既存取引の見直し

Contractual Issues

令和2年4月1日より、約120年ぶりに改正された民法の施行がスタートしました。これに関連して以下のようなことでお困りではないでしょうか。

  • 従前使用していた契約書で問題がないかどうか判断できない。
  • 契約書のどの条項を変更すべきか分からない。

改正民法では、多数の規定が追加、削除、変更されていますが、その中には日々の取引まつわる契約に直接的に影響するものから、条文上定められていなかったものの、判例や通説的な考え方として実務に定着していたものが明記されるに至ったということでそれほど大きな影響のないものまで様々なバリエーションがあります。そこで、契約書を改正民法に適合させつつ、自社にとって可能な限り有利なものとするためには、改正された条文のうち、どの規定が実務に大きな影響を与えるものであるかを見極めながら、改定作業を進めることが重要です。

以下では、改正民法のうち、企業間の日常的な取引に少なくない影響を及ぼすものについてご紹介します。ここでご紹介する内容が、皆様の既存取引の見直しのきっかけとなりますと幸いです。

1 企業間の取引へ影響を及ぼし得る改正

(1)契約不適合責任

改正前民法では売買契約の目的物について一見して発見し難い不具合や品質不足=「隠れた瑕疵」がある場合に、買主から売主に対して、契約解除や損害賠償を求めることができる旨の規定があり、これを瑕疵担保責任と呼んでいました。この瑕疵担保責任という言葉は、契約書でも頻繁に出てきていた文言ではありますが、改正民法では、この「瑕疵」という文言の使用を廃止して、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」、すなわち契約不適合という言葉がこれに取って代わることとなり、売主が負担する責任の名称としても契約不適合責任と呼ばれるようになりました(民法566条)。

そのため、契約書の条項でも「瑕疵」あるいは「隠れた瑕疵」といった文言は、売買目的物の「種類・品質・数量が契約の内容に適合しない場合」という形で修正する必要があります。そして、これに伴い、「契約の内容」がどのようなものであるかを、当該契約書の中で具体的に定めておく必要があります。例えば、材料や原料の供給に関する売買契約において、契約の「目的」に関する条項などで、当該材料をどのような用途で使用するか、当該材料からどのような製品を製造するかを明記しておくことで、その用途で使用できない品質である場合や、製品を製造できない品質である場合には「契約の内容に適合しない」ということで契約不適合責任が発生するという定め方が考えられます。このような定めは、一見すると買主に有利なように見えますが、売主の立場からも、どの程度の品質のものを供給すればよいかということを契約締結段階で明確にしておくという点では、一概に不利な規定ともいえません。

買主・売主のそれぞれの立場から、いかにして将来的に目的物に不具合があるという紛争が生じるのを防止するかを具体的にイメージできるかという観点から、契約書の各条項の修正を検討することになります。

(2)連帯保証契約

ア 個人根保証契約における極度額の設定義務

会社が、土地や建物の賃貸借契約を締結する場合、代表取締役個人が連帯保証人となることも多くあると思います。この場合、改正前の契約書では、単に、「連帯保証人は、貸主に対して、借主が本契約に基づいて負担する一切の債務について、連帯して保証する。」との条項を設け、連帯保証人たる代表者自身が当該契約書に署名押印するだけで、連帯保証契約が成立していました。

ところが、改正民法では、上記のような「借主が本契約に基づいて負担する一切の債務」のような、一定の不特定の債務を負担する内容の保証契約を「根保証契約」とし、個人がこの根保証契約に基づいて保証人となる個人根保証契約について、債務の上限となる極度額を定めなければ無効であると規定されるに至りました(民法465条の2第1項・第2項)。この規定は、上記のような賃借人の連帯保証人となる個人が、長期にわたり賃料を滞納した場合や賃借人が物件内で自殺した場合などに過大な責任を負うリスクがあり、当該リスクに対して上限を定めるという趣旨で設けられました。したがいまして、連帯保証人が個人ではなく保証会社などの法人である場合には、極度額を定めておく必要はありません。また、他に根保証契約となりうる類型としては、代理店等を含めた取引先企業の代表者との間で損害賠償債務や取引債務等を保証する内容の契約、介護等の施設への入居者の負う各種債務を保証する契約などが挙げられます。

問題は、この極度額をどのように定めるべきかということです。これは実務上非常に難しい問題で、少額ですと連帯保証人を擁立した意味が小さくなってしまいますし、多額過ぎると上記のような極度額を定めた趣旨が失われてしまい、場合によっては公序良俗に反するとして極度額を定めたにもかかわらず、連帯保証契約自体が無効となるという可能性があります。実務上、確定的な取り扱いがあるわけではありませんが、概ね賃料の12~24ヶ月分という形で定める事例が多いと考えられます。この場合、月額賃料が固定であれば特段問題となりませんが、月額賃料が売り上げなどに応じて変動する場合、極度額が決まった金額ではないとの判断が為される可能性もあります。そのため、どの時点の賃料であるのか、あるいは〇ヶ月分という期間とあわせて固定額を併記しておくという方法も考えられます。 

イ 主債務者から保証人に対する情報提供義務

保証人となるに当たっては、主債務者の財産や収支の状況等をあらかじめ把握し、保証債務の履行を現実に求められるリスクを検討することが重要です。特に、会社の事業のために負担する債務は、多額となる可能性が高くなります。そこで、主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証、又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証を委託する場合、その委託を受ける者(個人に限ります。)に対して、①財産及び収支の状況、②主たる債務以外に負担している債務の有無、③主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとしているものがあるときは、その旨を及び内容について情報を提供しなければならないとされました(民法465条の10第1項)。そして、主債務者が、当該情報を提供しないか、事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合に、債権者が上記情報不提供の事実等を知り又は知ることができたときは、保証人は保証契約を取り消すことができます(民法465条の10第2項)

上記の保証契約の取り消しといった事態を避けるための方策としては、契約書中の連帯保証人に関する条項の中に、主債務者が保証人に対して民法第465条の10第1項の情報提供及び説明を行い、保証人が提供を受けたこと、主債務者が提供した情報が正確・真実でることの表明・保証をする旨の規定を設けることが考えられます。

3 当事務所でできること

上記の契約不適合責任や連帯保証契約に関する規制は、民法改正による契約書作成実務に大きな影響を与えるものの一部に過ぎません。

当事務所では、改正民法の施行前から現在に至るまで、多くの顧問先企業様から民法改正にともなう契約書のリーガルチェックにまつわる相談を受け、迅速に条項の修正・助言をしてまいりました。

契約書の作成にお困りの際には、お気軽に当事務所までご連絡ください。

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