【問題社員対応】会社から貸与されたパソコンを私的に利用することの問題点について弁護士が解説

1 会社から貸与されたパソコンの私的利用の問題点とは?

 このような問題社員にお困りではないでしょうか。
 就業時間中あるいは休憩時間中に会社から貸与された社用パソコンを利用して、私的なメールの送受信、ゲーム、業務に無関係なインターネットサイト・動画の閲覧などを行っている。休憩時間中に上記行為を行っている際に注意をすると「休憩時間に何をするかは社員の自由なはずなのに制限をしてよいのですか」と言われてしまった。

 会社が貸与した社用パソコンは、当然会社の所有物ですし、メールの送受信やインターネットサイト・動画の閲覧を行う際に利用する社内のネット環境も当然会社が費用負担を行っているものです。そのため無制限に私的利用することはできないということは容易に想像できるものの、具体的にどのような場合であれば私的利用を制限できるのか、特に上記のように休憩時間中の利用についても制限できるかが問題となります。また、私的利用を制限できるとして、当該私的利用を行った社員に対する処遇をどうすべきかという問題もあります。
 本稿では社用パソコンの私的利用について、問題となる場面ごとに会社としてどのように対応をすべきかについてご紹介します。

2 就業時間中に業務と無関係に社用パソコンを利用している場合にこれを制限できるか?

 社員は、雇用契約に基づいて誠実に労働すべき義務を負います。つまり、労働義務を負う就業時間中は、会社の指示に従い、誠実に業務を遂行することに専念する義務(職務専念義務)を負います。
 したがいまして、就業時間中に命じられた業務と関係のない私的なメールを送受信したり、インターネットサイト・動画を閲覧したり、ゲームをして遊んだりすることは当該職務専念義務に違反するものであり、当然制限されます。

3 休憩時間中に業務と無関係に社用パソコンを利用している場合にこれを制限できるか?

 労働基準法第34条第3項では、「使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。」として、休憩時間を自由に利用できることを明確に定めております。この条文の文言からすると冒頭の社員の言い分も一見すると認められるようにも見えます。
 しかしながら、上記労働基準法第34条第3項の規定は、休憩時間中の労働義務から完全に解放されることを意味するに過ぎず、社員が休憩時間中に施設管理権や職場秩序維持義務等の制約から免れるものではありません。
 前述のとおり、社用パソコンには会社の施設管理権が及んでいますから、たとえ休憩時間中であっても、会社がパソコンの私的利用を認めない限り(認めるか否かは施設管理権を有する会社にて決定することになります)、社員が社用パソコンを業務以外の用途に使用してはならないことになります。
 したがって、冒頭の社員の言い分は認められず、たとえ休憩時間中であっても、社用パソコンでの私的メールの送受信、業務に無関係なインターネットサイト・動画の閲覧、ゲームなどを行うことは制限されます。

4 社用パソコンの利用実態を調査するために社用パソコンを無断でチェックすることは可能か?

 社用パソコンの私的利用に関する情報は、「私的」な情報であり、いわゆるプライバシー権が及びます。もっとも、前述のとおり、社用パソコンやインターネット環境などは会社が貸与・費用負担を行っているもので、施設管理権が及びますし、あくまでも業務の必要上貸与されているものに過ぎませんので、社用パソコン内の情報は完全に私的なものであるとまではいえません。また、社用パソコンを用いて行われた通信内容は社内ネットワークシステムのサーバーコンピューターや端末内に保存されるのが通常です。
 そのため、裁判例(東京地判平成13年12月3日労判826号76頁(F社Z事業部(電子メール)事件))においても「従業員が社内ネットワークシステムを用いて電子メールを私的に使用する場合に期待しうるプライバシーの保護の範囲は、通常の電話送致の場合よりも相当程度低減されることは甘受すべき」とされております。また、当該裁判例は、続けて「監視の目的、手段及びその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益とを比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となる」と判示し、結論として、会社が私的メールの閲覧をすることができるとしつつも、私的メールについてプライバシー権を認め、社会通念上相当な範囲を逸脱した場合には、社内メールの閲覧はプライバシー権を侵害するものとして違法になることを明らかにしました。
 したがいまして、会社は、無制限に社員の社用パソコン内のデータをチェックして、私的利用の頻度、私的利用の期間、私的利用の態様を確認することができる訳ではありませんが、特定の不正を調査するために、権限のある者が行う場合には、社会通念上相当な範囲を逸脱するものではなく行うことが可能と考えます。

5 社用パソコンを私的に利用している社員への具体的な対応とは?

 会社がとるべき対応としては、まず、前記4で調査した内容などをもとに、私的利用の頻度、私的利用の期間、私的利用の態様を整理し、まずは本人と面談して事実確認を行うことです。この事実確認の場においては、会社が調査した日時・内容で自らが利用したことに誤りがないか(別の社員が勝手にログィンして行ったものだ、という弁明もあり得ますので「自らが」という点の確認もきちんと行う必要があります。)、どのような理由(目的)でこのような行為を行ったか、を確認します。
 そして、具体的な事実関係が確定した段階で、私的利用がなぜいけないのか、会社の私的利用についてどのような態度(規程等)をとっているか、という点を説諭して、注意・指導を行うことになります。なお、注意・指導を行ったこと及び注意・指導の内容については後日紛争となった場合の重要な証拠となりますので、書面・録音などの客観的な資料として残しておく必要があります。
 上記のような注意・指導を行っているにもかかわらず改まらない場合には、就業規則に基づく懲戒処分として譴責処分などを検討することにはなりますが、社用パソコンを用いて私的なメールを送受信したり、ニュースをチェック等する社員が相応にいるはずですので、一般論として、職務の妨げになる程度が大きくなく、会社の経済的負担が軽微であるということから、重い処分を下すことに対して慎重に検討をする必要があります。

6 当事務所でできること

 本稿では、社用パソコンの私的利用の制限の可否とこれに対する会社が取るべき対応等についてご紹介しました。問題が起きてから対応することも重要ではありますが、むしろ、あらかじめ社用パソコンでの私的利用を制限するなど社用パソコンの利用に関するルールを定めておくことで、私的利用の頻度を下げることができ、ひいては業務効率の向上にも繋がります。
 当事務所では、日常的に会社の方から問題社員に対するご相談をお受けするとともに、かかる問題社員が生まれることをどのように防止していくかについてのご相談も随時受けておりますので、お気軽にご相談ください。

新留治 弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士執筆者:新留 治

弁護士法人フォーカスクライド アソシエイト弁護士。2016年に弁護士登録以降、個人案件から上場企業間のM&A、法人破産等の法人案件まで幅広い案件に携わっている。特に、人事労務分野において、突発的な残業代請求、不当解雇によるバックペイ請求、労基署調査などの対応はもちろん、問題従業員対応、社内規程整備といった日常的な相談対応により、いかに紛争を事前に予防することに注力し、クライアントファーストのリーガルサービスの提供を行っている。

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