Contents
M&Aをしたいと思っても、
・そもそも専門家に相談すべきなのか?
・相談すべきとしても、アドバイザーを選ぶ際に注意しなければならない点はあるのか?
・アドバイザー費用がどの程度かかるの?
など、M&Aの経験がない方にとってはわからない点が多いと思います。
そこで、以下では、M&Aにおけるアドバイザー選定の必要性及び注意点を解説させていただきます。
M&Aは,不動産売買のように1つの「物」を売買するのではなく、「法人格」や「事業」という器そのものを売買する取引であり、そこには、「物」以外に、「人」「金」「取引先」「知的財産」等の経営資源が一体として含まれます。また、関与する関係者も、売買当事者のみならず、アドバイザー、外部専門家(弁護士、税理士など)、ステークホルダー(直接または間接に影響を受ける株主、債権者、取引先等)など、数多く存在します。これに伴い、当然、調査しなければならない事項や調整しなければならない権利関係は多岐にわたり、会計・税務、法務、人事、交渉術等、求められる能力も多くなります(まさにM&Aが総合格闘技と呼ばれる所以です)。
他方で、(中小M&Aの場合はとりわけ)売買当事者は、通常M&Aに不慣れな場合が多いです。
そのため、アドバイザーを雇わずにM&Aを進めると、売買当事者に以下のような弊害が生じることが多く,アドバイザーの必要性・重要性は高いといえます。
<弊害の具体例>
・アドバイザーをいずれか一方しか雇っていない場合は、交渉力のバランスが崩れ、アドバイザーを雇っていない方は圧倒的に不利な立場に追いやられる(ex.相手方に対し非常に不利な条件で最終契約を締結してしまった)。
・M&Aプロセスが効率的に進まない可能性がある。
・売買当事者双方が交渉の着地点を理解していない可能性があり、合理的な交渉とはならず、その結果どちらかにとって著しく不合理な条件で合意してしまう可能性がある(ex.取引金額が理論的に妥当な水準から大きく乖離しているにもかかわらず,その事実に気づかず当該金額で合意してしまった)。
・クロージング後に売買当事者の間でトラブルが発生するリスクが高くなる(M&Aは後戻りできない取引であるため、基本的に取引を取り消すことができず、訴訟などに至った場合は別途コストがかかることから、トータルコストでみると、アドバイザーを雇った場合よりも高くついてしまうこともある)。
次に、アドバイザーを選定するとしても、「仲介」と「FA」との違いを理解した上で選定することが重要です。
まず、「仲介」とは、売主側・買主側の「双方」と契約を締結する場合を指します。
仲介の特徴としては、売主側・買主側の双方の事業内容を把握しているため、両当事者の意思疎通が容易になり、中小M&Aの実行に向けて円滑な手続きが期待できます。他方で、仲介者は、客観的に中立な立場でM&A成立に向けて助言業務を行うため、売主・買主のどちらか一方の利益の最大化を目指すものではありません。
日本の中小M&Aは、友好的なM&Aを前提としているケースが多いため、仲介を利用することが多いといえます。
これに対し、「FA」とは、ファイナンシャル・アドバイザーの略で、売主側・買主側のいずれか一方と契約を締結する場合を指します。
FAの特徴としては、一方当事者とのみ契約を締結しますので、契約者の利益を最大化するべく、契約者の利益に充実な助言・指導等を期待することができます。他方で、対立点も明確になり、お互いの利益を主張し合うことで、交渉が纏まりにくくなるというデメリットも存在します。
一般的に、上場企業同士やクロスボーダーでのM&Aにおいて用いられることが多いといえますが、中小M&Aの活発化に伴い、仲介者とのトラブルも増加し、日本の中小M&Aにおいても「FA」が利用されることは徐々に増えてきています。
このように「仲介」と「FA」のいずれにもメリット・デメリットが存在するため、どちらが良いと一概に結論づけることはできません。両者の違いを理解した上で、個別具体的な案件ごと(譲渡額の最大化を特に重視する案件なのか、案件を迅速に纏めることが重要な案件なのか等)に適した契約形態を選択することが重要になります。
仲介会社の担当者の中には、この違いを理解することなく(もしくは理解しつつ意図的に)、売主側・買主側双方と契約を締結する「仲介」であるにもかかわらず、「貴社の利益を最大化するよう交渉します。」と伝え、契約者を誤信させ、仲介契約を獲得し、最終的には説得しやすい方を丸め込み、半ば強引にM&Aを成立させる担当者も存在します(前掲の「中小M&Aガイドライン」においても、M&Aに際して苦労した又は不満が残るM&Aになったケースが複数報告されていますが、このような担当者の不適切な説明が大きな要因であると思われるケースも含まれております)。
そもそも、M&Aにおいては、構造的に、売り手と買い手の間において利益相反の状況が存在するため(顕著に利益相反となるのが、譲渡金額の交渉の場面です。高く売れば、売主の利益となり、買主の損失になります。他方、安く売れば、売主の損失となり、買主の利益となります。)、双方と契約を締結している仲介者が、自社の利益のみを最大化するべく助言するということはあり得ないのです。
アドバイザー手数料には、着手金と成功報酬が含まれることが多いですが、いずれにも「相場」があります。
まず、①着手金とは、アドバイザーが企業概要書の作成を行い、候補先の選定業務等を行う前提として、アドバイザーに支払う手付金のような費用のことをいい、M&Aの成否に関わらず返金されない費用であることが一般的です。着手金の相場は概ね100~300万円程度と言われています。
アドバイザーの中には、成約する見込みが無いか著しく低いにもかかわらず、着手金を請求するケースが存在しますので、注意が必要です。
次に、②成功報酬とは、M&Aが成立(クロージングが完了)した際に、アドバイザーに支払う報酬です。成功報酬は、ほとんどの場合、レーマン方式と呼ばれる下記報酬体系が採用されており、取引額に一定の両立を掛けて算出されます。
記
取 引 金 額 | 利 率 |
5億円以下 | 5% |
5億円超 10億以下 | 4% |
10億円超 50億円以下 | 3% |
50億円超 100億円以下 | 2% |
100億円超 | 1% |
例えば、
・取引額が6億円の場合、
5億円×5%+(6億円-5億円)×4%=2500万円+400万円=2900万円
・取引額が12億円の場合、
5億円×5%+(10億円-5億円)×4%+(12億円-10億円)×3%=2500万円+2000万円+600万円=5100万円
となります。
料率は、アドバイザーによって異なることはほぼありませんが、料率をかける元の金額となる「取引額」の定義は、アドバイザーによって異なります。
「取引金額」の定義は、「移動総資産」の場合と「譲渡価格」の場合があり、この違いによって成功報酬の金額に大きな差が生じるため、契約前にどちらを採用しているか確かめることが重要です。
例えば、
総資産16億円、総負債10億円、純資産6億円で株式譲渡価格6億円のM&Aが成立した場合を例として、
・「取引金額」を「移動総資産」という契約の場合、
5億円×5%+(10億円-5億円)×4%+(16億円-10億円)×3%=2500万円+2000万円+1800万円=6300万円
・「取引金額」を「譲渡価格」という契約の場合、
5億円×5%+(6億円-5億円)×4%=2500万円+400万円=2900万円
となり、2倍以上の開きが生じますので、注意を要します。
アドバイザーを選定するにあたっては、上記注意点を十分に踏まえた上で、自社のニーズにあった形態を選択し、適正な金額で依頼することが重要です。
そして、当該判断を適切にするためには、案件ごとに自社のニーズ、すなわちM&Aの目的、自社の成長戦略の中での本事案の位置づけ、期待するシナジー等を明確にすることが必要不可欠であり、かつ、当該ニーズを明確にアドバイザーに伝え、緊密なコミュニケーションを取ることが大切です(自社のニーズの明確化の重要性については、別稿で触れさせていただきます)。
逆に言えば、上記のようなクライアントのニーズを詳細にヒアリングしないアドバイザー、コミュニケーションと取りづらいアドバイザーは不適切です。
フォーカスクライドグループは、株式会社FCDアドバイザリーが「アドバイザー」を担当し、税理士法人フォーカスクライド「財務・税務」を担当し、弁護士法人フォーカスクライドが「法務」を担当し、グループであるがゆえに、それぞれの専門家が初期段階から緊密に連携を取り、適切かつ迅速に対応することが可能です。
M&Aをするかどうかを検討中の段階でも結構ですので、M&Aにご興味がある経営者の方はご遠慮なくお問い合わせください。
執筆者:佐藤 康行
弁護士法人フォーカスクライド 代表弁護士。
2011年に弁護士登録以降、中小企業の予防法務・戦略法務に日々注力し、多数の顧問先企業を持つ。
中でも、人事労務(使用者側)、M&A支援を中心としており、労務問題については’’法廷闘争に発展する前に早期に解決する’’こと、M&Aにおいては’’M&A後の支援も見据えたトータルサポート’’をそれぞれ意識して、’’経営者目線での提案型’’のリーガルサービスを日々提供している。