弁護士に依頼するかの判断基準及び依頼する場合の留意点

Contractual Issues

新たに契約を結ぶにあたり、どのような場合であれば自社で対応せずに弁護士に契約書作成・チェックの相談・依頼をするという判断をなさるでしょうか。日常的な契約や過去に経験のある契約であれば、自社の雛形をそのまま利用ないし流用することで対応可能かもしれませんが、全く新たな取引形態や事業分野の場合には、自社での対応に躊躇されることも多くあろうかと存じます。これは、顧問弁護士がいる場合でさえそうであり、顧問弁護士がいない場合にはその傾向はより顕著といえます。そして、顧問弁護士がいない場合に、弁護士にスポットで依頼をするのか顧問契約を結ぶのかというある種の決断を要することもあろうかと存じます。また、弁護士に相談ないし依頼すると決めたとして、単に契約書作成・チェックをお願いしますとメールをすれば足りるのか、どこまでの情報を提供すべきなのかということにも悩まれることもあろうかと存じます。

ここでは、契約書作成・チェックに関して、どのような場合に弁護士に相談・依頼をすべきか、また相談・依頼をする際にどのような情報をあらかじめ提供しておけば、スムーズに契約書作成・チェックを進められるかについてご紹介いたします。

1 どのような場合に弁護士に相談・依頼をすべきか

弁護士に相談・依頼すべき場面としては、①取引に関して法令の規制が存在する場合、②法令の改正により従前の条項を変更する必要がある場合などが考えられます。

(1)取引に関して法令の規制が存在する場合

契約書では、契約自由の原則に則り、基本的に当事者間で自由な内容を定めることが可能ですが、契約の目的となる取引に関して、法令による規制がかかるような場合には、当該法令に抵触しないかどうかのチェックをする必要があります。

例えば、建物の賃貸借契約の場合、主に借主の保護を目的とした借地借家法という法律が定められており、その借地借家法で定められた基準を下回る契約内容は、無効となる場合があります。もっとも、借地借家法の全ての規定が、そのような最低限の基準に関する規定(これを「強行規定」と呼びます。)というわけではなく、中には必ずしも当該条項に従う義務まではない規定(これを「任意規定」と呼びます)も含まれており、契約書作成においては、強行規定を遵守しながら、任意規定にかかわる条項でいかに自社に有利な定めを設けるかということが重要となります。事業用の物件で締結されることの多い「定期建物賃貸借契約」も借地借家法上、一定の要件を満たす場合(書面での作成、更新がなく期間満了により終了することについて書面を交付しての説明の実施)に限り有効となります。この要件を満たさないものは、たとえ表題が「定期建物賃貸借契約」となっていても、借地借家法上の定期建物賃貸借契約とは扱われず、通常の建物賃貸借契約と同じ扱いとなってしまいます。

かかる規制は、事業活動の中でも比較的多くみられるものですが、実際に新たな取引を開始する場面では、そもそも法令による規制が存在するかどうかすら容易に判断しえないことも多々あろうかと存じます。そのような規制の有無を判断し得ない場合も含めて、弁護士に相談・依頼すべき場面といえるでしょう。

(2)法令の改正により従前の条項を変更する必要がある場合

新たに法律が改正された、あるいは行政による通達や指針が発表されたという場面も、弁護士に相談・依頼すべき場面といえます。

最近の法改正で大きな注目を集めたものとして民法の改正が挙げられます。民法の改正にともない、契約書の条項の修正を余儀なくされているということも多くあり、その中には契約の有効性にかかわる重要な改正も存在します。例えば、会社ではない個人の根保証契約(保証する債務の内容が確定していない契約)では、負担する保証債務の上限である「極度額」を定めなければ無効となります。従前の、居住用建物の賃貸借に関する連帯保証契約や就職に際しての身元保証契約などがこの根保証契約に該当するところ、個人がかかる根保証契約の保証人として契約を締結する場合、「極度額を〇〇万円」あるいはは「極度額を月額〇〇万円の賃料(給料)の6ヶ月分」といった形で定める必要があります。この極度額の定めがなければ、たとえ契約書に保証人として署名・押印をしたとしても、当該契約は無効となってしまいます。

日々業務に忙しく従事されている方にとっては、最新の法改正までチェックしておくことはなかなか難しいため、法改正に関する調査も含めて弁護士に依頼・相談すべき場面といえます。

2 弁護士に相談・依頼する場合にどのような情報を提供すべきか

いざ弁護士に契約書作成について相談・依頼をするという場合、弁護士に提供すべき情報としては、①契約書作成の目的、②取引実態、③当事者間のパワーバランス、④(可能であれば)現状判明している懸念点などが挙げられます。

(1)契約書作成の目的

契約書作成の目的は、契約書の前文や第1条に漫然と記載されていることも多くありますが、例えば、契約の目的を達しない場合に契約を解除できる、というような場合には、何が契約の目的なのかが重要な意味を持つことがあり得るため、目的を明確化しておく必要があります。

契約書作成の目的は、取引の内容や開始の経緯、将来の展望などを踏まえて定められることになるため、事前に弁護士に情報提供しておくことで、目的に関する条項が早期に確定し、全体としても目的に沿った内容で調整を図ることも可能となります。

(2)取引実態

取引実態は、契約書をもとに実行される取引を具体的かつ詳細に把握し、契約当事者が得る権利や負担する義務の内容を明確化するために必要な情報となります。権利や義務の内容が不明確であるということは、当事者の一方が義務の履行を理由とする代金の請求を主張し、もう一方が義務の不履行を理由とする代金支払いの拒絶を主張しあうといった将来の紛争の火種を残すことにつながります。そのため、契約書の根幹である権利義務を定めるためにも取引実態の把握は不可欠といえます。

(3)当事者間のパワーバランス

契約は、相手方がいるものですので、一方的に有利な規定だけを設ければよいというものではありません。相手の方にパワーバランスが傾いている場合、有利な規定ばかりを設けることは契約自体を破綻させるリスクすらあります。そのため、契約書作成・チェックの場面では、当事者間のパワーバランスを踏まえて、有利にさせすぎないように調整をするという視点も重要となります。

(4)(可能であれば)現状判明している懸念点

契約書作成・チェックの相談・依頼を受ける側の弁護士としては、クライアントがその契約書のどの点に疑問や懸念を抱いているかを知ることで、そこを重点的に修正・チェックし、かつ十分な補足説明をすることが可能となります。初期の段階からそのような懸念点を把握することは困難かもしれませんが、慣れてくると懸念点が見えてくることがあります。そのような懸念点を事前に提示されることで、契約書作成・チェックがより効果的かつ効率的に進めることが可能です。

3 当事務所でできること

契約書の作成・チェックをどのような場合に弁護士に依頼すべきかの判断は非常に難しいものですが、そのようなときにこそ、まずは弁護士に相談をしてみるということが有益です。そして、その際には、上記4つの情報を中心にお話しいただくことで、具体的な取引形態に即した、将来発生するリスクを正確にとらえた契約書を作成することが可能となります。

当事務所では、日々顧問先の企業様から契約書作成・チェックに関する相談を受け、これに対して適切かつ迅速に対応しております。これまで培ってきた知識、経験、ノウハウを駆使し、皆様が抱いておられる契約書作成に関するお悩みを解消させていただきます。

まずは、お気軽にご連絡ください。

新留治 弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士執筆者:新留 治

弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。2016年に弁護士登録以降、個人案件から上場企業間のM&A、法人破産等の法人案件まで幅広い案件に携わっている。特に、人事労務分野において、突発的な残業代請求、不当解雇によるバックペイ請求、労基署調査などの対応はもちろん、問題従業員対応、社内規程整備といった日常的な相談対応により、いかに紛争を事前に予防することに注力し、クライアントファーストのリーガルサービスの提供を行っている。

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