不動産業界における問題社員対応

1 不動産業界で問題社員が発生しやすい背景

 問題社員の発生は、不動産業界に限らず、あらゆる業界が直面する課題でありますが、特に不動産業界においては、長時間労働や休日出勤、契約書や物件情報・顧客情報などの情報管理、営業活動に伴う顧客対応など業務の内容が多岐にわたっているにもかかわらず、業務フローが属人化しやすく、各社員の業務負担量が大きくなる傾向にあるため、社員の労働環境が厳しくなりがちです。加えて、不動産業界は、入職者数よりも離職者数が上回っており、慢性的な人手不足が課題にもなっているようですが、高齢化社会に伴って、不動産の売買や賃貸などの需要が変化しており、社員の業務負担量は更に増加しているようです。
 このような不動産業界の中では、各社員の業務中の行動を管理職が網羅的に把握し、社員の問題行動を早期に発見し、是正、指導する体制が十分に確保されておらず、その結果社員が独自の判断で行動することとなり、会社が認識しない間に問題行動が見過ごされてしまうという状況が発生しているのではないでしょうか。社員としても、自身の行動が問題行動であることを十分に理解しないままに問題行動を繰り返してしまい、問題行動が発覚したときには、大きなトラブルになってしまっているという危険性もあります。
 今回は、不動産業界における問題社員の類型をご紹介し、問題社員類型ごとに、会社側がとるべき対応方法や注意点について解説します。

2 不動産業界でよくある問題社員類型

⑴ まず、不動産業界でよくある問題社員類型として考えられるのは、「上司への報告・連絡・相談が必要な事項を報告・連絡・相談しない社員」です。
 先にもご説明した通り、不動産業界においては、営業活動が業務の一部に含まれており、各社員が会社の外で業務を行うことも多く、お客様と直接やり取りとりを行う場面も少なくありません。お客様とのやり取りの中で、トラブルが発生した際には、トラブルの程度に関わらず、社員の立場であれば発生したトラブルやクレームの内容を上司へ報告し、お客様対応について相談を行うことが必要となります。
 また、トラブルが発生した場合に関わらず、社員が会社の外で行った業務内容については、会社側が全て把握することはできませんので、社員本人にその日の業務内容について業務報告書の提出を求めることで活動内容を確認することが想定されます。しかし、社員の中には、会社にお客様とのトラブルを報告することで、担当者を変更され自身の売り上げが減少することを危惧し、自身のみでトラブルを解決しようと会社へ報告を怠ったり、業務報告書の作成をため込んで提出せず、上司への報告・連絡・相談が必要な事項を報告・連絡・相談しない社員が出てくる可能性があります。

⑵ 次に不動産業界でよくある問題社員類型として考えられるのは、「後輩社員や同僚に対する指導、振る舞いが行き過ぎてパワーハラスメントとなってしまっている社員」です。
 部下と上司の間や同僚間でパワーハラスメントが生じ、ハラスメントを行っている問題社員への対応は、不動産業界に限った話では決してありませんが、特に営業活動が日常的に業務として行われ、当該営業活動の結果が業務成績に大きく影響を及ぼす不動産業界においては、営業成績至上主義の組織となる危険性が高く、営業成績に伴ってハラスメントが横行する危険性が高い業界であるということができます。会社としては、このようなハラスメントを黙認していると、社員が会社を離れてしまい、人材を失う危険性があり、また、社内でハラスメントが横行しているという情報が広まることで会社の社会的評価が低下する危険性もあるといえますので、ハラスメントを行う社員に対して対応が必要になるものということができます。

3 類型別問題社員への対応方法

⑴ まず、「上司への報告・連絡・相談が必要な事項を報告・連絡・相談しない社員」への対応方法についてご説明します。
 いわゆる「ホウレンソウ」とよばれる「報告・連絡・相談」は、会社における上司・同僚との意思疎通を十分に図り、ひいては会社から社員に対する指揮命令関係を十分に確立する上で重要な事項であり、多くの会社において、基本業務として社員への徹底を図らなければならない事項といえます。
 社員がお客様とのトラブルや1日の業務内容を報告しない場合、まず会社としては当該社員に対して報告を密に行うよう口頭による指導を徹底する必要があります。
 その上で、口頭による注意・指導を行ったとしても当該社員に改善が見られない場合には、指導注意書等の書面によって注意を行うことが必要になります。書面で注意を行う場合の具体的な内容としては、報告をすべきであった具体的な報告内容を特定(●年●月●日のお客様との●●というトラブルの発生等)した上で、当該報告をしなかったことそのものに対する指導に加え、これまでにも同様の件について口頭で注意・指導を行ってきたが改善がなされていないといった経緯を記載することが必要となります。加えて、今後も同内容の注意が繰り返され改善が見られない場合には、就業規則の懲戒事由に基づいて懲戒処分になる可能性もあることなども記載することが肝要です。
 書面による注意・指導を行ったにもかかわらず、なお報告・連絡・相談が疎かである場合には、会社としては、懲戒処分の検討を行う必要があります。具体的には、貴社の就業規則の中に、「正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき」、「職務怠慢と認められるとき」等の懲戒事由が規定されている場合には、これらの懲戒事由に基づいて懲戒処分を行うことが想定されます。もっとも、これらの懲戒事由に基づいて懲戒処分を行う際には、会社に生じている損害の程度も考慮してけん責処分程度にとどめ、なお改まらない場合には徐々に重い処分にすることが必要となります。さらに、懲戒処分の各段階を経てもなおも改善されない場合には、最終的には懲戒解雇も検討せざるを得ないものと考えられます。

⑵ 次に「後輩社員や同僚に対する指導、振る舞いが行き過ぎてパワーハラスメントとなってしまっている社員」への対応方法についてご説明します。
 パワーハラスメントについては、明確に法律上の定義があるわけではありませんが、労働施策総合推進法第30条の2第1項においては、パワーハラスメントの概念として、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」として定義化され、同条項によって、会社には、このようなパワーハラスメントの発生を防止する措置を講じることが義務付けられています。
 また、厚生労働省が発表する、事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針①パワハラ防止指針 (mhlw.go.jp)においては、パワーハラスメント行為に該当する行為を、①身体的な攻撃、②精神的な攻撃、③人間関係からの切り離し、④過大な要求、⑤過小な要求、⑥個の侵害という6つの行為類型に分類しています。したがって、会社としては、まずは会社内でパワーハラスメントに該当し得る行為が行われていないか定期的なアンケート、又は各社員との面談等を実施することで情報を収集する必要があるということができます。
 仮にパワーハラスメント(に該当し得る)行為の被害を受けている社員本人からの申告や現場を目撃した他の社員からの申告によってパワーハラスメントの事実が発覚した場合には、会社としては、申告された当該事実が実際に行われたのかを調査する必要があります。その上で、パワーハラスメント(に該当し得る)行為が実際に行われていた場合には、当該行為が、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであって、その雇用する労働者(被害者)の就業環境が害されるといえるか否かの評価作業を行う必要があります。例えば、パワーハラスメントの行為類型の内、②精神的な攻撃としてパワーハラスメントに該当するかどうかにつき、上司が「厳しく注意をした」というだけではパワーハラスメントに当たるかどうかは判断することができません。その対象である部下が普段は勤務態度が良好で、初めて遅刻したにもかかわらず、「1時間以上にもわたって他の社員の面前で、厳しく注意をした」ということですと、場合によっては必要かつ相当な範囲を「超えた」としてパワーハラスメントに当たる可能性があります。他方、普段の勤務態度がよくなく、遅刻を繰り返しており、度々注意しているにもかかわらず改善しない部下の遅刻につき、改めて「1時間にわたって厳しく注意をした」ということであれば、「必要かつ相当な範囲」での注意と評価される可能性も高まります。
 さらに、パワーハラスメントの認定においては「労働者(被害者)の就業環境が害されるといえるか否か」の判断が必要になりますが、これは当該労働者の主観によるものではなく、あくまで「平均的な労働者の感じ方」によることになります。すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、「当該労働者の感じ方」ではなく、あくまで同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者の多くが就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動か否か、を基準とすべきことになることにも注意が必要となります。
 会社としては、パワーハラスメントに該当し得る行為が発覚した場合には、これらの点から当該行為を評価し、パワーハラスメントと認定できるかの判断を行う必要があります。
 そして、当該行為がパワーハラスメントに該当すると判断された場合における、パワーハラスメントを行った問題社員に対する対応方法としては、懲戒処分によって当該問題社員に対し降格や出勤停止の処分を行うと共に、被害者の就業環境の回復のために、人事権に基づく加害者の配転が必要と考えます。

4 当事務所にできること

 ここまで、不動産業界における問題社員の類型及び対応方法について解説いたしました。問題社員対応は、不動産業界のみに限った話ではなく、いかなる業界においても会社にとって必要な対応となります。もっとも、特に当該行為がパワーハラスメント等のハラスメント行為に該当するか否かの判断については様々な要素を踏まえた上での法律的な評価が必要となりますので、会社にとっても悩ましい判断を迫られることになるものと思われます。
 当事務所におきましては、第三者的な立場として会社内で発生した行為についてハラスメント行為に該当するか否か客観的な評価を行い会社及び被害者に報告するといった業務等も行っておりますので、問題社員の対応にお困りの会社様は、一度ご相談いただけますと幸いです。

波多野 太一 弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士執筆者:波多野 太一

弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。
2022年に弁護士登録。企業・個人を問わず、紛争や訴訟への対応を中心に扱い、企業間取引においては契約書等の作成・リーガルチェックといった日々の業務に関する法的支援も多数取り扱っている。
また、相続や交通事故に伴う個人間のトラブルや、少年事件や子どもに関するトラブル等も多数取り扱っている。
企業・個人を問わず、困難に直面している方に寄り添い、問題の解決や最大限の利益の追及はもちろん、目に見えない圧倒的な安心感を提供できるように努めている。

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