受け取った処方箋を薬局に持参し、薬局において薬剤師から対面で服薬指導を受けるという方法が続けられております。
 しかし、医療体制が整っていない離島やへき地に住む方や、諸般の理由により通院や薬局へ出向くことが困難な患者に対する医療ニーズに加え、新型コロナウイルスの流行による社会全体のニーズに応えるため、従来の対面方式の服薬指導に加え、スマートフォンやタブレットなどの通信機器を用いたオンライン方式での服薬指導を行うことが可能となりました。

(3)オンライン服薬指導は、2019年の改正薬機法により、2020年9月の施行が予定されていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大を背景に、2020年4月に時限的・特例的な対応としてオンライン服薬指導を解禁する「0410通知」が厚生労働省から発出され、オンラインでの服薬指導が可能となりました。
 その後、2022年3月31日に厚生労働省より発出・施行された『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則の一部を改正する省令の施行について(000922763.pdf (mhlw.go.jp))』では、オンライン服薬指導の規制緩和が行われました。具体的には、0410通知と同様に、初回からオンライン服薬指導が可能になったほか、処方箋の原本が届くまでの間はメールやファクシミリで送られた処方箋を基に調剤できるようになりました。また、服薬指導計画書の作成が不要となり、オンライン診療や訪問診療など診療形態に関わらず、オンライン服薬指導ができるようになりました。
 さらに、2022年9月30日に厚生労働省から『オンライン服薬指導の実施要領について(・オンライン服薬指導の実施要領について(◆令和04年09月30日薬生発第930001号) (mhlw.go.jp))』が発出され、患者からの要望がある場合や患者の異議がない場合に、薬剤師は薬局以外の場所からオンライン服薬指導ができるようにもなりました。
 このように、これまでは対面方式で行われてきた服薬指導が、オンライン方式でも実施できるように法整備が行われてきました。

2 最新の法改正によって認められているオンライン服薬指導の実施方法について

(1)2022年3月31日及び同年9月30日に行われた法改正により、オンラインでの服薬指導が可能となったことは既にご説明した通りですが、オンライン服薬指導を行う際には、いくつかの点で注意が必要です。コロナ禍において認められていたオンライン服薬指導については「0410通知」に即して、「0410対応」とも呼ばれておりますが、「0410対応」については、令和5年3月31日に厚生労働省から発出された『新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(001083715.pdf (mhlw.go.jp))』において、「0410対応」が令和5年7月31日をもって終了することが発表されております。
 「0410対応」が終了することによって、2022年3月31日及び同年9月30日に行われた法改正の内容がオンライン服薬指導を行う上での法規定となりますが、特に注意が必要なのは、オンライン服薬指導を行う際の通信方法になります。「0410対応」においては、電話による服薬指導、つまり音声のみによる服薬指導が可能とされてきました。しかし、「0410対応」が終了した以降のオンライン服薬指導においては、電話による音声のみの服薬指導は認められず、映像及び音声による通信方法によってのみ、オンラインでの服薬指導が認められることとなります。

(2)その他にも、「0410対応」が終了することによって、「0410」対応においては規定が設けられていなかった服薬指導計画については、服薬指導計画と題する書面の作成は不要であることが明確になりました。
 また、前述のとおり、「0410対応」においては、薬剤師がオンライン服薬指導を行う実施場所については、薬剤師が調剤を行った薬局内のみにおいてオンラインでの服薬指導が認められておりましたが、「0410対応」終了後においては、薬剤師は患者の求めがある場合または患者の異議がない場合には、薬局以外の場所においてもオンライン服薬指導を実施することが可能となります。もっとも、オンライン服薬指導を実施する具体的な場所については、対面による服薬指導が行われる場合と同程度に患者のプライバシーに配慮した場所を選択する必要があります。

3 オンライン服薬指導を行う上での注意点について

(1)オンライン服薬指導を行う際には、患者と薬剤師との間に継続的な信頼関係が構築されていることが望ましいものとされています。これは、オンライン服薬指導時の相互の誤認識・理解不足を防ぎ、円滑な薬物治療を維持する観点から、対象とする患者に対して日頃から継続して服薬指導を行うなど、服薬状況等を一元的・継続的に把握し、当該薬剤師と当該患者との信頼関係を築いておくことがオンライン服薬指導を実施する上では重要であると考えられているからです。

(2)また、オンラインでの服薬指導を行う薬剤師としては、患者の薬剤の使用状況等のフィードバックはもとより、適宜対面による診療・調剤を確保する観点からも、処方箋を交付した医師・歯科医師と適切な連携を図る必要があります。
 フィードバックという点に関しては、対面での実施に比べ、オンラインでの指導は、服薬指導後の患者の薬剤の使用状況や回復状況についても簡易に確認することが可能であるため、薬剤師の方から積極的に患者の状態を確認するべきです。

(3)オンライン服薬指導を行う薬剤師及び薬局においては、患者の急変などの緊急時等においても患者の安全を確保するため、処方医等との連絡体制など必要な体制を確保する必要があるともされています。
 加えて、患者の薬剤の使用状況や処方医からの要望等によりオンライン服薬指導を中止する必要が生じた場合に備えて、速やかに対面による服薬指導に切り替えられるよう適切な体制整備を準備しておくことも重要となります。

4 当事務所でできること

 オンラインでの服薬指導については、数年の間に大きな法改正が行われ、急速に法整備が行われてきました。現段階では、オンラインでの服薬指導が全国各地にまで広まっているわけではありませんが、今後医師による診療自体がオンラインで実施されるようになり、病院に行かずとも医師の診療を受けることができるようになれば、家の中で医師の診察を受け、家の中で薬剤師から服薬指導を受け、薬剤を入手することができるようになっていくことが予想されております。
 当事務所では、日々変化する法制度や法律の運用について、迅速かつ適切な対応をアドバイスさせていただくことが可能です。オンライン服薬指導に限らず、薬局を経営されている企業様や今後薬局の開業をお考えの企業様も、お気軽にご相談ください。

波多野 太一 弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士執筆者:波多野 太一

弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。
2022年に弁護士登録。企業・個人を問わず、紛争や訴訟への対応を中心に扱い、企業間取引においては契約書等の作成・リーガルチェックといった日々の業務に関する法的支援も多数取り扱っている。
また、相続や交通事故に伴う個人間のトラブルや、少年事件や子どもに関するトラブル等も多数取り扱っている。
企業・個人を問わず、困難に直面している方に寄り添い、問題の解決や最大限の利益の追及はもちろん、目に見えない圧倒的な安心感を提供できるように努めている。

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