証券市場について(総論)

Column for Executive

1.証券市場

これまでのコラムで「IPO」とは何か、IPOするメリットとは何かについて説明してきましたが、そもそもIPOが可能な証券市場にはどのようなものがあるのでしょうか。

証券市場とは、有価証券の発行や売買が行われる流通市場を指すものですが、その分類方法は様々です。
各証券市場は特徴やIPOするための要件等が異なっていますので、IPOを目指す場合には、各市場の特徴を十分に理解したうえで、自社がどの市場へIPOするかを選択する必要があります。
そこで、本稿では、IPOを目指すにあたり必要な知識となる、IPOが可能な証券市場の分類・種類について説明いたします。

なお、近々予定されている東京証券取引所の再編については、次回のコラムで詳細に取り上げることとし、本稿で説明する日本の証券市場は、あくまで本稿執筆時(2021年6月現在)の市場を対象とします。市場再編について知りたい方は、次回のコラムをご覧ください。

2.日本の証券市場

(1)証券取引所の種類

日本国内では、以下の4つの証券取引所(※)(証券市場を開設する取引所)でIPOすることができます。

■東京証券取引所
■名古屋証券取引所
■札幌証券取引所
■福岡証券取引所

※ 金融商品取引法上は、正確には「金融商品取引所」ですが、一般的な呼称に従って、本コラムでは証券取引所といいます。

(2)市場の区分

現在、各証券取引所には、本則市場と称される市場と、新興市場と称される市場が存在しています。
本則市場は、東京証券取引所及び名古屋証券取引所に、それぞれ市場第一部、市場第二部があり、札幌証券取引所及び福岡証券取引所には本則市場がそれぞれ1つ存在します。

新興市場は、文字通り高い成長性を有する新興企業のための市場であり、各証券取引所の新興市場の名称は以下のとおりです。

■東京証券取引所
・マザーズ
・JASDAQ スタンダード
・JASDAQ グロース

■名古屋証券取引所
・セントレックス

■札幌証券取引所
・アンビシャス

■福岡証券取引所
・Q-Board

また、上記のほかに、投資家をプロ投資家に限定し、柔軟な上場制度が用意されている「TOKYO PRO Market」が存在します。

(3)市場の特色

ここでは、各市場の特徴を簡単に説明するにとどめ、国内市場の中でどの市場を選択すべきかについては、次回コラムで市場再編の内容と併せて説明します。

■本則市場
本則市場は、大企業・中堅企業が上場することが予定されている中心的な株式市場です。特に、東京証券取引所の市場第一部は、株式売買の多くを海外投資家が占める国際的な市場として、世界でも有数の市場です。
※ただ、近年ではその質に疑問が呈され、市場再編の動きに繋がっています。

市場第一部と市場第二部の違いは、主に流通株式数や売買高等の違いですが、市場第一部は一般的にはIPOした会社の終着点となるため、信用力も最も高いです。

本則市場は、一定規模以上の既に成長している企業が上場対象となるため、上場審査に当たっては、形式的に求められる時価総額や収益基盤も高い水準が求められます。また、上場申請書類の作成量や上場後に提供が必要となる開示書類も多く、事務的負担も大きくなります。

■新興市場
新興市場は、成長性の高い企業が比較的早い段階から上場して資金調達等ができるよう設計されているため、本則市場と比較すると、上場基準が緩和されており、審査の期間も本則市場と比較すれば短期間で済むようになっています。
しかし、近年では上場企業数が増加し、東京証券取引所における市場再編も行われることから、新興市場であるからといって、必ずしも緩やかな審査が行われるというわけではないことには注意が必要です。
なお、新興市場の中でも、現在のマザーズは東京証券取引所の市場第一部へのステップという意味合いが強いのに対し、セントレックス、アンビシャス、Q-Boardなど東京証券取引所以外の新興市場は、地元周辺企業の育成という観点でのファーストステップという意味合いが強いという特色があります。

■TOKYO PRO Market
TOKYO PRO Marketは、既に述べたとおり、投資家をプロ投資家に限定した市場です。
その分、一般投資家を対象にする本則市場や新興市場と比較して、審査基準が大幅に緩和されています。
また、審査期間も本則市場や新興市場と比較するとかなりの短期間で済むという大きなメリットがあります。

3.海外の市場

証券取引所は国内のみでなく海外にも存在しますので、IPOを目指す企業には海外市場にIPOするという選択肢もあり、近年は日本企業が海外市場を選択してIPOするというケースも増加しつつあります。

ただし、海外市場のすべてが日本企業含む当該国外の企業に開放されているわけではありません。

日本企業がIPO可能な市場の例としては、以下の市場などが挙げられます。

■香港証券取引所(HKEX)
■シンガポール証券取引所(SGX)
■NASDAQ
■台湾証券取引所(TWSE)

海外市場にIPOするメリットは、基本的には国内市場にIPOする場合のメリットと類似していますが、大きく違うのは当該国の投資家から資金調達ができるという点と、海外における知名度向上に結びつくという点です。
なお、海外市場へのIPOには当該国の言語での申請書類・上場後の開示書類の準備が必要になるなど、国内市場へのIPOよりも事務的負担が大きくなるというデメリットもあります。
そのため、海外市場にIPOするか否かを検討するにあたっては、海外市場にIPOすることにより生じるデメリットを踏まえても、十分なメリットを得ることができるかを慎重に判断することが特に重要です。

4.さいごに

以上のとおり、証券市場には様々な種類があります。

IPOを目指す企業とひとくちに言っても、実際にはその規模、社歴、IPOの目的等が異なり、それらの要因に応じて目指すべき証券市場は当然異なってきます。

次回は、今回説明した証券市場の区分の基本を踏まえ、東京証券取引所の市場再編に触れたうえで、IPOする市場を選択する際のポイントについて解説します。

櫻井 康憲 弁護士法人フォーカスクライド パートナー弁護士執筆者:櫻井 康憲

弁護士法人フォーカスクライド パートナー弁護士。
2016年に弁護士登録以降、上場直前期の企業のサポートに注力し、複数の企業の上場案件に関与した実績を有する。早期から弁護士との適切なコミュニケーションを行うことを通じて、必要最小限のコストで最大限の効果を発揮する予防法務の提供を実現するため、現在はスタートアップや上場準備会社を中心にコストを抑えてスタートできる顧問サービスの提供を行っている。

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