事業承継を円滑に進めていく上でのテクニック(暦年課税制度の改正予測)

1.はじめに

 前回は事業承継を円滑に進めていく上でのテクニックのうち、生命保険の活用についてご紹介しました。今回は、最近何かと話題になっている、改正が見込まれている暦年課税制度についてご紹介致します。

2.暦年課税制度の改正について

 暦年課税制度は身近な節税対策として広く活用されていますが、当該制度について改正の動きがあります。今回は、注目の改正についてのテーマになりますので、各種制度の詳細な内容については割愛させていただきます。

(1)暦年課税制度の改正の動き

 贈与税には、暦年課税制度と相続時精算課税制度があります。
 暦年課税制度を利用した贈与は、暦年ごとに贈与財産額110万円については贈与税が非課税となるため、毎年コツコツと長期に渡り生前贈与をして節税をすることができるので、活用している人は多くいると思います。

 しかし一方で、「富裕層が行っている生前贈与については公平な課税となっておらず、公平な制度を検討する必要がある」との考えもあり、政府与党においては「現行の暦年課税制度と相続時精算課税制度の在り方を見直し、資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税に向けて検討を進める」としています。

(2)国外における資産課税の状況

 当該改正に関して参考となるのが、諸外国の状況となりますのでみていきます。

 アメリカでは、遺産税(相続税)と贈与税が統合されています。そして、生涯の累積贈与額と相続財産に対して一体的に課税することで、生涯にわたる贈与の税負担と相続の時の税負担が一定となっています。イメージとしては、日本の相続時精算課税制度のように考えていくものになります。

 また、ドイツやフランス等の欧州諸国でも相続税と贈与税が一部で統合されており、相続開始前に行った一定期間(ドイツ10年・フランス15年)の贈与は、相続と贈与税負担が一体として計算がされる仕組みとなっています。
 なお、日本においては、相続開始前3年以内の贈与については相続財産として加算して計算するという仕組みとなっているため、ドイツ及びフランスにおいて課税される両税 は、日本に比べると一体的に課税がされており、資産移転の時期に中立ということができます。

(3)具体的な改正の内容について

 では、我が国における暦年課税制度の具体的な改正については、どのような改正内容が考えられるのか考察していきます。

 第一に考えられるのが、暦年課税制度による贈与を廃止し、すべての贈与について相続税精算課税制度を適用するという改正です。
 相続時精算課税制度は、「贈与したときは2500万円までは贈与に対する税金は非課税だが、相続をするときには当該制度を利用した贈与財産の全て(2500万円の非課税部分も含む)を相続財産として課税する」ものなので、この方法は、贈与税を相続税に統合する方法ということができます。つまり、アメリカの遺産税と贈与税の考え方に近い考えといえます。

 第二に考えられるのが、暦年課税制度は存続させるが、当該制度を拡大するという改正です。暦年課税制度は、相続発生前3年以内の贈与について相続財産として計算しますが、この相続財産として計算する期間を欧州諸国のように、10年以内又は15年以内のように期間を拡大する方法が考えられます。この方法は、暦年課税制度の実態を相続税との一体課税に近づける方法ということができます。

(4)今後の展望について

 冒頭の「現行の暦年課税制度と相続時精算課税制度の在り方を見直し、資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税に向けて検討を進める」という内容は、令和3年度税制改正大綱に記載された内容です。こちらに記載されたという点を踏まえると、近年、中立的な相続税・贈与税に向けた改正があると考えてよいでしょう。

 改正時期を考えると、令和4年度の大綱で改正とされて、令和4年4月1日以降の贈与について改正されることが最も早い改正であると考えられます。この動向について正確な情報を知りたい場合は、政府の税制調査会の動向を注視することが重要となります。

 今回は事業承継を円滑に進めるための手段としてよく用いられる、暦年課税制度について改正が見込まれていますのでトピックな記事としてご紹介しました。事業承継には様々なテクニックを用いることでより円滑に進める事が可能となります。専門家である弁護士・税理士がお客様に合った事業継承方法をご紹介致しますので、事業承継をお考えの方はお気軽に相談ください。

髙橋 大貴 税理士法人フォーカスクライド 代表弁護士執筆者:髙橋 大貴

税理士法人フォーカスクライド 代表税理士
2014年に税理士登録以降、個人・法人問わず、クライアントの大切な資産の移転・承継・活用に係る税分野(資産税)に特化した業務を提供する。
当税理士法人では資産税の業務を遂行するためには、高度な税務知識だけでなく、お客様の真のニーズを汲み取るコミュニケーション能力が必要不可欠と考え、お客様とのやりとりは必ず税理士が対応している。
さらに、税務の観点のみの偏った提案とならないように、グループ内の弁護士法人フォーカスクライドの弁護士をはじめとして、各専門家と一体となり、各専門領域の知見から、お客様の想いを実現している。

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