当事務所では、医療法人やクリニックを経営する医師等の医療従事者(以下単に「医療従事者」といいます。)からなされる相談も受け付けています。
本項では、医療従事者から受けた相談の内容及び解決方法を紹介し、当事務所が提供可能なサービスに関してご紹介いたします。
ある医療従事者の方(医者)は、美容整形外科を専門に取り扱っていました。
その方は、患者から、「手術を行ったのに思ったような効果が出ていない。」、「聞いていなかった副作用が出た。」、「複数回手術を受けなければ効果が出ないとは聞いていない。」といった、クレームに悩まされていました。
そして、ある患者は、その方に対して、前述したようなクレームがあり、手術費用等の損害を賠償するよう求めていました。
前述した相談は、患者から医療従事者に対して、診療契約(説明義務)の債務不履行に基づく損害賠償請求がなされているものです。このような相談がなされた場合、第一に反論として考えるべきことは、医療行為に際して効果、副作用等のリスク、代替的治療等に関する適切な説明を行った(説明義務に違反がない。)というものです(もちろん、損害が生じていないといった別の反論も想定可能です。)。
医療従事者が説明義務に反していないというためには、①患者に対して説明しなければならない事項を、②適切に説明していることが必要です。
そのため、当事務所では、まず、説明義務違反に関する裁判例等を調査して、裁判例上説明が必要であると考えられる事項を抽出しました。これを基に、医療従事者による説明の内容をヒアリングするとともに(副作用の内容や、代替的治療の存在についても一定の説明がなされている事実を確認しました。)、医療法人のホームページ等に記載された医療行為の説明を参照し、患者に対して説明しなければならない事項を特定しました。また、患者に対して、医療従事者からどのような説明を受けていたのか主張させることによって、医療従事者の説明内容について争いがある部分と争いのない部分を選別しました。
結果としては、患者が説明を受けたとする事項をもって、医療従事者が説明すべき事項を概ね説明していたことが判明しましたので、患者の主張は主観的なクレームにすぎないことが明らかとなりました。患者に対してそのような主張を行い、この紛争は、最終的には若干の解決金を支払うことによる解決を図ることができました。
本件では、患者が、医療従事者による医療行為前の説明を受けていたことを一定程度認めたため、説明義務が果たされていたことを示すことが比較的容易でした。
もっとも、本件とは異なり、患者が、医療従事者から何らの説明を受けていないと主張すれば、医療従事者がどのような説明を行っていたのか、他の証拠から判断せざるを得ず、交渉が難航したおそれがあり、訴訟に発展した可能性もあります。
そのため、この相談事例から学ぶべきことは、医療行為に関する事前説明(いわゆるインフォームド・コンセント)の内容を明確にしておき、かつ説明を行ったという事実を証拠化しておくことが重要であるということです。
前述したとおり、医療従事者が説明義務を果たしたというためには、①説明すべき事項を、②適切に説明していたことが必要となります。
①については、どのような説明を行うべきであるかを検討する必要があります。
まず、診療情報の提供等に関する指針に、医療行為を行う際に説明を行うべき内容が列挙されているのですが、ここでは、「予後」や、「代替的治療法がある場合には、その内容及びその利害得失(患者に負担すべき費用が大きくなる場合には、それぞれの場合の費用を含む。)」等の事項が挙げられています(同指針では、7項目が掲げられています。)。さらに、裁判例上、美容外科手術の説明義務違反については、「整容目的の手術の場合、手術の必要性や緊急性に乏しいうえ、その目的が整容ということから、手術の担当医師に対しては、手術の実施に当たって、手術の方法や内容、手術の結果における成功の度合い、副作用の有無等のみならず、通常の手術の場合以上に手術の美容的結果、なかでも手術による傷跡の有無はその予想される状況について十分に説明し、それにより、患者がその手術を応諾するか否かを自ら決定するに足りるだけの資料を提供する義務が当然負わされている」と判示されており(福岡地判平成5年10月7日(判時1509号123頁))、通常の医療行為よりも説明義務が加重されています。したがって、美容整形外科において医療行為を行う際は、説明義務を果たすことは重要視されています。
また、②については、患者が説明を受けていないと主張した場合に「言った言わない」の議論とならないよう、説明を行ったことを示す証拠を確保しておく必要があります。具体的には、①記載の説明事項を記載した同意書を作成し、事前に患者と読み合わせを行い同意書に署名捺印をもらうことが必要といえるでしょう。
当事務所では、医療従事者による説明義務に関する判断を行った裁判例等を調査し、医療行為に際して説明を行うべき事項を確認しています。そして、医療従事者に対するヒアリングを通じて、説明を行うべき事項が具体的にどのような説明となるのかを把握したうえで、これを落とし込んだ同意書を作成するというサービスを提供しています。
当事務所がチェックを行う前の同意書では、治療の内容や副作用が記載されていることは多いのですが、代替的治療の有無まで記載している同意書は多くなく、当事務所にて新たに同意書を作成する機会はよくあります。
同意書の作成に当たっては、説明すべき事項を記載しつつも、読み合わせを効率的に行うために、可能な限りシンプルな同意書を作成することも心掛けており、医療従事者においてスムーズにリスクヘッジを行ってもらっています。
医療行為前に行う説明をどのように行うべきか、またどのような証拠を確保しておくべきかお悩みの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。
執筆者:藏野 時光
弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。2017年に弁護士登録。離婚問題等個人間の法的紛争から知的財産紛争等企業間の紛争まで幅広い分野に携わっている。また、刑事事件も取り扱う。紛争に関する交渉、訴訟対応のみならず、企業間取引における契約書等の作成・リーガルチェック等、企業における日々の業務に関する法的支援も多数取り扱っている。個人、企業問わず、クライアントが目指す利益を実現するために採るべき具体的方法を検討し、リスクに関する説明も交えた丁寧な説明を心がけ、リーガルサービスを提供している。