医療関係者が留意すべきヘルスケア関連商品の広告規制について

第1 はじめに

 公益社団法人日本広告審査機構(JARO)の2022年度(2022年4月~2023年3月)の審査状況によれば、2022年度にJAROが受け付けた広告・表示に対する苦情は9206件(前年度10319件、前年度比89.2%)でした。「苦情」9206件を申立内容別にみると、大別して⑴表示、⑵表現、⑶手法に対するものに分かれ、「表示」は4953件でした。苦情のうち表示が占める割合が高い業種は、「医薬部外品」、「化粧品」、「健康食品(保健機能食品以外)」となっています。
 本記事では、ヘルスケア関連商品のうち、このような苦情報告の多い医薬部外品・化粧品や健康食品の広告に関する規制に焦点を当てて、医療関係者が留意すべき点をご紹介します。

第2 医薬部外品・化粧品

1 医薬部外品・化粧品とは

⑴ 医薬部外品とは、薬機法2条2項各号に掲げるものであって、人体に対する作用が緩和なものをいいます。具体的には、デオドラントや制汗剤などの腋臭防止剤、虫よけなどの忌避剤、薬用歯みがき、薬用シャンプー・薬用化粧水、健胃清涼剤・整腸剤・ビタミン含有保健剤などが含まれます。薬用シャンプー・薬用化粧水などは、薬機法上は化粧品ではなく医薬部外品ですが、化粧品の使用目的を有するため、薬用化粧品と呼ばれます。

⑵ 化粧品とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、または皮膚もしくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいいます(薬機法2条3項)。具体的には、化粧水、ファンデーション、シャンプーなどが含まれます。なお、これらの製品群のなかには、前述のとおり、いわゆる薬用化粧品など、薬機法上は化粧品ではなく医薬部外品に分類されるものもあります。

2 薬機法による表示・広告規制

 医薬部外品・化粧品等(「等」には、医薬品、医療機器及び再生医療機器等製品が含まれます。以下同じ。)との関係では、これらの広告が適正を欠いた場合には、国民の保健衛生に多大な影響を与えるおそれがあることから、薬機法66条により誇大広告等が禁止されています。
 具体的には、効能、効果等に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽または誇大な記事を広告などすること(同条1項)、効能、効果または性能について、医師等がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告などすること(同条2項)、堕胎を暗示し、わいせつにわたる文書等を用いること(同条3項)が禁止されています。この虚偽または誇大の判断は、個々の事例ごとに行われますが、この判断、指導の基準として、「医薬品等適正広告基準」(平29・9・29薬生監麻発0929第4号厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課長通知「医薬品等適正広告基準の改正について」別紙(以下では、「適正広告基準」といいます。))があります。この適正広告基準については、後記3でご紹介します。
 誇大広告等を行った場合、懲役・罰金等の刑事罰が定められている(薬機法85条4号)ほか、課徴金制度が設けられています。課徴金納付命令がなされる場合は、課徴金対象行為者に対し、課徴金対象期間に取引をした課徴金対象行為に係る医薬部外品・化粧品等の売上額×4.5%の課徴金を国庫に納付することが命じられます(同法75条の5の2第1項)。

3 適正広告基準

 適正広告基準は、医薬部外品・化粧品等の広告の監視指導の基準ですが、薬機法に違反するという視点だけではなく、医薬部外品・化粧品等の広告の適正を図ることも目的にしています。また、解説として医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について」(平29・9・29薬生監麻発0929第5号厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課長通知、『医薬品』208頁)も示されています。
 本記事で適正広告基準のすべてをご紹介することはできないため、実務上問題になることが多い医療関係者の推薦について取り上げます。
 医療関係者の推薦については、適正広告基準第4で、以下のとおり定められています。

10 医療関係者等の推せん
 医薬関係者、理容師、美容師、病院、診療所、薬局、その他医薬品等の効能効果等に関し、世人の認識に相当の影響を与える公務所、学校又は学会を含む団体が指定し、公認し、推せんし、指導し、又は選用している等の広告を行ってはならない。
 ただし、公衆衛生の維持増進のため公務所又はこれに準ずるものが指定等をしている事実を広告することが必要な場合等特別の場合はこの限りでない。

 このように、医薬部外品・化粧品等の推薦広告等は、一般消費者の医薬品等に関する認識に与える影響が大きいことから、一定の場合を除き、たとえ事実であったとしても禁止されています。たとえば、「〇〇医師が愛用」「〇〇病院公認」といった表現を載せることはできません。なお、推薦等の行為が事実でない場合、上記2で言及した薬機法66条2項(医師等が医薬部外品・化粧品等の効能、効果又は性能について、保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告などすることの禁止)に抵触します。
 また、「医薬品等広告に係る適正な監視指導について(Q&A)」(平30・8・8事務連絡厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課通知)では、化粧品の広告について、「大学との共同研究」との記載は、適正広告基準第4の10の医療関係者等の推薦に抵触するため認められないとされています(Q3)。そのため、たとえば、ドクターズコスメ(法律上の定義はありませんが、本記事では、医師等が開発・監修・推薦に関わっている化粧品を指すものとします。)の広告に「大学との共同開発」と記載することは、適正広告基準第4の10に抵触するものとして認められません。また、「監修」と記載することは、適正広告基準第4の10が挙げる「指定」、「公認」、「推せん」、「指導」、「選用」に該当するわけではございませんが、これらの文言と「監修」という文言が一般消費者に与える影響の大きさはほとんど変わらないと考えられますから、控えることが無難であると考えます。

4 広告規制に関する自主基準

 ここまでは法律を中心にご紹介しましたが、化粧品の広告規制については、業界団体の自主基準も把握しておく必要があります。それが、「「化粧品等の適正広告ガイドライン「化粧品等の適正広告ガイドライン」(2020年版(第2版))です。このガイドラインは、日本化粧品工業連合会が、適正な広告を行うために、薬機法と適正広告基準の趣旨に基づき、化粧品等の製品特性を考慮することにより、化粧品等を対象とした規制及び遵守されるべき事項がより明確になるよう配慮し、自主的に遵守すべき指針として策定したものです。
 たとえば、医療関係者等の推薦との関係で、白衣を着た人を広告に載せることの是非について、以下のとおり記載されています。

E14.0 医師等のスタイル(白衣等)での化粧品等の広告の禁止の原則
 医師等のスタイル(白衣等)の人が、化粧品等の広告中に登場すること自体は直ちに医薬関係者の推せんに該当するわけではないが、医薬関係者との誤認を与えないようにすること。
E14.1 製品の研究者が白衣等のスタイルで登場する広告について
 化粧品等の製品の研究者が白衣等の医師等であるかの誤認性のあるスタイルで登場する広告を行うときは、その製品の製造販売業者等の従業員であることが判る説明を事実に基づき明記した場合に限り、本ガイドラインE 14医師等のスタイルでの広告についてに該当しないものとする。なお、事実であっても「医学博士、M.D.、博士、Ph.D.」等の医薬関係者を暗示する肩書きは併記しないこと。

第3 健康食品

1 健康食品とは

 「健康食品」については法律上の定義はなく、一般に、医薬品以外で経口的に摂取される、健康の維持・増進に役立つことをうたって販売されたり、そのような効果を期待して摂られている食品全般をいうとされています(厚生労働省「いわゆる『健康食品』のホームページ」。
 健康食品のうち、国が定めた安全性と効果に関する基準などに従って機能性が表示されたものを、保健機能食品(食品表示法4条1項、食品表示基準9条1項10号)といいます。保健機能食品には、特定保健用食品(健康増進法43条1項、健康増進法内閣府令1条3号)、機能性表示食品(食品表示法4条1項、食品表示基準2条1項10号)及び栄養機能食品(食品表示法4条1項食品表示基準2条1項11号)の3つがあります。
 特定保健用食品は、一般に特保(トクホ)と呼ばれる食品であり、消費者庁長官の許可を得て、特定の保健の用途に適する旨、すなわち、健康の維持、増進に役立つまたは適する旨を表示した食品です。
 機能性表示食品は、疾病に罹患していない者に対し、機能性関与成分によって特定の保健の目的が期待できる旨を表示する食品です。
 栄養機能食品は、食品表示別基準別表第11に定められた栄養成分を含み、同栄養成分の機能、たとえば、「カルシウムは、骨や歯の形成に必要な栄養素です」といった旨を表示した食品です。
 これらの保健機能食品に対し、その他の健康食品(以下では、「一般健康食品」といいます。)は、保健機能食品と紛らわしい名称、栄養成分の機能及び特定の保健の目的が期待できる旨を示す用語を容器包装に表示することが禁止されています(食品表示基準9条1項10号)。

2 薬機法による表示・広告規制

保健健康食品であれ一般健康食品であれ、健康食品はあくまでも食品ですので、医薬品的な効能効果を標ぼうすることはできず、標ぼうした場合には薬機法68条違反(承認前広告の禁止)に違反するおそれがあります。
医薬品と健康食品との区別については、人が経口的に服用する物に関する「医薬品の範囲に関する基準」(昭46・6・1薬発第476号厚生省薬務局長通知「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」別紙)が定められており、その基準をもとに製品が薬機法2条1項に規定する「医薬品」に該当するか否かが判断されます。当該基準においては、医薬品と判定するための要素を(ア)成分本質(原材料)、(イ)効能効果、(ウ)形状、(エ)用法用量の4つに大別しています。医薬品の該当性は、これら4要素に基づき、以下のとおり判断されます。

① 効能効果、形状および用法用量のいかんにかかわらず、医薬品とされる成分本質が配合または含有されている場合は原則として医薬品とする。
② 医薬品とされる成分本質が配合または含有されていない場合であっても、効能効果、形状、用法用量が医薬品的である場合は原則として医薬品とみなす

3 健康増進法による表示・広告規制

 健康増進法65条1項では、何人も、食品として販売に供する物に関する広告その他の表示について、健康保持増進効果等について、著しく事実に相違する表示をし、または著しく人を誤認させるような表示をしてならないとして、虚偽誇大広告が禁止されています。
 当該表示には、インターネット媒体の広告も含みます。また、健康保持増進効果等には、(ア)疾病の治療または予防を目的とする効果、(イ)身体の組織機能の一般的増強、増進を主たる目的とする効果、(ウ)特定の保健の用途に適する旨の効果、(エ)栄養成分の効果が含まれ、これらに関する虚偽誇大広告をすると、同法に違反し、消費者庁より勧告を受けることとなります。その基準は、一般消費者が受ける印象・認識が基準となるため、表示内容全体から個別に判断されます。

4 景表法による表示・広告規制

 景表法との関係では、優良誤認表示(景表法5条1号、7条2項)および取引条件についての有利誤認表示(同法5条2号)に留意する必要があります。
 優良誤認表示は、商品の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、または事実に相違して当該事業者と同種もしくは類似の商品を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる広告その他の表示を行うことを指します。
 また、取引条件についての有利誤認表示は、商品の価格その他の取引条件について、実際のものまたは当該事業者と同種もしくは類似の商品を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる広告その他の表示を行うことを指します。
 たとえば、1か月の期間限定ではないにもかかわらず「1か月のみの半額割引!」などと表示して、1か月が経過すると期間を更新して「期間限定割引」を繰り返す場合や、「通常価格5000円」「割引価格1980円」の2種類の価格が表示されているが、通常価格は実際に販売した実績のない価格であった場合は、景表法違反となる可能性が高いです。

第4 さいごに

 以上のとおり、ヘルスケア関連商品の広告を行う際には様々な規制がありますので、医療関係者が広告を行う際には注意する必要があります。
 当事務所では、医療法人に関する諸問題に精通した弁護士複数名で「医療法人チーム」を構成しており(医療法人法務チーム | 弁護士法人フォーカスクライド)、クライアントである医療法人様からのご相談に対して、法令・ガイドライン等の内容を踏まえた対応方針の検討、当該対応方針に基づきどのような具体的対応を取るべきかの両面から法的助言を行っていますので、ヘルスケア関連商品の広告規制に関するお悩みがございましたら、お気軽にお問い合わせください。

山野 翔太郎 弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士執筆者:山野 翔太郎

弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。
2022年に弁護士登録。遺言・相続、交通事故、離婚・男女問題、労働、不動産賃貸者などの個人の一般民事事件・刑事事件から、企業間訴訟等の紛争対応、契約書作成、各種法令の遵守のための取り組みなどの企業法務まで、幅広い分野にわたってリーガルサービスを提供している。

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