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新型コロナウイルスの影響により、テレワークやリモートワークといった働き方が急速に普及したことから、最近特に注目を浴びているのが電子契約です。
実際に、電子契約を導入している企業も増加していることなどの理由から電子契約に興味を持ち、電子契約の導入を検討されている方も多いことかと思います。
そこで、以下では、電子契約の導入を検討する上で気になる電子契約に必須の電子署名の意味・仕組、電子署名の裁判における証拠としての価値、電子契約のメリット等について説明します。
電子契約書には、書面による契約書のような押印がないため、ハンコの形(印章)と、書面上のハンコを押した跡(印影)とを照らしあわせる方法により、本人の確認をすることができません。
そこで、電子契約書では、書類の作成者として記載されている人(本人)が作成したものであることを明らかにするために、署名・押印に代わるものとして電子署名が用いられています。
ここからは、ハンコによる押印と比べながら電子署名の仕組みについて説明していきます。
ハンコによる押印の場合には、本人しか持っていないハンコ(印章)を使い、そのハンコを使用しないと作れない書面上の印を押した跡(印影)を作成します。本人しか持っていない物を使い、その物でないと作成できないものが作成されている(他人には作成できない)ことから、その文書も本人によって作成されたことを確認する仕組みです。
電子署名の場合にも、本人しか持っていない物を使い、その物でないと作成できないものを作成するというのは同じですが、これを電子的に実現することになります。
電子署名における「本人しか持っていない物」は、「秘密鍵」(署名する本人だけが知っている暗号鍵のこと)と呼ばれます。この秘密鍵と、電子署名をする電子契約書を、「電子署名作成プログラム」に投入し暗号化することにより、「本人の秘密鍵を使用しないと作れない電子署名」、すなわち他人には作成できない電子署名を作成するのです。
民事訴訟法のルール上、電子契約書も書面による契約書と同様に契約書が本人の意思に基づいて作成されたこと(文書の真正な成立)を裁判所で証明することが必要になります。
書面による契約書の場合には、契約書に本人のハンコによる押印があることを立証すれば、文書の真正な成立が推定され、立証が容易となる規定が民事訴訟法に定められています。
他方で、電子契約書の場合には手書きの署名や押印がないため、上記の推定規定は適用されないこととなります。
そこで、民事訴訟法上の推定規定に代わるものとして、電子署名法3条には、以下の要件を満たした電子署名がある場合には、電子文書の真正な成立を推定する規定が設けられています。
①本人が行った電子署名であること
②電子署名を行うために必要な符号及び物件を適切に管理することにより、本人だけが行うことができるものであること
利用者本人が電子署名する形の電子署名サービスでは通常、電子証明書により本人が電子署名を行ったことが分かる仕組み(①に該当)となっており、また、強度な暗号化技術を用いた秘密鍵といった符号が用いられ、秘密鍵はICカード等の物件により適切に管理される仕組み(②に該当)となっているため、上記の条件を満たし、電子署名があれば電子文書の真正な成立が推定されることとなります。
一方、同じ電子署名でも、本人ではなくサービス提供者が立会人として電子署名をする形の電子署名サービスもあり、この場合は本人による電子署名がないといった理由から、電子署名法上の推定規定が適用されないと考えられてきました。
しかし、最近のペーパーレス化の流れを受けて、一定の基準を満たせばこの種のサービスにおいても電子署名法上の推定規定が適用できる可能性があることが、政府の見解により示されることとなりました。この一定の基準について、現時点では詳細な基準までは明確になっていませんので、今後の政府等による基準やガイドラインの制定が期待されています。
ⅰ印紙代の削減
一定の種類の契約書を書面で作成する場合には収入印紙を貼付する必要があります。
これには日常業務でも作成することの多い、継続的取引の基本契約書(売買取引基本契約書等)、請負契約書なども含まれます。
この点、紙の文書と異なり、電子契約で作成した文書については、印紙の貼付は不要となるのが実務上の取扱いとなっています。
そのため、電子契約を導入すれば印紙代を削減することができ、特に印紙税の課税対象となる文書を大量に取り扱う企業や、金額規模の大きな取引を扱う企業においては、大きなコスト削減効果が期待できます。
ⅱ文書関連費用・人件費用の削減
紙の契約書を作成する場合には、契約書の印刷代、契約書を相手方に送付するための郵送費等の文書関連費用だけではなく、これらの作業を行うための人件費もかかります。他方で、電子契約の場合には、文書関連費用が不要となりますし、作業工数も大幅に減らすことができるため、結果として人件費の削減にも繋がります。
電子契約の場合には、契約書の印刷・郵送といった作業が不要となり、かつオンライン上で全ての作業が完結するため、事務的工数を削減できるうえに、契約締結までの日数を大幅に短縮することができる等、全体的な業務の効率化が期待できます。
電子契約の場合、高いセキュリティが施されたデータベースで保管する、管理権限者を一定の者だけに与える等の方法をとれば、紙の契約書と比較して、契約データの持ち出しや契約書の改ざん等を高いレベルで防止することができます。
電子契約導入には、電子契約システムの導入、社内管理体制の変更、取引先への電子契約の取扱い等に関する説明などが必要になり、これに伴う費用がかかります。導入を検討される際には一度導入コストを試算し、電子契約導入による削減コスト等との比較を行うとよいでしょう。
多くの契約は、当事者の契約を結ぼうという合意があれば成立するため、電子契約によっても契約を締結することができます。
ただ、不動産取引において作成される媒介契約書、重要事項説明書など一部の契約類型では紙の書面による契約の締結が義務付けられているため、電子契約を利用できない場合があります。
上記3のとおり、電子書面サービスの種類によっては文書の真正な成立の証明が難しくなる可能性があるという問題があります。
ただ、サービスによっては、電子契約書の裁判での証拠利用を意識した対応を行っている場合もあります。詳しくは導入の際に、電子契約サービスの提供会社に当該サービスを利用して作成した電子契約書を裁判で証拠利用する際の注意点等について問い合わせるのがよいでしょう。
当事務所では、電子契約を含めた契約書チェックを日々の業務として多く取り扱っており、将来の紛争リスク予防や具体的なリスクの程度などを勘案した上でのリーガルチェックが可能です。
まずは、お気軽に当事務所までご相談ください。
執筆者:弁護士法人フォーカスクライド
中小企業の企業法務を中心とした真のリーガルサービスを提供するべく、2016年7月1日に代表弁護士により設立。
「何かあった時だけの弁護士」(守りだけの弁護士)ではなく、「経営パートナーとしての弁護士」(攻めの弁護士)として、予防法務のみならず、戦略法務に注力している。
また、当法人の名称に冠した「フォーカスクライド」とは、「クライアント・デマンド(クライアントの本音や真のニーズ)に常にフォーカスする(焦点を合わせる)。」という意味であり、弁護士が常にクライアントの目線で考え、行動し、クライアントの本音やニーズに焦点を合わせ続けることを意識して、真のリーガルサービスを提供している。
なお、現在では、資産税に特化した税理士法人フォーカスクライドと、M&A及び人事コンサルティングに特化した株式会社FCDアドバイザリーとともに、グループ経営を行っている。