【2023年6月1日施行】改正消費者契約法を踏まえた対応

1 消費者契約法の改正

 2022年5月25日、「消費者契約法及び消費者の財産的損害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律(令和4年法律第59号)」が成立しました。
 以下では、消費者契約法の2022年改正部分を「2022年改正」といいます。
 本記事でご説明する2022年改正は、2023年6月1日に施行されます。
 2022年改正の内容は、大きく分けて次の5つです。本記事では、特に事業者にとって問題となりやすい改正内容①②③④(④のうち「適格消費者団体に対する契約条項の開示の努力義務」「適格消費者団体からの差止請求を受けて講じた措置の努力義務」および⑤は除きます。)と実務上の留意点をご説明します。

  • 改正事項①   契約取消権を追加・拡充
  • 改正事項②   免責の範囲が不明確な条項(サルベージ条項)の無効
  • 改正事項③   解約料の説明の努力義務
  • 改正事項④   事業者の情報提供の努力義務の拡充
  • 改正事項⑤   適格消費者団体関係

2 消費者契約法の概要

 2022年改正のご説明に入る前に、消費者契約法を概観します。
 消費者契約法は、事業者と消費者との間で締結される契約(消費者契約)全般に広く適用される法律です(ただし、労働契約を除きます。)。事業者と消費者との間には、情報力の質や量、交渉力に格差が存在することを踏まえて、消費者の利益を守ることを目的として制定されました。
 消費者契約法は、消費者の利益を守るために3つの柱を設けました(本記事でご説明する改正事項①②③④と関係するのは、第1の柱と第2の柱です。)。
 第1の柱は、事業者の不当な勧誘行為により、消費者が誤認し(誤認類型)または困惑して(困惑類型)消費者契約を締結する意思表示をした場合、および、事業者の勧誘により消費者が過量な内容の契約を締結する(過剰契約類型)意思表示をした場合に、消費者にその意思表示を取り消す権利を認めるというものです。その類型は、下記【図表1】に列挙しています。
 第2の柱は、消費者契約における契約条項のうち、消費者の利益を不当に害する条項を無効にするというものです。
 第3の柱は、事業者の不適切な勧誘行為や不当条項の使用の差止めを請求する権利を、適格消費者団体に認めるというものです。

【図表1】不当勧誘の類型一覧
(具体例の引用元:知っていますか?消費者契約法ー早分かり!消費者契約法ー(令和5年3月))

3 2022年改正の内容

⑴ 改正事項①:契約取消権を追加・拡充

 2022年改正により、第1の柱のうち、困惑類型に、退去困難な場所への同行(第4条第3項第3号)および相談連絡妨害(第4条第3項第4号)が新設され、既成事実化(第4条第3項第9号)の内容が拡充されました。規定内容は【図表2】のとおりです。
【図表2】改正後第4条第3項第3号、第4号および第9号の規定内容

条文 規定内容
3号 当該消費者に対し、当該消費者契約の締結について勧誘をすることを告げずに、当該消費者が任意に退去することが困難な場所であることを知りながら、当該消費者をその場所に同行し、その場所において当該消費者契約の締結について勧誘をすること。
4号 当該消費者が当該消費者契約の締結について勧誘を受けている場所において、当該消費者が当該消費者契約を締結するか否かについて相談を行うために電話その他の内閣府令で定める方法によって当該事業者以外の者と連絡する旨の意思を示したにもかかわらず、威迫する言動を交えて、当該消費者が当該方法によって連絡することを妨げること。
9号 当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に、当該消費者契約を締結したならば負うこととなる義務の内容の全部若しくは一部を実施し、又は当該消費者契約の目的物の現状を変更し、その実施又は変更前の原状の回復を著しく困難にすること。(下線部が改正箇所、執筆者付記)

 ・類型①(退去困難な場所への同行)
 類型①は、消費者に勧誘目的であることを告げずに当該消費者が任意に退去することが困難な場所に連れて行き勧誘を行うものです。このような行為態様は無事に帰宅するためには契約を締結するしかないという状況に消費者を置くもので、困惑類型のうちの不退去(お願いしても帰ってくれない)や退去妨害(帰りたいのに帰してくれない)と同じく、消費者の自由な意思に基づく契約締結とは言いがたいことから規定されました。
 事業者としては、場所を移動する場合、消費者に対し勧誘の目的であることを伝える必要があります。
・類型②(相談連絡妨害)
 類型②は、自分一人で決断するしかないという心理的状況に消費者を追い込むことで、契約締結に至らせるものです。ただし、「威迫する言動を交えて」妨害することが要件になっているため、どの程度の言動が「威迫」に該当するのかが今後適用にあたって争点となります。
 事業者としては、消費者が家族や友人などの第三者に相談するため電話したい旨を伝えられた場合、そのような消費者の行為を遮らず、相談・連絡の時間を確保するなどの対応をとる必要があります。
・類型③(既成事実化)
 類型③は、事業者が、契約締結前に当該契約を締結した場合に負う義務の全部もしくは一部を実施し、または目的物の現状を変更し、契約が成立した場合と同じ状況を作り出し、かつ、原状回復を困難にすることにより契約の成立を既成事実化することで、消費者に契約を締結するしかないという心理的負担を抱かせるというものです。
 事業者としては、契約締結前に当該契約をした場合に負う義務を実施するのではなく、契約締結後に実施する必要があります。

⑵ 改正事項②:免責の範囲が不明確な条項(サルベージ条項)の無効

 2022年改正により、サルベージ条項を不当条項の1つとして無効とする条項として追加されました。
 サルベージ条項とは、ある条項がそのままでは強行法規に反し全部無効となるような場合に、その条項の効力を強行法規によって無効とされない範囲に限定する趣旨の規定が設けられた条項のことをいいます。たとえば、次のような条項です。

「当社は、顧客が本サービスを利用したことによって発生したいかなる損害についても責任を負いません。ただし、弊社が免責される範囲は、法律で許容される範囲に限られます。」

 消費者契約法第8条第1項第2号・第4号は、事業者側の故意または重過失による損害の場合には、損害賠償責任を一部免除する条項や、事業者自身がその責任の限度を決定することができるとする条項は無効と定めています。しかしながら、一般的な消費者が上記サルベージ条項の具体例を見て、消費者契約法第8条第1項第2号・第4号の定めを読み取ることや、相手方の会社の損害賠償責任が軽過失の場合に限り一部免責されることを理解することは困難でしょう。そのため、消費者が本来認められている権利の行使を抑制されてしまうおそれがありました。そこで、2022年改正により、事業者側の損害賠償責任の一部免責条項は、軽過失の場合のみに限られることを明らかにしていなければ、無効となることが定められました(改正後8条3項、【図表3】参照)。
 【図表3】改正後第8条第3項の規定内容

条文 規定内容
第8条
第3項
事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)又は消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって、当該条項において事業者、その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは、無効とする。

 事業者としては、軽過失の場合の損害賠償責任の一部免責条項を定めるのであれば、契約書や規約などの見直しを行い、一部免責は軽過失がある場合に限ることを明示する条項(例えば、「当社の損害賠償責任は、当社に故意または重大な過失がある場合を除き、顧客から受領した本サービスの手数料の総額を上限とする。」など)に修正する必要があります。

⑶ 改正事項③:解約料の説明の努力義務

 2022年改正により、事業者に、消費者に対し解約料の算定根拠を説明する努力義務が課されました。規定内容は【図表2】のとおりです。
 【図表2】改正後第9条第2項の規定内容

条文 規定内容
第9条
第2項
事業者は、消費者に対し、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項に基づき損害賠償又は違約金の支払を請求する場合において、当該消費者から説明を求められたときは、損害賠償の額の予定又は違約金の算定の根拠…の概要を説明するよう努めなければならない。

 消費者契約法第9条第1項第1号は、消費者契約の解除に伴う損害賠償額を予定する条項または違約金を定める条項(以下では、損害賠償金と違約金を総称して「解約料」といいます。)について、同種の消費者契約の解除により事業者に生じる平均的損害を超えるものは、その超える部分に限り無効であると定めています。
 2022年改正により、消費者契約法第9条第2項は、事業者が消費者に対し解約料を定める条項に基づき解約料を請求する場合に、消費者から説明を求められたときは、解約料の算定根拠の概要を説明する努力義務を新たに定めました。つまり、事業者には、契約条項で定める解約料が「平均的損害」を超える不当なものではないことを説明する努力義務が課せられました。
 「消費者契約に関する検討会」の報告書14ページには、説明内容について、「どのような考慮要素および算定基準に従って『平均的な損害』を算定し、違約金が当該『平均的な損害』の額を下回っていると考えたのかについての概要を説明することが考えられる」と記載されています。具体的な説明の内容は、消費者からの要求によって変わり得るので、臨機応変に対応する必要がありますが、「消費者契約に関する検討会」の報告書14ページには、「具体的な金額などは営業秘密に該当する可能性がある上、消費者も具体的な金額についてまで説明を求めていないと思われるため、例えば、算定基準として逸失利益が平均的損害に含まれると考えたかどうかを説明することが想定され、逸失利益が具体的に何円であると算出したのかまで説明する必要はないと考えられる。」「契約対象となる商品等の原価として材料費や人件費を積み上げて解約金を定めたのであって(原価以外に再販売できないことによる損失も生じていることから)「平均的な損害」を下回ることは明らかである等との説明も考えられるところであり、この場合においても具体的に原価やその内訳が何円であるかまで説明する必要はないと考えられる。もっとも、消費者が「平均的な損害」の額との関係で違約金がどのように定められているのかではなく、違約金の合理的根拠そのものの説明を求める場合にあっては、事業者においても、違約金を定めるに当たって考慮した要素や算定の基準の概要、違約金の考え方等をもって、違約金の合理性を説明することが考えられる。」と記載されており、説明の内容を検討する上で参考になります。また、説明方法については、「個々の消費者に説明する方法のほか、ホームページ等で説明する等の様々な方法があり得る」とも指摘されています。
 解約料の説明義務は現時点では「努力義務」ではありますが、事業者としては、消費者との間のトラブルを避けるためには、解約料の算定根拠を説明するための資料を事前に準備することが期待されています。

⑷ 改正事項④:事業者の情報提供の努力義務の拡充

 2022年改正により、事業者に、消費者契約を締結する時や解除の際に、契約内容に関する情報を提供する努力義務が定められました。以下では、考慮要素が追加された消費者契約締結時の勧誘に関する情報提供(改正後第3条第2号)、新設された定型約款に関する情報開示(同項3号)および契約解除に関する情報開示(同項4号)についてご説明します(規定内容は【図表4】のとおりです。)。
 【図表4】改正後第3条第1項第3号および第4号の規定内容

条文 規定内容
2号 消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの性質に応じ、事業者?が知ることができた個々の消費者の年齢、心身の状態、知識及び経験を総合的に考慮した上で、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供すること。(下線部が改正箇所、執筆者付記)
3号 民法(明治29年法律第89号)第548条の2第1項に規定する定型取引合意に該当する消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者が同項に規定する定型約款の内容を容易に知り得る状態に置く措置を講じているときを除き、消費者が同法第548条の3第1項に規定する請求を行うために必要な情報を提供すること。
4号 消費者の求めに応じて、消費者契約により定められた当該消費者が有する解除権の行使に関して必要な情報を提供すること

 第2号は、消費者の理解を深めるために、個々の消費者の年齢、心身の状態、知識及び経験を考慮した上で、消費者契約の内容についての必要な情報を提供することを定めるものです。「消費者契約に関する検討会」の報告書28ページには「消費者の「年齢」、「知識及び経験」は個々の消費者に関する事情であり、事業者が知っているとは限らないが、事業者はこれらの要素を知ることができた場合には考慮した上で情報提供を行うことが期待されており、これらの要素を積極的に調査することまで求めるものではない」と記載されており、事業者側にも事情にも配慮された規定となっています。
 第3号は民法の規定を補完するものです。すなわち、民法改正により定型約款の規定が設けられ、定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたときやその旨相手方に表示したときは、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなされることが明記されるとともに(民法548条の2第1項)、定型約款の内容を相手方が確認・承諾したうえで取引を行うことができるよう、事業者は定型取引合意の前または定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならないこととされました(同法548条の3第1項)。しかし、消費者が取引相手の場合、かかる請求権を有していることを知らないことが多いという問題があり、2022年改正では、消費者が当該制度を活用できるよう必要な情報提供を行うことを努力義務として定めました。ただし、多くの事業者は「利用規約」等の題目で定型約款の内容を公式ウェブサイトに掲載する等により消費者に周知させており、このような場合にまで上記努力義務を課す必要はないことから、消費者が定型約款の内容を容易に知り得る状態に置く措置を講じている事業者は対象から除かれています。
 また、第4号については、契約の解除に関する情報は消費者にとって関心の高い契約内容の1つであるため、事業者の努力義務を契約締結時だけでなく、解除時にまで拡充したものと考えられます。事業者としては、消費者が解除権を行使するために必要な情報については、消費者からの求めに応じて提供すべきこととされていますが、あらかじめウェブサイトなどにおいてキャンセルポリシーなどの形で詳細を記載し周知しておくことが期待されます。

4 さいごに

 以上のとおり、2022年改正は事業者にとって契約書や規定などの整備・修正が求められる内容になっており、2023年6月1日に施行に向けて準備を進めていく必要があります。
 当事務所では、消費者契約を含めた契約書チェックを日々の業務として数多く取り扱っており、将来の紛争リスク予防や具体的なリスクなどを勘案した上でのリーガルチェックが可能です。消費者契約法や消費者問題に関するお悩みがございましたら、お気軽にお問い合わせください。

山野 翔太郎 弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士執筆者:山野 翔太郎

弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。
2022年に弁護士登録。遺言・相続、交通事故、離婚・男女問題、労働、不動産賃貸者などの個人の一般民事事件・刑事事件から、企業間訴訟等の紛争対応、契約書作成、各種法令の遵守のための取り組みなどの企業法務まで、幅広い分野にわたってリーガルサービスを提供している。

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