持ち株会社と事業承継

1.はじめに

 近年、事業承継に際して持株会社を利用したスキームが用いられる事例が多くなってきています。
 このスキームは、後継者が株主となる持株会社を設立し、事業会社からの配当による返済を前提として金融機関から融資を受け、この資金によって現経営者から株式を買い取るといった手法となります。この場合、持株会社が事業会社の株主となり、現経営者のもとには株式売却の対価として現金が残ることとなります。
同スキームを活用すると、先代経営者が死亡した際には株式ではなく現金が相続されるため、遺産分割対策として、株式の分散を防止できるといったメリットがあると言われています。
 一方、現経営者が株式を持株会社に譲渡する際、譲渡所得税等の課税を受けることとなり、さらに、譲渡所得税等を差し引いた現金について後継者への相続時に相続税の課税を受けることになるため、持株会社スキームでは相続税の軽減効果は期待できないとの指摘があります。
 また、事業会社から持株会社への配当を金融機関への返済原資に充てることを前提としているため、事業会社の業績悪化等により分配可能額が必要な配当額を割り込んだ場合、返済が滞ってしまうリスクがあることにも留意すべきところに注意が必要です。

2.特殊な活用方法

 最近は、主にM&Aにおいて、中小企業の経営資源集約化等のために持株会社形態を活用する事例(いわゆるホールディングス会社を活用したグループ化の事例)も増えつつあると言われています。その中には、日本の中小製造業が持つ優れた技術の消滅を防ぐべく自社のノウハウを提供することを目指して、グループ化を推進するケースもあるとされています。
 このようなグループ化の事例においては、具体的には、株式譲渡等の手法により他の複数の中小企業の株式を取得した持株会社(核となる一般事業会社やコンサルティング会社等が自ら持株会社となるケースもあれば、別法人を持株会社とするケースもあります。)が、投資先子会社である当該中小企業に対して経営・技術支援を行うほか、複数の投資先子会社に共通の経営基盤(管理機能等)を持株会社に集約していく等、グループ全体の発展と最適化に向けた取組を行うことがあるとされています。
 なお、合併等による同一法人化を行わず、複数の投資先子会社を併存させておくことにより、各社のリスク分散等を図るという観点から、持株会社形態を選択する例もあるとされます。
 主に親族内承継での活用を念頭に議論されてきた従前の持株会社とは異なる事例となります。

3.おわりに

 近時は、必ずしも当事者の個別の状況に適さない持株会社スキームが利用された結果、後日資金繰りに問題が発生する、課税上疑義があるといった事例が報告されています。当然、持株会社を活用した事業承継が一般的に問題であるということではありませんが、同スキームに内在するリスクに留意の上、弁護士、税理士等の士業等専門家への相談等を通じて真に当事者にとって有益な手法を選択すべきです。

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