省エネ法の改正に伴う変更点と事業者に求められる役割

1 省エネ法改正の背景と変更点について

(1)令和4年5月に改正されたエネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(以下「省エネ法」といいます。エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律 | e-Gov法令検索)が、令和5年4月1日をもって、施行されました。
 あまり聞き馴染みのない法律かもしれませんが、省エネ法の歴史は長く、省エネ法は、1979年のオイルショック時に制定された法律であり、燃料・熱・電気等の化石エネルギーの使用の合理化を目的として制定されました。もっとも現在においては、深刻化する地球温暖化の改善に向け、CO2排出量削減の手段としての役割も期待されており、省エネ法は時代に合わせて適宜内容が見直され、改正が行われてきました。今回の改正は、2050年までのカーボンニュートラル実現に向けて、太陽光や風力、地熱等の非化石エネルギーを含むエネルギー全体の使用の合理化及び非化石エネルギーの導入拡大を促進していく必要が生じたことから、以下の項目について見直しが求められることになりました。

(2)今回の法改正によって変更されたポイントは大きく分けて3つに分類されます。
 ア ポイント①
 1つ目のポイントは、「エネルギー」の定義が拡大されたことにあります。省エネ法第2条第1項においては、使用の合理化を求める「エネルギー」についての定義がなされておりますが、改正前の省エネ法においては、「エネルギー」として使用の合理化が求められていたのは化石燃料及び化石燃料由来の電気・熱のみを指しておりました。そしてこれらのエネルギーについては、合理的に使用し節約することが求められておりました。
 しかし、今回の改正により、省エネ法第2条第1項における「エネルギー」の定義は、「化石燃料及び非化石燃料並びに熱(政令で定めるものを除く。以下同じ。)及び電気をいう。」に改められ、これまでは節約の対象に含まれていなかった非化石燃料についても、「エネルギー」の対象に加えられました。非化石燃料も「エネルギー」の対象に含まれたことで、太陽光や風力によって得られた再生可能なエネルギーであっても、自由かつ無限に使用することはできなくなりました。
 イ ポイント②
 2つ目のポイントは、化石エネルギーから非化石エネルギーへの転換を実現するために、一定規模以上の事業者に対し、非化石エネルギーへの転換(非化石エネルギー利用割合の向上)に関する中長期計画の作成及び非化石エネルギーの利用状況等の定期報告の提出を行う義務が課されることとなりました。
 具体的には、化石エネルギーに依存するわが国の現状を打開するために、省エネ法第7条第1項、第3項及び省エネ法施行令第2条第1項に基づき特定事業者に指定された事業者は、使用するエネルギーの内、非化石エネルギーの利用割合を向上させる目標値を設定し、目標を達成するための中長期計画を作成することが求められ(省エネ法第15条第2項)、非化石エネルギーの利用状況の定期報告を行う義務が発生します(省エネ法第16条第1項)。
 ウ ポイント③
 3つ目のポイントは、電力の需要と供給のバランスを取るために(電気の需要の最適化)、特定事業者は電気使用量の報告の際に月別(1か月単位)又は時間帯別(30分又は60分単位)での電気使用量を報告する必要が生じ、さらに、これまでは報告の必要がなかったデマンドレスポンスを実施した回数についても報告をする必要が生じました。
 具体的には、電力需給ひっ迫時の「下げDR」(節電)と、太陽光発電の出力抑制の発動指示が出た場合の「上げDR」(需要の創出)を実施した場合に、両方を合わせた回数を報告する必要があります。

2 非化石エネルギーへの転換について

 先述のとおり、特定事業者においては、非化石エネルギーの利用割合を向上させる目標値を設定し、目標を達成するための中長期計画を作成の上、非化石エネルギーの利用状況の定期報告を行う義務が発生します。ここで、省エネ法が規定する特定事業者とは、工場等を設置している者のうち、その設置している全ての工場等におけるエネルギーの年度の使用量の合計量(原油換算値)が1500kl以上の事業者を言います(省エネ法施行令第2条第1項、第2項エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律施行令 | e-Gov法令検索)。なお、事業者の範囲は法人格が基本となるため、子会社、関連会社、協力会社、特殊会社等はいずれも別法人であり別事業者として扱われます。
 年度のエネルギーの使用量が原油換算値で1500kl以上であり、特定事業者に該当する事業者は、エネルギー使用状況届出書を地方経済産業局に提出する必要があります。届け出を行った後、経済産業大臣から特定事業者に指定された場合には、中長期計画書を作成し、主務大臣に提出しなければなりません(省エネ法第15条第1項)。なお、改正前の省エネ法においても、特定事業者は化石エネルギーの使用の合理化の目標に関し、その達成のための中長期的な計画を作成し、中長期計画書を主務大臣に提出する必要がありましたが(省エネ法第15条第1項)、今回の法改正後は、非化石エネルギーも含めたエネルギーの使用の合理化の目標に関し、その達成のための中長期計画書を作成する義務は変わらず残っており、本件改正によって、追加で非化石エネルギーの利用割合を向上させる目標値を設定し、目標を達成するための中長期計画を作成する必要が生じることとなります(省エネ法第15条第2項)。中長期計画書の提出期限は毎年7月末となっております。届出書等のひな形に関しては、経済産業省のホームページに記載されておりますので、参考にしていただければ幸いです(特定事業者向け情報 | 工場・事業場の省エネ法規制 | 事業者向け省エネ関連情報 | 省エネポータルサイト (meti.go.jp))。
 非化石エネルギーへの転換に関する計画書の作成を義務化するにあたり、国は、使用エネルギー全体に対する非化石エネルギーの利用割合の設定目標の目安を、業種別に設定しました。そこでは、特定事業者は計画書を作成するにあたり、2030年度における化石エネルギーと非化石エネルギーの割合について国が設定した目標を達成できるような計画とすべきことを示しています(20230331014-12.pdf (meti.go.jp)p12-29)。

3 電気の需要の最適化について

 これまでは、「需要の平準化」という言葉が用いられ、事業者における1日の時間帯ごとの電気使用量を一定に保つ工夫を行うことを目標としておりました。例えば、電力の使用量の少ない夜間に電気を蓄電しておき、蓄電した電気を使用量の多い日中に充てるピークシフトという取り組みがなされてきました。しかし、昨今は太陽光発電による発電が普及し、日中における発電量が増加したことから、電気の使用量が多い日中においても供給が過多となり、電気が余るという事態が生じております。そこで、これまでの電力の使用の平準化から、電力の需要状況のバランスをとる最適化が必要だという考え方にシフトしたことで、今回の改正がなされました。電気の需要の最適化においては、例えば、夜間に行っている業務を電気の供給が余っている日中に行うことで、需要と供給のバランスをとることができるという想定がなされております。
 このようなバランスを実現するために、特定事業者においては、電気使用量の報告の際に月別(1か月単位)又は時間帯別(30分又は60分単位)での電気使用量を報告することで、需要の最適化が図られているかを示す必要が生じることとなります。また、通常であれば電力を使って朝方に行う業務を、太陽光発電等の再生可能エネルギーの発電により電気が供給過多となっている日中に行うことで(上げDR)、事業者としては、自身の電力需要を最適化したことで、高い省エネ効果を挙げていることを報告できることとなります。反対に、太陽光発電等の再生可能エネルギーの供給量が低下し、電気の需要が過多となってしまう夜間に行う業務を、供給が過多となっている日中に行うことで(下げDR)、事業者としては、自身の電力需要を最適化したことで、高い省エネ効果を挙げていることを報告できることとなります。今回の改正においては、上げDR及び下げDRにより高い省エネ効果を報告できるようにすることで、業務を行う時間帯をずらすことに対するインセンティブを生じさせるため、電力の需給に応じた月別又は時間帯別のエネルギー換算係数を細かく設定するという試みがなされます。特定事業者においては、自身が電気の需要の最適化を行っていることを示すために、デマンドレスポンスを実施した回数についても報告をすることが求められております。

4 さいごに

 ここまで、省エネ法の改正に伴う変更点について解説を行ってまいりましたが、特定事業者には中長期計画書や報告書を提出する義務が発生しますが、特定事業者に当たらない企業、事業者においても、任意的にエネルギーの使用状況や報告書を作成し開示することを妨げるものではありません。
 むしろ、SDGsが広く浸透している昨今においては、企業にとって、自発的にエネルギーに関する報告書等を作成し開示することで、環境問題に企業全体として向き合っていることを投資家や取引先にアピールすることが可能となります。
 もっとも、特定事業者においても、今回の改正によって、従来の省エネに関する知識に加え、カーボンニュートラルに関する知識も踏まえた高い専門性が求められるようになりました。中長期計画書を作成するとしても非化石エネルギーの目標設定においては、2030年度までの戦略的な目標設定が必要となるため、慎重な目標設定が必要となります。
 当事務所においては、中長期計画書及び報告書作成の際の手続きや、法律上のリスクについてのサポートはもちろん、経営戦略上のアドバイスも行わせていただきますので、お気軽にお問合せください。

波多野 太一 弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士執筆者:波多野 太一

弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。
2022年に弁護士登録。企業・個人を問わず、紛争や訴訟への対応を中心に扱い、企業間取引においては契約書等の作成・リーガルチェックといった日々の業務に関する法的支援も多数取り扱っている。
また、相続や交通事故に伴う個人間のトラブルや、少年事件や子どもに関するトラブル等も多数取り扱っている。
企業・個人を問わず、困難に直面している方に寄り添い、問題の解決や最大限の利益の追及はもちろん、目に見えない圧倒的な安心感を提供できるように努めている。

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