事業承継を成功に導くためのポイントを解説するに先立ち、まずは、中小企業・小規模事業者の我が国で果たす重要な役割について考えていきます。
我が国における中小企業・小規模事業者は雇用の担い手及び多様な技術・技能の担い手として、我が国の経済活動・社会活動において非常に重要な役割を果たしています。将来にわたり、その役割を維持していくためには、中小企業・小規模事業者の事業を円滑な事業承継によって事業価値をしっかりと次世代に引き継ぎ、事業活動の存続及び活性化を実現することが不可欠といえます。
しかし、事業承継の準備が十分でなかったために、円滑な事業承継ができずに不本意な結果になってしまう例もしばしばあります。
また、中小企業・小規模事業者の経営者の中には、事業承継は家族内の問題と捉えて、適切な専門家の相談を受けられずに、ひとり悩んでいる方も少なくありません。
中小企業・小規模事業者の経営者の年齢のピークは66歳に達し、今後5年から10年の間に、多くの中小企業・小規模事業者が事業承継のタイミングを迎えようとしています。今こそ中小企業・ 小規模事業者の円滑な事業承継を図ることが重要だといえます。
高齢化が急速に進む日本では、2025年までに中小企業・小規模事業者の平均引退年齢である70歳に達する経営者は380万社中245万人に到達する見込みとされています。この内、半数以上で未だ後継者が決まっておらず、現状を放置すると中小企業・小規模事業者の廃業の増加により、10年間累計で約650万人もの雇用が失われる可能性があることが統計からわかっています。
しかしながら、中小企業の経営者に対する事業継承の準備状況を確認するアンケートによると「何もしていない」及び「準備が不十分」という回答が最も多く、事前準備が進んでいない実態が浮き彫りとなっています。
円滑な事業承継をすすめる事によって、事業の継続及び従業員の雇用維持ができ、更には会社の新たな発展を生み出す可能性にも繋がります。ここでは、事業継承を円滑に進めるためのポイントをご紹介します。
事業承継は一般的に以下の流れで進めていきます。
現状把握 | ①会社の経営資源 ②会社の経営リスク ③経営者自身の現状 ④後継者候補の現状 ⑤相続発生時に予想される問題点の検討 |
承継方法と後継者の確定 | ① 親族内の事業承継 ② 役員・従業員への事業承継(MBO/EBO ③ 第三者への事業承継(M&A) |
事業承継計画の作成 | ①事業承継計画の作成・実行 |
<現状把握>
会社や経営者の現状を正確に把握する事は、最適な承継方法や後継者選びに役立ちますので、一番最初に着手します。
・会社の従業員数及びその年齡
一口に中小企業・小規模事業者と言っても、会社規模によって、事業継承対策の承継方法が大きく異なることがあります。各種承継スキームの考え方は法人の規模を考慮しておく必要がありますので、会社規模を正確に把握しておくことが重要です。
・会社の資産額およびその内容
多額の当期純利益が出ている黒字会社においても、貸借対照表の流動資産、固定資産の内訳およびその内容によって、事業承継対策が異なりますのでその現状を把握することが重要です。
・会社のキャッシュ・フロー(資金繰り)
会社の資金繰りが赤字となっており、自転車操業状態となっているような会社では、新規設備投資や運転資金調達等の際の金融機関からの新たな借入れが困難になる可能性があります。
したがって、資金繰り状況を把握しておく事は事業承継計画作成において重要なポイントです。
・上記のポイントについての将来見込み等
会社の現状を踏まえた将来見込み等を予測し、中長期的な展望に立った経営計画を作成する事は、事業承継計画書の作成、さらには円満な事業承継を成功させるためにも非常に重要なファクターです。
・会社の負債
会社の買掛金、未払金及び借入金等の債務の内訳、金額を把握し、経営の安定化を図ることは事業承継対策を検討する上で、重要なポイントとなります。
・競争力
事業承継による経営者の交代は、一方では業績悪化をもたらすリスクもあります。事業承継は会社の業界内での競争力等を踏まえた上で計画を作成し、慎重に実施する必要があります。
・上記のポイントについての将来見込み
会社の負債額及び業界内での競争力等の現状を考慮し、事業承継の時期及び具体的な対策を盛り込んだ事業承継計画を作成することが重要です。
今回は事業承継を進めていくにあたって全体像をお伝えしました。その中でも事業承継を進めていくにあたっての第一歩となる現状把握のうち①会社の経営資源の現状把握のポイント及び②会社の経営リスクの現状把握のポイントを中心に解説しました。
次回は事業承継を成功に導くポイントとして、経営者自身及び後継者候補の現状把握、後継者選び、事業承継方法のポイントを中心に解説します。
執筆者:髙橋 大貴
税理士法人フォーカスクライド 代表税理士
2014年に税理士登録以降、個人・法人問わず、クライアントの大切な資産の移転・承継・活用に係る税分野(資産税)に特化した業務を提供する。
当税理士法人では資産税の業務を遂行するためには、高度な税務知識だけでなく、お客様の真のニーズを汲み取るコミュニケーション能力が必要不可欠と考え、お客様とのやりとりは必ず税理士が対応している。
さらに、税務の観点のみの偏った提案とならないように、グループ内の弁護士法人フォーカスクライドの弁護士をはじめとして、各専門家と一体となり、各専門領域の知見から、お客様の想いを実現している。