【問題社員対応】私生活上の非行に対する懲戒処分の問題点について弁護士が解説

1 私生活上の非行について懲戒処分をすることの問題点とは?

 会社は、企業秩序や職場規律を維持するために、これらを乱した従業員を就業規則に基づいて懲戒処分することができます。しかし、従業員は、会社との間で雇用契約を締結したとはいえ、私生活についてまで会社の一般的な支配に服するわけではありませんので、私生活上の非行、つまり職場外での非行については、本来、会社が懲戒処分をもって取り締まることのできる領域ではありません。もっとも、従業員は、信義則上、会社の利益や名誉・信用を毀損しない義務(誠実義務)も負っていますので、私生活上の非行が会社の利益や名誉・信用を現実に侵害し、またはその具体的危険がある場合や、私生活上の非行によって企業秩序や職場規律に支障を与えている場合には、懲戒処分の対象とすることが可能です。

2 私生活上の非行か否かの判断の基準とは?

 非行の中には、会社「外」の非行と会社「内」の非行かのいずれの区分にすべきかの判断が難しい場面もあります。このような場合、非行の具体的な態様等をもとに判断せざるを得ません。
 具体的な判断要素の一例としては以下のようなものが考えられます。
 ① 就業時間中の行為か
 ② 企業施設内の行為か
 ③ 従業員間の行為か
 ④ 取引先ないし顧客に対する行為か
 ⑤ 取引先の事務所、顧客の自宅等での行為か
 ⑥ 会社の管理下にある「社宅」での行為か
 ⑦ 出張中に会社が費用を負担するホテルの室内での行為か
 ⑧ (飲酒事故のような場合は)車両が会社所有か
 最終的には、上記各要素を考慮したうえで総合的に判断することになります。
 会社「内」の非行であれば、原則として懲戒処分の対象となりますが、会社「外」の非行であれば原則として懲戒処分の対象とはならず、会社の社会的評価を毀損する等の限られた場合にのみ懲戒処分の対象となります。

3 私生活上の非行が懲戒処分の対象となる場合とは?

⑴ はじめに

 判例において、私生活上の非行について懲戒処分の対象となる場合としては、「従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。」と判示されています。すなわち、
 ① 当該行為の性質、情状
 ② 会社の事業の種類・態様・規模
 ③ 会社の経済界に占める地位
 ④ 経営方針
 ⑤ 当該従業員の会社における地位・職種
等の諸事情を総合的に判断して懲戒処分の可否を検討していくことが適切であるといえます。
 以下、具体的な私生活上の非行について懲戒処分の可否について検討をしていきます。

⑵ 休日に職場外で他人に暴行を加えて逮捕された場合

 従業員が休日に職場外で粗暴行為に及び、傷害罪や暴行罪で逮捕された場合には、傷害・暴行の態様、傷害の有無・程度、犯行の経緯・動機、報道の有無等がポイントになると考えられます。例えば、傷害の程度が軽く、犯行の経緯や動機に酌量すべき点があり、報道もされておらず、示談も行って十分に反省しているといえるような場合には、懲戒処分の対象とすべきかを慎重に検討する必要があります。他方で、傷害の態様が悪質で、傷害の程度も重く、犯行の経緯や動機に酌量の余地がなく、新聞やテレビ等で会社名とともに報道されたような場合には、会社の名誉・信用を大きく毀損したとして、懲戒解雇も視野に入れて、懲戒処分の程度を検討することが考えられます。
 なお、公務員の懲戒処分の指針とされる人事院の懲戒処分の指針によると、私生活上の非行に対する懲戒処分について、以下のような基準が示されています。
 放火…免職  殺人…免職  傷害…停職又は減給
 暴行・けんか…減給又は戒告  器物損壊…減給又は戒告
 必ずしも上記指針に従う必要はなく、事案次第で上記処分よりも重い又は軽い処分に付すことが相当な場合もあり得ますが、一つの参考となり得るものと考えます。

⑶ 従業員の給与が差し押さえられた場合

 従業員が、例えばサラ金などに多重の債務を抱えているような場合には、裁判所から会社に債権差押命令に関する書類が送達され、従業員の給与の差押え手続きに対処しなければならなくなったりするなどの事態が考えられます。この場合、会社としては、給与の差押えにまで至るというのは、自己の金銭の管理能力が欠如していることの現れであるなどとして、懲戒処分や解雇を検討されることもあるかもしれません。
 しかしながら、一般的には、単に給与を差押えられたという事情のみで懲戒処分や解雇とすることは困難と考えます。多重債務を抱えているというのは、あくまでもプライベートな問題であって、単にそのことだけでは企業秩序を乱したり、業務遂行を妨げたりするものではありません。また、会社に取立ての電話がかかってきた場合には、他の従業員等がその電話対応を余儀なくされるという面では、業務への影響がない訳ではありませんが、それは、取立て行為をする金融業者にこそ問題があるのであって、会社に取立ての電話があったことをもって、その責任を当該従業員に負わせることはできません。貸金業法上も基本的に勤務先への連絡、訪問に関して一定の制限がなされておりますので、会社としては、かかる取立て行為に及ぶような悪質な業者に対して、抗議をすることも検討すべきです。また、従業員の給与が差し押さえられた場合には、会社において、当該差押え手続に対応する必要があるという面では、業務への影響がないとはいえませんが、これも結局は私生活上の問題の延長に過ぎず、かかる事情のみで懲戒処分や解雇を行うことは基本的に困難です。

⑷ 従業員が業務時間外にSNSに不適切な投稿を行った場合

 従業員が業務時間外にSNSを投稿することは私的な行為ではありますが、その内容次第では懲戒処分の対象となり得る場合があり得ます。
 懲戒処分の対象となり得る場合の一つ目は、会社の企業秘密を漏えいした場合です。企業秘密の漏洩は、会社の競争力を低下させ、会社の信用にも関わることから、従業員が守秘義務に違反して企業秘密を漏洩し、会社に損害を生じさせた場合には、懲戒の対象となります。懲戒処分の内容については、漏洩された企業秘密の重要性、開示の目的、漏洩による会社の損害の有無・程度、会社運営への影響等を総合的に考慮し、会社にとって重要な情報で、かつ背信性が高いと認められる場合には、懲戒解雇も視野に入ると考えられます。
 二つ目は、会社の誹謗・中傷をした場合です。従業員は、雇用契約に付随する義務として誠実義務を負っていますので、投稿内容が会社に対する否定的内容であって、これによって会社の社会的評価が害される場合には、名誉若しくは信用を毀損する行為として懲戒処分の対象となり得ます。懲戒処分の内容については、投稿内容の真実性若しくは真実と信じてもやむを得ないという事情の有無、投稿の目的、手段・態様の相当性、投稿によって害された会社の社会的信用・評価の程度などを考慮することになりますが、一般的に企業秘密の漏洩の場合に比べると損害の程度は低くなりがちであり、懲戒解雇とすることは難しいケースが多いのではないかと考えられます。
 三つ目は、上記以外で会社の社会的評価を毀損するような内容の投稿です。例えば、飲食店の従業員が業務用冷蔵庫内に入った様子の写真を投稿したようなケースがこれにあてはまります。また、従業員が私生活上の違法行為をSNSに投稿したところ、身元が特定されて、勤務先である会社が非難の対象となることも考えられます。こちらの場合は、投稿内容及び投稿したことによる世間に与えた影響の大きさなどから会社の受ける社会的評価の毀損の程度に応じて、その都度懲戒処分の程度を検討せざるを得ないと考えます。

4 当事務所でできること

 本稿では、従業員の私生活上の非行に対する懲戒処分の可否及びその判断基準等についてご紹介しました。従業員による非行については、ただちに懲戒処分に付すと考えておられる経営者、会社担当者の方も多くおられるかもしれませんが、懲戒処分を検討する前に客観的にみて会社にどのような損害、影響が発生しているか、という視点を持つことが重要です。
 当事務所では、日常的に会社の方から問題のある従業員に対するご相談をお受けするとともに、かかる従業員が生まれることをどのように防止していくかについてのご相談も随時受けておりますので、お気軽にご相談ください。

新留治 弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士執筆者:新留 治

弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。2016年に弁護士登録以降、個人案件から上場企業間のM&A、法人破産等の法人案件まで幅広い案件に携わっている。特に、人事労務分野において、突発的な残業代請求、不当解雇によるバックペイ請求、労基署調査などの対応はもちろん、問題従業員対応、社内規程整備といった日常的な相談対応により、いかに紛争を事前に予防することに注力し、クライアントファーストのリーガルサービスの提供を行っている。

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