医療法人・クリニックを経営されている方々の中には、すでにホームページやSNS等を通じて、積極的に広告、宣伝されている方も多くおられるかと存じます。
しかし、医療法人・クリニックが行う広告については、医療法、景品表示法等の法令によって厳しく規制されており、このような規制に知らず知らずのうちに違反しているというケースも多くみられます。また、平成30年6月1日に施行された医療法及び医療法施行規則の改正により、広告媒体としてウェブサイトやメルマガなども規制対象となり、実質的にあらゆる広告媒体における広告が同法の規制に含められることとなりました。
そこで、以下では、医療法人・クリニックの広告・表現の規制に関する中心的な法律である「医療法」に基づく広告の規制についてご紹介します。
医療法上、「広告」とは、「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して、文書その他いかなる方法によるを問わず、広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示」と定義されています(以下「医療広告」といいます。)。この医療広告には、以下のいずれの要件も満たす場合に該当することとなります。
・誘引性要件:患者の受診等を誘引する意図があること
・特定性要件:医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称 が特定可能であること(複数の場合も含む)
この点、以下のように形式的にみると上記2つの要件を充足していないように見えるものであっても、実質的には当該要件の充足を回避しようと見受けられる広告については、医療広告に該当するとされています。
①「これは広告ではありません。」「これは、取材に基づく記事であり、患者を誘引するものではありません。」との記述がある一方で、病院名等が記載されているもの
②「医療法の広告規制のため、具体的な病院名は記載できません。」との記述がある一方で、住所、電話番号及びウェブサイトのアドレス等から病院等が特定可能であるもの
③治療法等を紹介する書籍、冊子及びウェブサイトの形態をとっているが、特定(複数の場合も含む。)の病院等の名称が記載されていたり、電話番号やウェブサイトのアドレスが記載されていることで、一般人が容易に当該病院等を特定できるもの
④患者等に広告と気付かれないように行われる、いわゆるステルスマーケティング等について、医療法人・クリニックが広告料等の費用負担等の便宜を図って掲載を依頼している場合
なお、患者自らや家族等からの伝聞により、実際の体験に基づいて、特定の病院を推薦する内容のSNSを発信するという場合、一見すると上記2つの要件を充足するようにも見えますが、これは単に一個人が当該病院を推薦しただけであることから、誘引性要件は充足しないとされています。ただし、当該個人の推薦が、病院の依頼に基づいていたり、金銭等の謝礼の交付や交付の約束がある場合、当該個人が病院の経営に関与する者の親族等である場合には、誘引性要件を充足すると判断されます。
医療法では、医療法人が行う広告について、原則として、医師名、病院名、診療科名等の項目に限定されています(医療法第6条の5第3項)。しかし、「医療に関する適切な選択が阻害されるおそれが少ない場合として厚生労働省令で定める場合」については、上記項目に限定されず、その他の項目についても広告が可能となります。これを広告可能事項の「限定解除」といいます。そして、限定解除の対象となるか否かにかかわらず、医療法人が行う広告については、虚偽広告、比較優良広告、誇大広告、公序良俗に違反する内容の広告、患者その他の者の主観又は伝聞に基づく治療等の内容又は効果に関する体験談の広告、利用等の内容又は効果について患者等を誤認させるおそれがある治療等の前又は後の写真等の広告については禁止されています(医療法6条の5第2項)。
以下では紙幅の都合上、虚偽広告と比較優良広告についてご紹介します。
虚偽の広告は、医療法上禁止されており、これに違反した場合には、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されることとなります。虚偽広告には例えば以下のようなものが考えられます。
①「絶対安全な手術です!」「どんなに難しい症例でも必ず成功します」
②「厚生労働省の認可した〇〇専門医」
③加工・修正した術前術後の写真等の掲載
④治療後の定期的な処置が必要であるにもかかわらず「一日で全ての治療が終了します」と述べること
⑤根拠・調査方法の提示がないにもかかわらず「〇%の満足度」などと記載すること
⑥研究の実態がないにもかかわらず「当院は、〇〇研究所を併設しています」などと述べること
比較優良広告とは、特定又は不特定の他の医療法人・クリニック(複数の場合を含む)と自らを比較の対象とし、施設の規模、人員配置、提供する医療の内容等について、自らが他の医療法人・クリニックよりも優良である旨を広告することを意味します。「日本一」「No.1」「最高」「最良」「最上」等の最上級の表現も、たとえ客観的な事実であったとしても、この比較優良広告に該当します。この点、「著しく誤認を与える表現以外」であれば、客観的な事実の記載は可能であり、根拠を示し、客観的に実証できるのであれば「最新の治療法」、「最新の医療機器」などの表現も認められます。
例えば、以下のような広告が比較優良広告に該当するとされています。
①肝臓がんの治療では、日本有数の実績を有する病院です。
②当院は県内一の医師数を誇ります。
③本グループは全国に展開し、最高の医療を広く国民に提供しております。
④「芸能プロダクションと提携しています」「著名人も〇〇医師を推薦しています」「著名人も当院で治療を受けております」
上記④は、著名人との関連性を強調することで、患者等に対して他の医療法人より著しく優れているとの誤認を与える恐れがある表現であり、患者等を不当に誘引するおそれがあることから、比較優良広告として取り扱われています。
比較優良広告に関する規定に違反した場合、通常は、行政指導により広告の中止や内容の是正を求められます。この行政指導に従わない場合、違反を繰り返す等の悪質な場合には、中止・是正命令が出され、是正命令又は刑事告発等を実施した際には、原則として医療法人・クリニックの名称が公表されることとなります。
上記でご紹介した医療広告の規制は一部であり、他に規制の対象となる医療広告としてどのようなものがあるか、医療法上許容される広告内容としてはどのようなものがあるか、という問題もあります。
当事務所では、多数の医療法人・クリニックの顧問先様がおり、日常的な業務のサポートをさせていただく一環として、広告規制に対する助言にも力をいれております。
今一度、皆様のHPなどに掲載されている広告・宣伝文句に目を向けていただき、規制との関係で少しでも疑問に思われた際には、当事務所までお気軽にご連絡ください。
執筆者:新留 治
弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。2016年に弁護士登録以降、個人案件から上場企業間のM&A、法人破産等の法人案件まで幅広い案件に携わっている。特に、人事労務分野において、突発的な残業代請求、不当解雇によるバックペイ請求、労基署調査などの対応はもちろん、問題従業員対応、社内規程整備といった日常的な相談対応により、いかに紛争を事前に予防することに注力し、クライアントファーストのリーガルサービスの提供を行っている。