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皆様の職場に以下のような言動をする従業員の方はおられませんか?
昨今,様々なハラスメントの存在が世間に浸透してきておりますが,企業内で問題となることが多いものとして長年の問題として挙げられているものがセクハラです。
令和2年に厚生労働省が行った「職場のハラスメントに関する実態調査」で,過去3年間の相談件数の推移においてセクハラの相談件数は減少傾向にあるものの,相談内容の割合としてはパワハラに次いで依然として多くの割合を占めております。
ここでは,セクハラに該当する行為として具体的にどのような行為が挙げられるのか,セクハラ行為が発覚した場合の企業におけるリスク及び基本的な対応策について簡単にご紹介します。
法律上明確にセクハラという言葉を用いて定義している規定はありませんが,男女雇用機会均等法第11条第2項に基づき定められた「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号。以下「指針」といいます。)では,「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け,又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」(男女雇用機会均等法第11条第1項)を「職場におけるセクシュアルハラスメント」としています。
また,国家公務員を対象としたものですが,「人事院規則10-10」(平成10年11月13日,セクシュアル・ハラスメントの防止等,以下「規則」といいます。)第2条第1号にてセクシュアル・ハラスメントとは「他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動」とされており,これは民間でも参考にされております。
上記の指針における「職場におけるセクシュアルハラスメント」は,職場において行われる性的な言動に対する従業員の対応により当該従業員がその労働条件につき不利益を受けるものである「対価型セクシュアルハラスメント(以下「対価型」といいます。)」と当該性的な言動により労働者の就業環境が害される「環境型セクシュアルハラスメント(以下「環境型」といいます。)」の2種類に分けられます。
対価型とは,従業員の意に反する性的な言動に対する対応(拒否や抵抗)により,その従業員が解雇,降格,減給など(雇用契約の更新拒否,昇進・昇格の対象からの除外,客観的に見て不利益な配置転換など)の不利益を受ける場合をいいます。
具体的には以下のようなものが挙げられます。
環境型とは,従業員の意に反する性的な言動により従業員の就業環境が不快なものとなったため,能力の発揮に悪影響が生じるなど,その従業員が就業する上で看過できない程度の支障が生じる場合をいいます。
具体的に以下のようなものが挙げられます。
規則の別紙1(セクシュアル・ハラスメントをなくすために職員が認識すべき事項についての指針)では,セクハラになり得る言動が以下のとおり具体的に列挙されています。
①スリーサイズを聞くなど身体的特徴を話題にすること
②聞くに耐えない卑猥な冗談を交わすこと
③体調が悪そうな女性に「今日は生理日か」,「もう更年期か」などと言うこと
④性的な経験や性生活について質問すること
⑤性的な噂を立てたり,性的なからかいの対象とすること
①「男のくせに根性がない」,「女には仕事を任せられない」,「女性は職場の花でありさえすればいい」などと発言すること
②「男の子、女の子」,「僕、坊や、お嬢さん」,「おじさん、おばさん」などと人格を認めないような呼び方をすること
③性的指向や性自認をからかいやいじめの対象としたり,性的指向や性自認を本人の承諾なしに第三者に漏らしたりすること。
①ヌードポスター等を職場に貼ること
②雑誌等の卑猥な写真・記事等をわざと見せたり,読んだりすること
③身体を執拗に眺め回すこと
④食事やデートにしつこく誘うこと
⑤性的な内容の電話をかけたり,性的な内容の手紙・Eメールを送ること
⑥身体に不必要に接触すること
⑦浴室や更衣室等をのぞき見すること
女性であるというだけで職場でお茶くみ,掃除,私用等を強要すること
性的な関係を強要すること
①カラオケでのデュエットを強要すること
②酒席で,上司の側に座席を指定したり,お酌やチークダンス等を強要すること
指針では,お茶くみといった性別の役割分担意識に基づく言動はセクハラそのものとはされていませんでしたが,規則では,そのような性別の役割分担意識に基づく言動もセクハラになり得るものとされているという違いがあり,規則の方がセクハラに該当する範囲が広範囲にとらえております。
セクハラ行為が会社の業務遂行の中で行われた場合には,
①会社に対する損害賠償請求
②都道府県労働局による是正の行政指導,企業名の公表
がなされる可能性があります。
①会社に対する損害賠償請求の根拠としては,使用者責任(民法第715条)と債務不履行責任(労働環境調整義務の不履行:民法第415条,労働契約法第5条(安全配慮義務不履行))の2つです。使用者責任については,「事業の執行について」との要件があります。セクハラは,職務との関連性が薄い飲み会のような場所で行われることも多いですが,当事者が上司と部下の関係にあるような場合は,職場を離れていても,上司としての地位を利用して行ったものと評価され,企業の使用者責任が肯定される可能性は高いと考えられます。
セクハラが発生した場合の基本的な対応策は,指針において,①事実関係を迅速・正確に把握すること,②セクハラ行為者と被害者に適切に措置すること,③再発防止措置を講じることが義務付けられております。
②の措置に関しては,①にて職場におけるセクハラが生じた事実が確認できた場合に,セクハラ行為者に対して就業規則等の定めに基づき,必要な懲戒処分その他の措置を講じること,事案の内容や状況に応じ,行為者と被害者の関係改善に向けての援助,行為者と被害者を引き離すための配置転換,行為者の謝罪,被害者の労働要件上の不利益の回復等の措置を講じる必要があるとされております。
本稿では,紙幅の関係でセクハラに該当する行為として具体的にどのような行為が挙げられるのか,セクハラ行為が発覚した場合の企業におけるリスク及び基本的な対応策について簡単にご紹介いたしました。
もっとも,セクハラに伴うリスクを回避するための措置で最も重要なことは,事前に企業のセクハラに対する方針等を明示し,従業員に対しても周知や研修の実施,相談窓口の設置をするなどの事前対策となります。
前述のとおり,セクハラ行為が実際に発覚し,被害者から行為者及び企業に対する損害賠償請求等の法的闘争にまで発展した場合,セクハラ該当性や企業の安全配慮義務違反の有無など,見通しが不透明となることもありえますので,事態を未然に防ぐ,事態が生じた場合に最小限の被害にとどめることを意識することが重要となります。
当事務所では,日々クライアントの企業様からセクハラ等の従業員トラブルのご相談をお受けし,発生後の対応策をご案内するだけでなく事前の防止措置についても適宜アドバイスをさせていただいております。
実際に問題が起こっている企業様も,今度どのような防止措置を講じようかと検討されている企業様も,お気軽にご相談ください。
執筆者:新留 治
弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。2016年に弁護士登録以降、個人案件から上場企業間のM&A、法人破産等の法人案件まで幅広い案件に携わっている。特に、人事労務分野において、突発的な残業代請求、不当解雇によるバックペイ請求、労基署調査などの対応はもちろん、問題従業員対応、社内規程整備といった日常的な相談対応により、いかに紛争を事前に予防することに注力し、クライアントファーストのリーガルサービスの提供を行っている。