現代はクレーム社会です。医療現場でもそれは変わりがありません。医療現場での以下 のようなクレーム対応に苦労したご経験はございませんか?
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このようなクレームには、臆することなく、毅然とした対応が必要となります。
ただ、どうすれば毅然とした対応ができるのか、紛争に慣れていない方にとっては悩ま しいことだと思います。
そこで、どのような方でも、どのような状況でも、毅然とした対応ができるようになるための基本的対処法として「6つのルール」をご紹介させていただきます。
1つ目のルールは、クレームを申し入れてきた患者様を、まずは別室にご案内することです。
医療法人・クリニックの待合室等には、他の患者様も数多くいらっしゃいます。そのような中で、クレームの初動対応を行えば、他の患者様に不愉快な思いをさせる可能性があるだけでなく、医療法人・クリニックの風評被害を助長しかねません(たとえ医療法人・クリニック側に落ち度がなかったとしても、噂話というのはどのように広まるかわからず、一旦広がった風評被害を収めるためには多大な苦労を要することになります。)。
このようなリスクを軽減させるためにも、まずは他の患者様の目に入らない、また声が待合室等に聞こえない別室にご案内することが重要です。
2つ目のルールは、別室に通した後、クレーム対応は1人で行わず、必ず2人以上の複数人で対応するということです。その主な理由は次2つです。
まず1つ目の理由としては、クレームを申し入れる患者様は非常に感情的になっていることが多く、場合によっては、突発的に暴言又は暴力的行為に出ることも少なくありません。そのため、クレーム対応を行うスタッフの身体的・精神的安全を確保する必要があります。
次に2つ目の理由としては、クレームを申し入れる患者様は、初動対応時のやり取り内容について、後日自己に都合の良いように解釈する傾向にありますので、必ずといっていいほど「言った・言わない」の争いに発展します。そのため、初動対応時のやり取り内容をリアルタイムで見聞きしている証人を複数人準備できるようにしておく必要があります。
但し、ここで注意を要する事項として、院長等の最終判断権者を最初から出さないということです。最終判断権者を出してしまうと、その場での判断を求められ、言質を取られてしまいかねません。後述のとおり、その場で回答しづらい質問に対しては、「私の一存ではこの場で回答できませんので、確認の上、改めてご回答申し上げます。」という言葉で引き上げることが重要ですが、最終判断権者の場合、この言葉を出しづらいためです。
3つ目のルールは、実際に別室にて複数人で対応を開始する前に、役割分担を決めておくことです。具体的には、会話をする担当と、記録を残す担当です。
会話をする方は、クレームを申し入れている患者様の話の内容や言動に集中する必要がありますが、記録を残しながら会話に集中することは慣れていない限り困難です。
そのため、複数人で対応できる場合には、役割分担を決めておくと落ち着いて対応しやすいです。
4つ目のルールは、会話担当の方は、弁明する前に、落ち着いてクレーム内容を詳細にヒアリングするということです。この時に重要なことは、クレームの概要を聞いた時点で、反論又は弁明したいことが思い浮かんだとしても、遮ることなく、最後まで患者様に全てのクレーム内容を話させることです。途中で遮れば遮るほど、ヒートアップし、収拾がつなかくなるからです。
誰しも感情的になってヒートアップすることはありますが、そのような状態は長くは続きません。しっかりと最後まで遮られることなく話せば、大半の方が落ち着きを取り戻します。
5つ目のルールは、記録担当の方は、初動対応のやり取り内容を確実な方法で記録に残すことです。
記録の残し方として、最も確実な方法は「録音&メモ」です。
「録音」は、録音機でなくても、最近では、携帯電話によって長時間録音することができます。また、携帯電話であれば、机の上に置いていても不自然ではありませんので、きれいな音質で録音することが可能です。ただし、携帯電話に着信が入った場合、録音が中断される場合がありますので、録音する前に、機内モードに設定しておくと良いでしょう。
また、録音を取りながら、重要な事項についてはメモを取るということも重要です。録音を聞き直さなくても、重要な事項について迅速に共有することが可能となるためです。
6つ目のルールは、初動対応の場で、結論を提示したり、何かしらの約束をしないということです。
最終判断権者の意見を聞く前に結論を提示してしまうと、後で軌道修正することが困難となったり、できない約束をすることで問題が激化することにもなりかねませんので、結論や約束を求められたら、必ず「私の一存ではこの場で回答できませんので、確認の上、改めてご回答申し上げます。」という言葉で一旦引き上げるということが大切です。
この際に、「いつまでに回答するつもりか?」と聞かれることが多いですが、まずは「ここで期限を明確にお伝えすることはできませんが、出来る限り速やかに回答させていただきます。」と対応し、明確な期限を設定しないことも重要です。場合によっては、弁護士対応になり、回答に時間を要することも想定されるためです。それでも引き下がらない場合は、「いずれにしても、来週中には進捗だけでもご一報入れさせていただきます。」等と回答することも1つの手段です(この表現であれば、進捗の報告期限でしかなく、明確な回答を出すということまでは約束しておりません。)。
以上の6つのルールに従い初動対応が完了しましたら、院長等の責任者又は顧問弁護士等、しかるべき方に速やかに情報共有することが大切です。
その上で、次に行うべきことは、「クレーム」を2つに分けるという作業です。具体的には、「対応する必要のない不当な主張・要求」と「対応する必要のある正当な主張・要求」の2つに分類します。
分類後のそれぞれの対応については、別稿でご説明させていただきます。
初動対応の6つのルールをご紹介させていただきましたが、やはり慣れていないと、突然のクレーム対応にどうして良いかわからなくなることが想定されます。
そのためにも、顧問弁護士をつけ、各スタッフと面識を持たせておくことで、クレームを受けたスタッフが、すぐに初動対応の方針の指示を直接顧問弁護士から受けることができ、落ち着いて確実な初動対応を取ることができます。
また、場合によっては、その場で電話を代わっていただき、顧問弁護士により初動対応をさせていただくことで、一旦沈静化させることもあり得ます。
このような後ろ盾があるということが、スタッフの安心にも繋がり、健全な医療法人・クリニック経営に繋がるものと考えますので、クレームが生じた場合又は今後生じる可能性が少しでもある場合は、お気軽に当事務所までご相談ください。
執筆者:佐藤 康行
弁護士法人フォーカスクライド 代表弁護士。
2011年に弁護士登録以降、中小企業の予防法務・戦略法務に日々注力し、多数の顧問先企業を持つ。
中でも、人事労務(使用者側)、M&A支援を中心としており、労務問題については’’法廷闘争に発展する前に早期に解決する’’こと、M&Aにおいては’’M&A後の支援も見据えたトータルサポート’’をそれぞれ意識して、’’経営者目線での提案型’’のリーガルサービスを日々提供している。