事業承継を円滑に進めていく上でのテクニック (生命保険の活用)

1.はじめに

前回は事業承継を円滑に進めていく上でのテクニックのうち、信託の活用についてご紹介しました。ここではその他の手法として生命保険の活用についてご紹介致します。

2.生命保険の活用

事業承継に際しては納税負担や引退後の生活資金の確保等の課題に直面することとなります。近時、これらの課題への対応策として、生命保険の活用が注目されています。生命保険を活用し、他の手段と組み合わせる事で、事業承継における課題への柔軟な対応が可能となりますが、契約者や被保険者、保険料の支払方法や保険金の受取方法の定め方によって得られる効果が異なってくるため、生命保険を活用する目的に応じた適切な保険契約を締結する必要があります。

(1)資産の承継における生命保険金の活用

先代経営者が死亡した場合に支払われる死亡保険金には、相続税の計算上、一定の非課税枠があるため、これを相続税負担の軽減に活用することが考えられ、受け取った保険金を納税資金に充てることもできます。また、指定された死亡保険金受取人が受け取った死亡保険金は原則として遺産分割の対象とならず、遺留分算定基礎財産にも含まれないというメリットもあります。これにより、後継者は死亡保険金を確実に受け取ることができ、これを納税資金や株式・事業用資産の買取資金として活用することができます。このように生命保険は、納税負担や遺産分割、遺留分といった課題に対応するための手法として活用することができます。

(2)代償金準備としての生命保険金の活用

代償分割は、特定の相続人が特定の財産を相続する代わりに、その相続人がその相続人以外の相続人に対して金銭などを渡す方法です。
代償分割が行われる主なケースとして、後継者以外に十分な相続財産が分けられないケースが考えられます。

特に、事業承継では、自社の株を後継者となる相続人に集中させて、経営権を確保させる必要があります。ただし、経営者の資産のメインが自社株だった場合には、自社株を後継者に集中して承継させると、自社株を承継していない他の相続人に残す財産が著しく少なくなり、争族の火種になります。

その解決策として、代償分割を行い、遺留分に相当する金額を代償金として現預金で後継者以外の相続人に支払います。

具体的な方法として、後継者を受取人とした生命保険に加入しておきます。その受け取った保険金を原資として、万が一の際に、代償交付金となる現金を確保しておきます。その際、後継者に相続する自社株の評価と比較して不公平感が生まれないよう、あらかじめ想定される株価を算定及び検証しておき、保険金額を設定しておくことが大切になります。これが自社株を分散させないことにもつながります。

(3)生命保険のその他の活用方法

まず、事業承継時に現経営者が直面する課題として、現経営者の引退後の生活資金の確保が挙げられます。例えば年金型の生命保険を活用することによって、その課題を一定程度解消できます。一方、会社においても、現経営者の死亡に伴い、死亡退職金の支払いや自社株買取資金等を準備する必要が生じます。このような事業承継に伴う資金需要についても、会社を死亡保険金の受取人とした生命保険を活用することによって対応することが可能です。さらに、後継者等の相続人にとっては、たとえ死亡した先代経営者が現預金等の流動資産を保有していたとしても、相続発生直後に現預金等を上記の資金需要に充てることは、遺産分割等との関係で困難である場合が多く、この点死亡保険金は速やかに保険受取人に支払われるため、相続発生直後の資金需要に活用できるというメリットがあります。

今回は事業承継を円滑に進めるためのテクニックをご紹介しました。事業承継には様々なテクニックを用いることでより円滑に進める事が可能となります。専門家である弁護士・税理士がお客様に合った事業継承方法をご紹介致しますので、事業承継をお考えの方はお気軽に相談ください。

髙橋 大貴 税理士法人フォーカスクライド 代表弁護士執筆者:髙橋 大貴

税理士法人フォーカスクライド 代表税理士
2014年に税理士登録以降、個人・法人問わず、クライアントの大切な資産の移転・承継・活用に係る税分野(資産税)に特化した業務を提供する。
当税理士法人では資産税の業務を遂行するためには、高度な税務知識だけでなく、お客様の真のニーズを汲み取るコミュニケーション能力が必要不可欠と考え、お客様とのやりとりは必ず税理士が対応している。
さらに、税務の観点のみの偏った提案とならないように、グループ内の弁護士法人フォーカスクライドの弁護士をはじめとして、各専門家と一体となり、各専門領域の知見から、お客様の想いを実現している。

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