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M&Aとは、「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略語であり、会社法に定める組織再編(合併)や会社分割に加え,株式譲渡や事業譲渡を含む,各種手法による事業の引継ぎ(譲り渡し・譲り受け)をいいます。
近年では、中小企業の事業承継の手法として「中小M&A」が活発になっており、経済産業省中小企業庁財務課が2020年3月31日に公表した「中小M&Aガイドライン」においても、2029年頃には官民合わせ年間6万件のM&Aを目標として掲げられております。
このように中小M&Aが活発になりつつも、大切に創り上げてきた会社を第三者に「売る」ことに躊躇される中小企業経営者は数多く存在します。
その背景には、M&Aが人生で一度あるかないかの重要な局面であるにもかかわらず、
・M&Aって、そもそもどうやって進められるのか?
・誰に相談すれば良いのか?
・どの程度の時間がかかるのか?
・どのような場合にトラブルになりやすいのか?
など、経営者にとっては初めてでわからないことが多く、またM&Aを実際に経験した方の中には大変苦労したという声が多数存在することにあると思われます。
そこで、以下では、M&Aを行う上で経営者が最低限知っておくべき事項を解説させていただきます。
まずは、M&Aの大きな流れを理解しておく必要があります。
M&Aは、以下のとおり、大きく3つの段階に分かれます。
プレM&A → エクセキューション(案件実行) → ポストM&A
まず、「プレM&A」とは、事前準備からマッチングが成立するまでの段階を指します。
この段階は、一般的に、
①意思決定 → ②アドバイザーの選定及び契約締結 → ③簡易バリュエーション → ④買い手の選定(マッチング)と進みます。
いつ買い手候補者が現れるか否かは読むことが難しく、プレM&A段階で要する時間は案件ごとに様々です。
次に、「エクセキューション(案件実行)」とは、マッチングが成立した後からクロージングまでの段階を指します。
この段階では、一般的に、
①守秘義務契約(「NDA」又は「CA」と略されることが多い)の締結 → ②初期的検討 → ③基本合意書の締結 → ④デューデリジェンスの実施 → ⑤最終契約締結 → ⑥クロージングと進みます。
中小M&Aの場合、案件実行段階に進めば比較的スピーディに進むことが多く、マッチングからクロージングまで、早い場合には2か月程度、遅い場合でも6か月以内には完結することが多いです。
最後に、「ポストM&A」とは、クロージング後の段階を指し、M&A実行後における事業又は企業統合に伴う作業をいいます。
一般的に「PMI」と言われています。
とりわけ、買収側はクロージングしてからが本番と言われるほど、この統合作業をいかに上手く進められるかが、M&Aの成功を左右することになります。
M&Aに興味を持った経営者の中には、売り手側の場合であれば「自社がいくらで売れるのか?」ということにばかり気を取られ、また買い手側の場合であれば「何か良い案件があれば」というように曖昧にしか考えていない経営者も多々見受けられます。
しかし、売り手にとっても、買い手にとっても、M&Aの成立自体は一通過点に過ぎず、ゴールではありません。売り手側は、バイアウトした後も人生が続きます。バイアウト後のビジョン(=ゴール)を実現できて初めてM&Aが成功したといえます。また、買い手側は、クロージングがむしろスタートであり、そこから企業統合・事業統合が始まり、当初想定していたシナジーを生み出して(=ゴール)初めてM&Aが成功したといえます。
そこで、まずは「ゴール」を明確に設定し、その「ゴールから逆算」して、事前準備を行うことが重要になってきます。
売り手側の場合、例えば、バイアウト後の第二の人生プランから逆算して、「いつまでに」「いくら」の手元資金が必要なのかを試算し、そこから逆算して最低売却希望価格を算出する必要があります。そして、当該最低売却希望価格を前提に、交渉開始価格や初期の情報の出し方等の戦術を検討したり、当該価格を正当化する財務諸表の有無、バリュエーションの検討、またDDに耐えられる管理体制の有無等を検討しなければなりません。
買い手側の場合、例えば、M&Aの目的(新規事業の立上げ、既存事業の拡大など)から逆算して、買収により期待するシナジー(ゴール)の具体的内容を明確にし、買収希望条件の明確化と優先順位付けを検討しなければなりません。そして、このゴールの明確化の作業が、限られた時間と予算の中でメリハリのある効果的なDDを実施するためにも非常に重要になってきます。
企業価値や事業価値の算定(バリュエーション)手法には、複数の考え方があり、いずれの考え方に依拠するかによって結論が変わってくることが多いです。そして、初期段階のバリュエーションが、その後の交渉にも影響を与えることになるため、非常に重要になってきます。
また、売り手にとっても、買い手にとっても、M&A資金は少額ではないことが多いため、その支払い方によって、いくらの税負担が生じるかも異なってきます。
このような事項は、財務・税務の知識が必須となるため、税理士や会計士とスムーズに連携できることが、M&Aの成功には欠かせないことになります。
また、前記(3)とも関連しますが、M&Aスキームを構築するにあたっては、法的知識も必須となります。さらに、基本合意書や最終契約書の内容をまとめる際の駆け引きは、高度な交渉技術を要することがあります。
そのため、法律の専門家であり、交渉のプロでもある弁護士とスムーズに連携できることも、同様に、M&Aの成功には欠かせないことになります。
弁護士、税理士・会計士の選定と同程度以上に重要なポジションがアドバイザーである一方で、アドバイザーの選定には、士業の選定以上に注意しなければならない事項があります。
この点については、別稿で解説させていただきます。
以上のとおり、M&Aを行う上で、まずはどのような流れでM&Aが進んでいくのかの全体的なイメージを把握していただいた上で、初期段階から、アドバイザー、税理士・会計士、弁護士とスムーズに連携できる体制を整え、しっかりと事前準備を行っていくことが重要です。
フォーカスクライドグループは、株式会社FCDアドバイザリーが「アドバイザー」を担当し、税理士法人フォーカスクライド「財務・税務」を担当し、弁護士法人フォーカスクライドが「法務」を担当し、グループであるがゆえに、それぞれの専門家が初期段階から緊密に連携を取り、適切かつ迅速に対応することが可能です。
M&Aをするかどうかを検討中の段階でも結構ですので、M&Aにご興味がある経営者の方はご遠慮なくお問い合わせください。
執筆者:佐藤 康行
弁護士法人フォーカスクライド 代表弁護士。
2011年に弁護士登録以降、中小企業の予防法務・戦略法務に日々注力し、多数の顧問先企業を持つ。
中でも、人事労務(使用者側)、M&A支援を中心としており、労務問題については’’法廷闘争に発展する前に早期に解決する’’こと、M&Aにおいては’’M&A後の支援も見据えたトータルサポート’’をそれぞれ意識して、’’経営者目線での提案型’’のリーガルサービスを日々提供している。