Contents
・部下への指導にかこつけて,殴りつけたり,足で蹴りつけたり,物を投げつける。
・他の従業員の前で,必要以上に大声で威圧的な叱責を繰り返し行う。
・人格を否定するような発言や相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な発言をする。
・他の従業員の前やメールの一斉送信などで相手の能力を否定し,罵倒するような内容の発言をする。
・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う。
・特定の従業員を無視し,職場で孤立させる。
・自らの意に沿わない従業員に対して,仕事から外し,長期間にわたり,別室に隔離したり,自宅研修をさせる。
・長期間にわたり,肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で直接業務に関係のない作業に従事させる。
・新規採用者に対して必要な教育を行わないまま到底達成できないレベルのノルマを課し,達成できなかったことに対して厳しく叱責する。
・業務とは関係のない私的な雑用を強制的に行わせる。
・退職に追い込むことを目的として,管理職に対して誰でも遂行可能な簡単な業務を行わせる。
・特定の従業員を気に入らないという理由だけで本来の業務に従事させない。
・特定の従業員を職場外でも継続的に監視する。
・従業員の性的指向・性自認,病歴,不妊治療等の個人情報について,当該従業員の了解を得ずに暴露する。
これまでパワハラについては,明確な法令上の定義は定められておりませんでしたが,令和2年6月1日施行の「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法,いわゆる「パワハラ防止法」)」において定義が定められました。すなわち,パワハラとは
「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」
を指します(第30条の2第1項)。
これを各要素に分解すると,パワハラとは
⑴ 優越的な関係を背景とした言動であること
⑵ 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
⑶ 労働者(従業員)の就業環境が害されるもの
であり,⑴から⑶の全ての要素を満たすものが該当します。
パワハラ防止法では,パワハラの定義が定められるだけでなく,会社側が雇用管理上講ずべき措置として以下の事項を講じる義務があります。
⑴ 会社の方針等の明確化及びその周知・啓発
⑵ 相談に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備
⑶ 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
⑷ そのほか併せて講ずべき措置(プライバシーへの配慮等)
上記法的義務は,これまで中小企業以外の大企業にだけ適用されることとなっておりましたが,令和4年4月1日以降は,中小企業においても適用されることとなりますので,全ての会社で対策が必要となります。
社内でパワハラの存在又はその疑いを発見した場合に対応を誤ると,被害者とされる従業員と加害者とされる従業員の双方から会社に対して法的手続きを取られるリスクがあります。具体的には,会社は従業員に対して雇用契約上の安全配慮義務・職場環境配慮義務を負うとされており,パワハラ行為が発生し,これにより被害者従業員に損害が発生した場合,会社が当該義務違反を理由として損害賠償責任を負うリスクがあります。また,加害者従業員に対して,パワハラ行為の有無や程度などのヒアリングをすることなく,被害者従業員の話のみを鵜呑みにして軽々に懲戒解雇や減給等の懲戒処分に付した場合,後に処分の無効及びこれに伴う賃金請求を受けるリスクがあります。
また,労働基準監督署(労基署)による調査を受けたり,当該事実が外部に発覚することでレピュテーションリスク(企業イメージのダウン)を引き起こす可能性もあります。
さらに,パワハラに起因して,社内の雰囲気の悪化,人材流出,業務効率の低下といったリスクもありえます。
会社がパワハラの存在又はその疑いのある事実を発見した場合,まずは迅速に当事者・関係者からのヒアリングの実施をする必要があります。そして,被害拡大防止のために,必要に応じて,被害者従業員・加害者従業員の距離を離す措置(配置転換,調査期間中の自宅待機(賃金は支給))を講じることが考えられます。
ヒアリングにあたっては,被害者・加害者・目撃者双方の述べる事実関係を時系列毎に整理しながら,供述内容が一致している事実や客観的な証拠がある事実を中心に,事案解明を淡々と進めることが重要です。被害者側の供述はもちろん重要ですが,そちらに引っ張られ過ぎると,加害者側に不当に重い処分を課すということに繋がりかねませんので注意が必要です。
パワハラ防止法上,事業者が講ずべき措置として義務付けられているもののうち,会社におけるパワハラに対する方針の策定・周知,相談窓口の設置及び相談窓口担当者による適切な対応の実現,内部処理体制の構築を図ることが重要です。
特に,相談窓口については,単に連絡先を周知するにとどまらず,窓口となる担当者による対応にまで気を配る必要があります。窓口担当者が被害者従業員に対して,非難するような言動に及んだり,懐疑的な態度を取ったり,逆に過度に被害者に肩入れをするなどして対応を誤ると,被害者従業員が二次被害を受けるというリスクや事案解明が遠のくというリスクがあります。
そのため,窓口担当者には,特に中立的な立場から事実関係のヒアリングをするという姿勢を徹底させ,聴取した内容が適宜対応部署に伝達され,迅速かつ適切に内部処理を図ることができるような体制を構築することが必要です。
パワハラ問題は,その該当性判断もさることながら,被害者側の思いの強さゆえに,その対応に窮する場面が多くあります。会社としては,日頃からパワハラ行為が行われた場合の対応・指針の明確化と周知・啓発,相談窓口の設置と対応などの予防措置をとりながら,問題の発生後に即座に対応するための体制づくりが重要となります。
もっとも,実際にパワハラが発生した場合の対応や,事前に構築すべき体制を一から作り上げることにリソースを割くことも困難な場合が多いと思います。
当事務所では,日々クライアントの企業様からパワハラ等の従業員トラブルのご相談をお受けし,紛争を極力回避することを重視して,迅速かつ具体的な助言を差し上げることを心がけております。
また,当事務所では,パワハラ問題が顕在化する前の事前の方針策定や体制構築にも注力しており,各企業様の状況に応じて,ご相談を受け付けております。
以上のとおり,パワハラにまつわる問題は非常に多岐に渡り,一つ対応を誤ると損害賠償や業務効率の低下等のリスクが顕在化するなど深刻な事態を招きかねません。
すでにパワハラの問題が顕在化している企業様も,これからパワハラ対策を講じることを検討されている企業様も,まずはお気軽に当事務所までご相談ください。
執筆者:新留 治
弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。2016年に弁護士登録以降、個人案件から上場企業間のM&A、法人破産等の法人案件まで幅広い案件に携わっている。特に、人事労務分野において、突発的な残業代請求、不当解雇によるバックペイ請求、労基署調査などの対応はもちろん、問題従業員対応、社内規程整備といった日常的な相談対応により、いかに紛争を事前に予防することに注力し、クライアントファーストのリーガルサービスの提供を行っている。