新規取引を開始するにあたっての契約書作成の場面でこんな問題で苦しんでいませんか?
・社内に雛形となるような契約書が存在しない
・ネット上に流用できそうな雛形が落ちていない
・同じ表題の雛形を見つけたが新規取引の内容とマッチしない
契約書作成の重要な視点は、将来どのような紛争が生じるかを予測して作成するということです。とはいうものの、まだ始まってもいない取引で将来どのような紛争が起きるかについて全て網羅するということは非常に困難ですし、ネット上で流用できそうな雛形があったとしても、それできちんとカバーできるとは限りません。
そこで、以下では、契約の内容にかかわらず、一般的に契約書としてチェックをすべき項目についてご紹介いたします。
Contents
契約書には、「売買契約書」、「請負契約書」、「業務委託契約書」といった表題をつけられることが多くあります。この表題は、契約書の条項を読む前に全体像を理解するという意味では重要なものですが、必ずしも、表題に記載した内容の契約が成立するというものではありません。例えば、「請負契約書」という表題だったとしても、中身の条項で民法上定められた請負契約の成立要件に関する条項がなければ、請負契約が成立したとは認められません。そのため、契約書のチェックの際には、契約書の表題に引っ張られすぎず、契約内容と表題がきちんと一致しているかを確認する必要があります。
また、これに関連して、各契約書の条項にかっこ書きで「見出し」をつけていることも多くあると思います。これも表題と同様で、当該条項の内容と見出しがきちんと一致しているかを確認する必要があります。仮に、条項の内容と見出しが一致していなければ、条項の内容が優先されますので、たとえ自社に有利な条項の見出しであるとしても、注意深く内容を精査する必要があります。
契約書の第1条に入る前に、契約締結の各当事者名などを記載した「前文」を置くことが多くあります。契約とは、原則として、当事者として名前が記載され、署名(記名)押印した者のみを拘束することになります。そのため、前文に当事者名を記載することは、当該契約によって権利を享受し、義務を負担する者が誰であるかを明確にするという観点から有益なものといえます。
契約書の第1条や前文に、契約の目的や契約書作成の目的を記載することがあります。これは、当事者間で目的について共通認識を持つという意味もありますが、契約を解除する際の事由の一つとして、「契約の目的を達しない場合」が挙げられているとき、何が契約の目的なのかが重要となります。契約の目的を可能な限り具体化して明記しておくことで、解除できるかどうかでの争いを防止することにつながります。
契約書では、当事者がそれぞれどのような内容の義務を負担し、どのような権利を取得するかを特定することが重要です。そして、多くの契約書では、一方当事者が物あるいはサービスを提供し、他方当事者がこれに対して対価として金銭を支払うという立て付けになっているところ、「どのような物」、「どのようなサービス」を提供するのか、対価として「いくら」支払うのかということを明確にしておく必要があります。
特に、物を提供する場合で、一点ものではなく複数提供する場合や契約締結時に存在しないものを提供する場合(例えば、新築建物の建築請負契約等)には、その仕様を詳細に特定し、提供された目的物が、契約記載の仕様を満たしているかどうかを判断できるようにしておく必要があります。
前記⑷の権利義務の発生について、一定の条件を付ける場合には、何が条件なのかを明確に特定する必要があります。例えば、ある物を提供するに際して、その物について「受取人による検査に合格したとき」に代金を支払うという取り決めをした場合、検査に合格することが、代金の支払いを受けるための条件となります。このような条件とされる事実が生じたかどうか(民法上は、条件の「成就」といいます)は、その結果として利益を受ける側、つまり先の例では、物を提供する側=代金の支払いを受ける側で検査の合格を証明する必要がありますので、証明する側の当事者で、条件が成就しやすいものかどうかという観点から条項を修正したり、後に紛争が生じないように合格の証となる書面を交付してもらう条項を追加するなどの対策が考えられます。
また、権利義務の内容に期限を付ける場合は、これに対するペナルティ(例えば、民法よりも大きい利率の遅延損害金を課す、契約の解除事由に定める)を課すということが考えられます。
一回限りの契約ではなく、継続的な契約関係の場合は、契約の存続期間を定めるのが一般的です。そして、当該継続的な契約が、自社にとって望ましいものであり、可能な限り長く続くことを望むという方針であれば、期間満了時に自動的に同じ内容で更新するという形にし、他方で、実際の取引の内容を踏まえて、長期的に契約を続けるのか、途中で終了させるのかを判断するという方針であれば、原則として期間満了により契約は終了するが双方から更新する旨の意思表示がある場合に限り同じ内容で存続するという形にするなどが考えられます。
また、特段解除する理由がなくとも、期間内に契約を解約することができる条項を設けるかどうかも検討の余地があります。一般的には、特段の理由なく契約を終了させることができる場合に「解約」という文言を用いて、法律上・契約上定められた事由が発生した場合に契約を終了させる場合に「解除」という文言を用いることが多いといわれています。
当事者の一方が契約上定められた義務を履行しない場合は、民法を根拠として契約を解除して終了させることが可能ですが、これとは別に、一定の事由が生じた場合に解除できるようにしたり、何らの通知や催告をなくして解除できるようにする特約を設けることが一般的です。また、解除したときに、あわせて義務を履行しない当事者に対して、損害賠償請求をなし得る旨を定め、必要に応じて違約金を定めておくということも検討されるところです。
弁護士が実務上気にする点としては、紛争が生じた場合に、どこの裁判所を専属的合意管轄裁判所にするかです。一概にどの裁判所にしておくのが有利であるとも言い難いところはありますが、一般的には、自社の本店所在地を管轄する裁判所を指定しておくと、紛争時に依頼する法律事務所との近接性もあいまって、余計な交通費や出張費用などもかからないという点で有利になると考えられています。
後に紛争となった場合に、作成日付欄が空欄ですと、いつ契約書が作成されたのかの特定に苦労するということもありえますので、作成日付を忘れずに記入しておく必要があります。
また、署名捺印・記名捺印部分については、きちんと前文に記載された当事者と一致しているか、権限のある者(法人であれば代表者等)によるものかを確認する必要があります。
以上はあくまでも多くの契約書に共通するチェック事項のうち、一般的なものを列挙したに過ぎません。実際の契約では、当該契約類型特有のチェックすべき事項や、記載内容が各種業法や規則などに違反していないかどうかという内容面に着目する必要がある一方で、あまりに自社に有利な内容に修正することで、契約自体が取りやめにならないようにするなどの外部的な事情にも着目する必要があります。
当事務所では、多種多様な顧問先企業様からの日常的な契約書のリーガルチェックに関するご相談に対し、当該契約に関する背景事情や外部事情にも配慮しながら、迅速かつ適切にご回答を差し上げております。契約書作成にお困りの際には是非一度お気軽にお問合せください。
執筆者:新留 治
弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。2016年に弁護士登録以降、個人案件から上場企業間のM&A、法人破産等の法人案件まで幅広い案件に携わっている。特に、人事労務分野において、突発的な残業代請求、不当解雇によるバックペイ請求、労基署調査などの対応はもちろん、問題従業員対応、社内規程整備といった日常的な相談対応により、いかに紛争を事前に予防することに注力し、クライアントファーストのリーガルサービスの提供を行っている。