商品を販売する事業者にとって、広告の打ち方は課題の一つです。
健康食品や化粧品のように、人が直接口にし、肌に塗ることで人体に影響を及ぼす可能性のある商品については、多くの消費者が安心して使えるものが良いと考えるでしょう。そのため、事業者は、消費者に安心感を与えるために、「〇〇医師が推薦しています」といったように、医師がお墨付きを与えているかのような広告表現を使いたくなるものです。では、健康食品や化粧品などの広告で、このような表現を使用することに問題はないのでしょうか。
本記事では、化粧品や健康食品などの広告で、医師の推薦を内容とする表現を使用できるか否かについて解説します。
薬機法66条2項は次のように規定しています(角括弧は執筆者が付記したものです。)。
薬機法66条2項
医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布[してはならない]。
また、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療機器等製品(以下では「医薬品等」といいます。)の誇大広告等を防止するとともに、広告の適正化を図るために策定された「医薬品等適正広告基準」(昭和55・10・9薬発第1339号厚生省薬務局長通知、最終改正:平29・9・29薬生発0929第4号)は、第4の10で医療関係者等の推薦について、次のように規定しています。
10 医療関係者等の推せん
医薬関係者、理容師、美容師、病院、診療所、薬局、その他医薬品等の効能効果等に関し、世人の認識に相当の影響を与える公務所、学校又は学会を含む団体が指定し、公認し、推せんし、指導し、又は選用している等の広告を行ってはならない。
ただし、公衆衛生の維持増進のため公務所又はこれに準ずるものが指定等をしている事実を広告することが必要な場合等特別の場合はこの限りでない。
このように、化粧品の広告で医師の推薦を内容とする表現を使用することは、消費者の化粧品に認識に与える影響が大きいことから、一定の場合を除き、たとえ事実であったとしても禁止されています。たとえば、「〇〇医師が愛用」「〇〇病院公認」といった表現を載せることはできません。なお、推薦の行為が事実でない場合、前述の薬機法66条2項に抵触します。
他方で、健康食品の広告で医師の推薦を内容とする表現を使用することは、健康食品が薬機法や医薬品等適正広告基準の適用対象ではないため、問題ありません。ただし、健康食品は医薬品的な効能効果を標ぼうすることはできず、標ぼうすれば無承認の医薬品の販売等になり、原則として薬機法違反となることには注意しなければなりません。
ドクターズコスメとは、一般的には、医師(例えば、皮膚科の専門医)や医療機関が開発・監修・推薦に関わっている化粧品を指すことが多いですが、法律上の定義はありません。巷でドクターズコスメと銘打って販売されている商品の多くは、化粧品又は薬用化粧品であると思います(ちなみに、薬用化粧品は、医薬部外品の一類型で、医薬品と化粧品の中間に位置付けられます。)。
では、ドクターズコスメの広告で、例えば、「医師との共同開発」「医師による監修」といった表現を使用することはできるのでしょうか。
この点について、現時点で、明確に規定・言及している法令や行政解釈はありません。
しかしながら、医薬品等適正広告基準第4の10が医療関係者の推薦を禁止していた趣旨が、医薬品等の推薦が一般消費者の医薬品等に係る認識に与える影響が大きいことに鑑み、一定の場合を除き、例え事実であったとしても不適当とすることにあることからすれば、確かに「医師との共同開発」「医師による監修」といった表現は、同基準が挙げる「指定」、「公認」、「推せん」、「指導」、「選用」に該当するわけではございませんが、これらの文言と「医師との共同開発」「医師による監修」といった表現が消費者に与える影響の大きさはほとんど変わらないと考えられるため、控えることが無難であると考えます。
なお、化粧品の広告に「大学との共同研究」との表現を使用することについては、医薬品等適正広告基準第4の10の医療関係者等の推薦に抵触するため認められないとされています(「医薬品等広告に係る適正な監視指導について(Q&A)」(平30・8・8事務連絡厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課通知)のQ3参照)。そのため、たとえば、ドクターズコスメの広告に「大学との共同開発」と記載することは、医薬品等適正広告基準第4の10に抵触するものとして認められませんので、注意してください。
現行の行政解釈・運用では、医薬品等の広告に関する監視指導においては、次の3つの要件をいずれも満たす場合に、薬機法上の「広告」に該当すると判断されています(「薬事法における医薬品等の広告の該当性について」平10・9・29医薬監148号厚生省医薬安全局監視指導課長通知)。
① 顧客を誘因する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること(誘因性)
② 特定医薬品等の商品名が明らかにされていること(特定性)
③ 一般人が認知できる状態であること(認知性)
逆に言えば、これらの3つの要件のうち一つでも満たさなければ、薬機法上の「広告」には該当しないため、医薬品等適正広告基準も適用されません。
ここまでは法律を中心にご紹介しましたが、化粧品の広告規制については、業界団体の自主基準も把握しておく必要があります。それが、「化粧品等の適正広告ガイドライン」(2020年版(第2版))です。このガイドラインは、日本化粧品工業連合会が、適正な広告を行うために、薬機法と適正広告基準の趣旨に基づき化粧品等の製品特性を考慮することにより、化粧品等を対象とした規制及び遵守されるべき事項がより明確になるよう配慮し、自主的に遵守すべき指針として策定したものです。
たとえば、医療関係者等の推薦との関係で、白衣を着た人を広告に載せることの是非について、以下のとおり記載されています。
E14.0 医師等のスタイル(白衣等)での化粧品等の広告の禁止の原則
医師等のスタイル(白衣等)の人が、化粧品等の広告中に登場すること自体は直ちに医薬関係者の推せんに該当するわけではないが、医薬関係者との誤認を与えないようにすること。
E14.1 製品の研究者が白衣等のスタイルで登場する広告について
化粧品等の製品の研究者が白衣等の医師等であるかの誤認性のあるスタイルで登場する広告を行うときは、その製品の製造販売業者等の従業員であることが判る説明を事実に基づき明記した場合に限り、本ガイドラインE 14 医師等のスタイルでの広告についてに該当しないものとする。なお、事実であっても「医学博士、M.D.、博士、Ph.D.」等の医薬関係者 を暗示する肩書きは併記しないこと。
以上のとおり、商品の広告に医師の推薦を内容とする表現を使用することには様々な規制がありますので、事業者は注意する必要があります。
当事務所では、医療法人に関する諸問題に精通した弁護士複数名で「医療法人チーム」を構成しており(医療法人法務チーム | 弁護士法人フォーカスクライド)、クライアントである医療法人様からのご相談に対して、法令・ガイドライン等の内容を踏まえた対応方針の検討、当該対応方針に基づきどのような具体的対応を取るべきかの両面から法的助言を行っていますので、医師が推薦できる商品や広告表現に関するお悩みがございましたら、お気軽にお問い合わせください。
執筆者:山野 翔太郎
弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。
2022年に弁護士登録。遺言・相続、交通事故、離婚・男女問題、労働、不動産賃貸者などの個人の一般民事事件・刑事事件から、企業間訴訟等の紛争対応、契約書作成、各種法令の遵守のための取り組みなどの企業法務まで、幅広い分野にわたってリーガルサービスを提供している。