経営者が知っておくべきIPOのスケジュール

IPO schedule

1.はじめに

前回までは、IPOを目指す理由や東京証券取引所の再編を含めて日本の証券市場についてご説明させていただきました。
今回は、前回までのコラムを踏まえてIPOにご興味を持たれた方向けに、IPOのスケジュールの概要についてご説明します。
IPOを本格的にお考えになる前には、具体的なスケジュールや各時期で行うべきことについて事前に知っておくのが非常に重要となります。本稿では、各時期においてなすべき事項についても簡単にはなりますがご紹介させていただきますので、是非ご一読ください。

2.全体スケジュール

ここでは、まず一般的なIPOの全体スケジュールについてご説明します。
全体のスケジュールは、大きく以下の時期に区分されて考えられています。

① IPOを行う期(※)(「申請期」あるいは「N期」、「X期」などといいます)
※ ここでいう「期」とは会社の決算期を意味しています。
② 申請期の前期(「直前期」あるいは「N-1期」、「X-1期」などといいます)
③ 申請期の2期前(「直前々期」あるいは「N-2期」、「X-2期」などといいます)
④ 申請期の3期前以前(「N-○期」、「X-○期」などといいます)

なお、上場申請にあたっては、原則として直前期と直前々期の2期分の監査法人等による監査証明が必要となるため、通常最短でも準備期間として当該2期+申請期+N-3期以前の準備期間が必要となります。

一般的にはN-3期以前が上場を目指す意思決定の時期、直前々期 及び直前期が上場準備の時期、申請期が上場の時期となります。
以下では、それぞれの時期において具体的にしなければならないことを整理してご説明します。

3.N-3期以前(上場を目指す意思決定の時期)

(1) 上場企業と自社とのギャップの認識

上場を目指す目的等を整理して、上場を目指すことを概ね決定した場合、具体的な取り組みのスタートとしては、上場企業と自社の現状とのギャップを洗い出す作業が必要となります。
一般的には監査法人を選定し、その監査法人から短期調査(ショートレビュー)を受けることが多いですが、分野ごとに弁護士、税理士、社労士等からの社内DDを受けるケースもあります。

短期調査の一般的な項目は以下のとおりです。

① 事業に関する事項(事業内容、方針、特徴、競争環境、経営課題等)
② 利益管理制度の状況(事業計画、年度予算、月次予算、部門別損益管理等)
③ 会計に関する事項(会計方針、原価計算、決算書作成状況等)
④ 業務管理制度の整備状況(販売管理、購買管理、在庫管理、労務管理等)
⑤ 経営管理制度の整備状況(コ ーポレー ト・ガバナンス、組織、規定等)
⑥ 関係会社・特別利害関係者に関する事項
⑦ 内部統制報告制度(J-SOX)への対応状況
⑧ その他(上場スケジュール、IFRSへの対応状況等)

IPOを検討している会社は、このような短期調査や社内DDの報告書を踏まえて、自社と上場企業とのギャップを認識し、最終的に上場を目指すか否かを決定することとなります。

(2) 社内プロジェクトチームの組成

上場を目指すことを決定した場合、社内にIPOのプロジェクトチームないし担当者を設置するのが一般的です。
上場にあたっては多くの準備が必要となり、これは審査書類の作成にとどまらず、業務管理制度の構築や、事業計画の見直し、資本政策の策定、関連当事者等との取引の解消等、全社的な改善等が必要となります。
また、上場準備に関わる多くのプレーヤー、具体的には主幹事証券会社、監査法人、印刷会社、株式事務代行機関、IPOコンサル会社、顧問弁護士等とのやり取りが分散しないよう、窓口が必要になります。
プロジェクトチームは、上場準備を全社一丸となって取り組むために必要不可欠な存在ですし、上場準備に関わるプレーヤーとの窓口としても重要な役割を果たします。

4.直前期、直前々期(上場準備期間)

ショートレビューや社内DDで浮き彫りになった課題を整備し、運用していくための期間です。
上場前の体制は、基本的に1年程度の運用実績が求められますので、直前々期までに整備を行い、直前期に運用を行うというのが理想的な流れです。
この整備や運用が遅れたことを理由に、申請期が後ろにずれることは非常に多いです。また、この段階で新たな問題が生じた場合には、即座に解決し対策を講じなければ、それを理由に上場申請時期が2~3年遅れる、最悪の場合上場申請が非現実的な状態となってしまうことすらもあり得ます。
そのため、整備・運用に漏れが生じないよう、プロジェクトチームを中心として、社内全体が一体となって問題解決に取り組むこと、主幹事証券会社、監査法人のほか、外部専門家も利用しつつ、課題を確実かつ早期に解決していく体制を整えることが非常に重要です。

また、直前々期頃から上場申請書類のドラフトを開始し、主幹事証券会社、監査法人、顧問弁護士等からのレビューを受けていく必要があります。

5.申請期

(1) 定款の変更

非上場会社から上場会社になるにあたり、上場会社であること自体や証券取引所の規則上、定款の一部を変更する必要が生じます。
主たる項目は以下のとおりです。

① 株式の譲渡制限の撤廃
② 株主名簿管理人の設置
③ 公告方法の変更(電子公告に変更するのが一般的です)
④ 会計監査人、監査役会の設置
(多くの会社は申請よりも前の段階で設置していることが多いです)
⑤ 単元株制度の採用(単元株を100株とする必要があります)

(2) 引受審査

主幹事証券会社へ上場申請書類を提出する際には、主幹事証券会社の審査部からの審査を受けることになります。
主幹事証券会社からは様々な質問が行われ、申請会社はこれに対して迅速かつ正確に書面等での回答を行う必要があり、これに対応できない場合には内部管理体制等が不十分であると判断される可能性があります。
また、月次予算の進捗状況や予実再分析についても重視して見られることとなり、予実に大きな乖離がある場合には、予算編成に問題があると判断される可能性があります。

(3) 上場審査

主幹事証券会社の審査を通過すると、証券取引所の上場審査が行われます。
詳細は割愛しますが、申請書類の審査に加え、書面質問、実地調査、監査法人からのヒアリング、社長・監査役・独立役員の面談、社長説明会等が行われます。
この審査を通過すると上場が承認されることになります。

6.おわりに

今回はIPOの大まかなスケジュールをご紹介させていただきました。
IPOをするためには数年単位での準備が必要となります。そのため、IPOをご検討されている会社においては、スケジュールを把握したうえで、先を見据えて余裕をもって準備を進めていくことが重要です。
当事務所では、上場準備についても幅広いサポートを行っていますので、お気軽にご相談ください。

櫻井 康憲 弁護士法人フォーカスクライド パートナー弁護士執筆者:櫻井 康憲

弁護士法人フォーカスクライド パートナー弁護士。
2016年に弁護士登録以降、上場直前期の企業のサポートに注力し、複数の企業の上場案件に関与した実績を有する。早期から弁護士との適切なコミュニケーションを行うことを通じて、必要最小限のコストで最大限の効果を発揮する予防法務の提供を実現するため、現在はスタートアップや上場準備会社を中心にコストを抑えてスタートできる顧問サービスの提供を行っている。

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